第9話『まさか下見の度に着替えてる?ワシは死にたい』
今日はあんまり怖くないです。涙してください。
霊能者、道明寺輪。ギルじい達は彼女の事務所にお邪魔した。
「いらっしゃ〜い。どうぞどうぞ〜〜。あ、そこのソファ座って!」
2人がけのソファがテーブルを挟んで2個配置されている。5人で来ているため、一人分足りない。
「あぁ〜〜っと、1つ足りないね…。まぁいいや、君そっち立ってて!」
「あ、え?おれ?」
結果、何故か高木だけ立たされることに。道明寺は自分のデスクの椅子を引っ張ってきて、高木に勧めることもなく腰掛けた。
「よし!それじゃあ、どんな用件でここへ来たのか、話してもらおっかな」
道明寺が手をパンッと叩き、早速本題に入ることに。高木は昨夜自分たちに起きた出来事を全て話した。
「…と、そういうわけなんです」
「なるほどぉ〜。君たちのお友達が、白い靄の何者かに連れて行かれた…と?」
「…はい」
「だからぁ、私のとこに来てぇ〜、助けてもらおう〜〜…と?」
「…ええ」
「ふぅ〜〜ん」
「……」
「自業自得じゃない、そんなのぉ〜」
「え!?」
道明寺のあっけらかんとした態度にその場にいた全員が驚いた。
「こういうのはやっちゃいけないんだよぉ〜〜?心霊スポット行ったり〜、都市伝説確かめたり〜、その類の事を遊び半分でやっちゃうと霊を怒らせちゃうんだからぁ〜」
道明寺が横に立つ高木に、顔を近づけて説教じみたことを言い始めた。
高木が申し訳なさそうに目を逸らすと、道明寺はしょうがないなぁ〜といった表情を見せた。
「まぁ、でも話を聞いた感じだと、あまり時間もかけてられないかもね?下手したら2度と戻ってこれなくなるよ。その、志場宗太くん」
「え!?」
西野が青ざめた表情に変わり、道明寺の顔を下唇を噛み締めながら見つめてきた。
見かねた道明寺は西野に顔を近づけ、ニコッと微笑んだ。
「だいじょ〜ぶっ。ちゃんと取り戻してあげるから」
西野の口が少し緩んだ。
再び道明寺がパンッと手を叩き、椅子から立ち上がった。
「じゃ!その音楽室の下見、みんなで行こっか!」
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ミーンミミミミミーーーーン。
蝉の鳴き声が止むことなく聞こえてくる中、学園の正門に制服で仁王立ちする道明寺。その姿を少し離れた位置から見る一同。
「…なんで、制服?」
西馬が苦笑いでボソッと呟くと、
「いつまでも若くいたいんだろ?たぶん…。ああいうのが、正直一番しんどい、」
「なんか言ったぁ〜?ん〜〜?」
思わず本音をこぼした高木に、道明寺が狂気の笑顔で振り向いた。
「な、なな、な、なんでもないです…!」
高木が本気でビビった。その様子を見た全員が口を慎んだ。珍しくギルじいも含めて。
「さっ!入るよ!」
構わず前進していく道明寺に、全員黙って着いてった。
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「フンフンフ〜〜ン♪」
ご機嫌に鼻歌を歌いながら廊下を歩く道明寺。だが、3階まで上がって来て、急に立ち止まった。
「ん?どうしたんじゃ霊能者?何か感じ取ったか?」
ギルじいが後ろから質問をするや否や、道明寺は人差し指を眉間に当てて目をつぶり始めた。急に空気が凍る。ついに来たか…といった面持ちで皆んな構える。
すると、道明寺がクルッと振り返り、口を開いた。
「ちょっとお花摘みにいってきます!」
ドーン。
「ドーンじゃねぇ!!勝手に行けぇ!トイレぐらい!」
ギルじいが思わずツッコミを入れる。道明寺はそそくさとトイレに走っていった。
「はぁ…。本当に大丈夫かいな、あの女?詐欺師なんじゃないか?」
ギルじいが疑いの目を向ける。そこにいた全員がギルじいと同じことを思っていた。
「お待たせぇ〜〜。それじゃ、4階行っちゃおっかぁ〜〜」
呑気に戻ってきた道明寺に内心イラッともしたが、ギルじいは黙って階段を上った。
そして、ついに例の音楽室に到着。ガラガラガラっと扉を開けるや否や、道明寺が部屋の中をキョロキョロと見回す。先程とは打って変わって真剣な表情をしている。
「お昼には何もして来ないようねぇ。これなら静かに下見出来そう。ふふ」
道明寺が不敵に笑みを浮かべる。何事もなく部屋に入り、部屋中をぐるぐると歩き始めた。すると、ある方向を見てピタッと止まり、その一点をジーッと見つめる。
「これは、やばいねぇ」
特にまだ場所を教えていないにも関わらず、白い靄の出た場所を見て道明寺が口を開いた。高木、西馬、西野の3人はお互いに目を合わせ、口を開けながら道明寺に視線を移す。
「高木く〜ん。ここで連れてかれたぁ?志場くんってぇ」
「あ、はい!そうです!…そこで、黒い渦の中に…」
「ふぅぅ〜〜〜ん…」
何も言わず、ただただ頷く道明寺。天井を見るとそこには元々アンプが着いていたのであろう金具が撤去されずについていた。しばらくすると、フッと表情が柔らかくなり、皆んなの方を振り向いた。
「うん、おっけ。じゃあ一旦事務所に戻ろぅ〜!」
そう言って、部屋を後にする道明寺に着いて行き、一旦事務所に戻って仕切り直し、夜にまた訪れるということになった。
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夕方、事務所にて。
再び高木だけ立たされながら、説明を聞くことに。
「で、何があったんじゃ?あの教室には」
「う〜〜ん、まぁ、まずあの部屋にいる者が何者なのかを説明するねぇ〜。実はね、あの部屋にいるのは物凄い力を持った悪霊なの。元々何年か前にあの学園の生徒だった女の子の怨念が、好きな男の子を何がなんでも独占したいという強い想いから悪霊化したんだと思う。好きな男の子に想いが届かないもどかしさから自暴自棄になって音楽室で首を吊って自殺した。そんなとこかな」
「…でも、なんで音楽室?」
西野が疑問を投げかける。すると、道明寺がその疑問に答えた。
「それはね…、音楽室が4階の一番奥、つまり人気の無い位置にあって自殺を邪魔される可能性が低い。それが、音楽室を自殺の場所に選んだ理由」
「いや、音楽系の部活動入っててぇ〜、コンクール出て告白してぇ〜…とかそんな感じの理由じゃないんかぃ!」
ギルじいがまたツッコミをいれてしまった。それに対して道明寺は、
「そんなドラマみたいな青春ばかりが自殺の理由とは限らないから」
真顔で論破した。
ギルじい、なんか寂しくなっちゃった…。
「黒い渦が出たところがまさしく彼女が自殺した場所。天井に元々アンプが吊るされてたであろう金具があったんだけど、あれに紐を括り付けて首を吊った。それからあの場所には、彼女の独占欲が生み出した黒い渦、つまり彼女のためだけの世界を作り出し、そこに立っている人を誰彼構わず引き込もうとしてる。だからそこに立っていた西野ちゃんを最初に引きずり込もうとしてたってわけ」
それを聞いた西野が肩を落とす。
道明寺は構わず話を続けた。
「で、ピアノが鳴ったり物が勝手に飛んできたりっていう現象は、彼女の『私の独占の邪魔をするな』という想いが、強い霊気となって音楽室中に広がってたってわけ」
ようやく道明寺は説明を終え、一息ついた。時計を見ると、もうじき日が暮れる時間。いつもの巫女服を手に持ち、制服姿の彼女はトイレの方に歩いていく。
すると、ピタッと足を止め、皆んなの方を振り向いた。
「私が着替えたら出発するよぉ〜。あと、ひとつ言っとくけど、私、仕事はきっちりこなすタイプだから」
「…っ!」
この時、あれほど疑っていたギルじいが初めて、道明寺の内に秘める膨大な戦闘力を感じ取った。