標題紙 帰ってきた灯台守
鬱蒼と生い茂る森の中にある小さな小屋、ここは私の安住の地だ。
隠居をしている訳ではない、どちらかと言えば仕事の為に住みついている。
事の始まりは、一枚の求人ポスター。
今にも剥がれ落ちそうなソレは、必死に掲示板にしがみついているのだった。
≪森の灯台守、募集中!定員:1名【時給:820円】TEL:xxx-xxxx≫
安い!…第一声がコレだ。
しかし、今は仕事をえり好み出来る身分ではない。
切実な話、私には金が必要だった。
親の稼業である灯台守を継ぐことを拒み、普通に生きる決心をした。
しかし、普通に働けば今度はアトピー性皮ふ炎や蕁麻疹、喘息に悩まされる。
衛生上の問題で最悪クビ、若しくは治療の為に退職届を出さざるを得ない状況になるのだ。
もし、森で暮らせたなら…
職を得られること以上に、病気の改善も望める。
私の指は、何の迷いも見せずに手のひらサイズの液晶を滑ったのであった。
ところで、灯台守とはどんな仕事か。
つまるところ森に住みつき、森を管理し、森に迷い込んだ霊魂を浄化する仕事だ。
寺の坊主ライトバージョンと言ったところだろう。
この世界の霊魂は、時間が経てば経つほどに実体化や憑依をする能力が強くなる。
故に、放置しておくことは大変危険なのだ。
「昔の霊魂は、せいぜいチラリズムで人を怖がらせるだけの存在…だったのだけれどもなぁ。」
暖炉で煮え立つ鍋に、森で収穫した野菜や茸などを入れる。
この瞬間が、何よりの至福…
『バンッ!バンッ!バンッ!』
「チッ」
来客だ。
これから楽しいディナータイムだと言うのに、一体何事だろうか。
仕事の依頼かもしれない…
あまり良い心地がしないので、ゆっくりと扉に向かう。
「あ~い…」
尚も激しく叩かれる扉、開けるには少々気が引けた。
だがしかし、ここまで激しく叩かれては先に扉が壊れてしまうかもしれない。
それは困る!私は急いで錠を外した。