手記1 押しかけ弟子
ドアを開けた途端、二人の子どもが飛び込んで来た。
「クラージュ・アム・ピュルガトワール様!師匠様!」
「長い、クラージュで良い。あと、お前たちは誰だ。」
「えぇえ~!私たちのことをお忘れですか!?」
齢9歳といった所か。容姿が似通っているので、恐らくは双子だろう。
「弟子を取った覚えはない、帰れ!やかましい!」
「おっかしーなぁ~、協会から手紙が来ている筈なんですけど…。」
「うわぁ、美味しそうな匂い!…僕たち、朝から何も食べてないんだよね。」
双子の腹の虫が暴れる音が家中に響いた。
うーん、仕方がない。袖触れ合うも他生の縁。
インディアンも言うじゃないか、子ども達と会話をするなら食事中に…と。
私を師と呼び、家に押しかけタダ飯を喰らう事情をタップリと聴かせてもらおう。
「こんな具沢山のシチュー初めて食べた。」
「ううっ、グズッ、ズビッ」
「コラ、泣くな大仰な。食卓が汚れる。ほれ、このタオルを使え。」
「ズビーッ!!」
「ええい!静かにせんか!」
「…ズピー……」
こんなに騒がしい食卓は久しぶりだ。
鬱陶しい様な、楽しい様な時間があっという間に過ぎた。
訊きだした情報を要約してみることにする。
兄の名はオシリス・ドラゴンテイル・パストゲイザー、妹がイシス・ドラゴンヘッド・フューチャゲイザー。
協会から貰った名だという、役割が分かりやすくて結構だ。
因みに私の名前も協会から貰ったもので、本名は別にある。
なぜ本名を名乗ってはいけないのかと双子に訊かれたが、理由は追々説明することにしよう。
彼らは霊害孤児だ。つまり、悪霊に肉親や親族を奪われ孤児となった子どもである。
孤児院の審査で灯台守としての素質が有ると診断が下った二人は、全国灯台守協会の案内に導かれるまま少しばかりの荷を持たされ、コチラに送られたらしい。
「体の良い口減らしってやつか…。」
ふと協会からの手紙云々の下りを思い出し、山積みになっている書類を漁ってみた。
朱色の封筒に金の蝋封、この如何にもな装飾は…
「ああもう、今日は疲れた。明日ゆっくりと読むことにしよう。」
気付いたら、双子は仲良く舟をこぎ始めていた。
全く、ただ飯食らいも今日までだ。明日からキッチリ仕事をしてもらおう。