ダンジョンの定番
精霊武装した杖を手に、『念話』で話しながら地下4階への階段へ向かう。
《わかばちゃん、階段の場所はわかる?》
《解るよ、このまま少しまっすぐに歩いて、左手に水が流れている場所を曲がるの》
なんでも、地下4階へと続く階段の近くには、泉があって、その泉から湧き出た水が地下5階へと流れているそうだ。
しばらく道なりに進むと、足元から『ペチャ』って、ぬかるみに踏み込んだ時のような音がした。
《もう少ししたら、左側に通路があるからね》
わかばちゃんの言葉に気を付けながら進む。
《ハル、通り過ぎてる。》
おっと、気を付けていたけど、見逃した・・・。
ちょっと戻ったけど、道があるようには見えない。
杖を前に出したら、空間があるのがわかった。
わかったけど、真っ暗のため進む気になれない。
《『優しき光の力、集え、ライト』って言ってみて。》
わかばちゃんが、僕のためらいを見てなんか変な呪文みたいなものを教えてくれた。
・・・けど、さすがに恥ずかしいよね。
どうしたものかと、悩んでいると、最初の2つは心の中で、実際に声に出すのは『ライト』だけで、良いそうだ。
それぐらいなら、照れずに言える。
「ライト」
杖に先がぽわって光って、ぼんやりと道が続いているのが見えた。
目印がないと、どれぐらい歩いているかわからないよね。
なんとなく、道が曲がっている気がするなぁと思いながら歩いていると、階段のような石段があった。
石段を上ると、目の前に緑の壁。
わかばちゃん、これ本当に正規ルート?
緑のカーテン?をかき分けて進むと、突然広場に出た。
横には泉もある。
泉の横にある、緑の茂みの中から出てきたようだ。
・・・わかばちゃん、これ絶対に正規ルートじゃないよね。
わかばちゃんによれば、この泉の水は飲めるそうだ。
手にすくって一口飲んでみる。
! めっちゃ旨い。冷たくて旨い。
僕だけ飲んでいるのが悪い気がして、武装解除した。
「わかばちゃん、ここから地下3階へ続く階段はわかる? 今度は人族が通る道でお願い。」
「解るよ。人族が通る道なら『ライト」もいらない。」
・・・やっぱり、正規ルートあるんだ。
もう一度、精霊武装して歩き出した。
明るくて、湿っぽくなくて、歩きやすい。
《わかばちゃん、どうしてさっきは裏ルートを教えてくれたの?》
《? さっきの道は地下4階へ続く階段の一番近道。それに歩きやすいから。》
精霊的には、歩きやすいんだ。
《僕的には、こういう道の方が歩きやすいけどね。》なんて話していたら、右斜め後ろの茂みが、ガサガサ言い出した。
振り向いた僕が見たものは・・・。
顔と同じぐらいの、蜘蛛でした。
《ハル、モンスターだよ。精霊武舞で倒そう。》
「わー、無理 無理 無理」
わかばちゃんが何か言っていたけど、無視して走り出した。
一刻も早く視界から消し去りたくて、曲り角を右に左に進んでいたら、ぶつかった。
ぎょっとしたけど、男の子だった。
・・・よかった。いや、よくないか。
「ごめん、ちょっと急いでて・・・。大丈夫?怪我はない?」