第8話『音楽室の噂。ワシは死にたい』
怖いです。涙してください。
夏真っ只中。
夜にも関わらず蒸し暑さが身体にジワジワと響く。そんな中、とある学園では肝試しが行われていた。
4人の男女がカメラを回しつつ、校内の中を散策している。
4人はこの学園に通う高校2年生。一夏の思い出にと真夜中の学校に侵入し、この学園に伝わる都市伝説を確かめに行くと、ほぼほぼノリで決まってしまった。
その都市伝説のある場所は、学園の最上階、4階にある音楽室である。
放課後、誰もいない時間にピアノの音が聞こえてきたり、物が動いたり、中には人の形をした白い靄に襲われかけたと言う学生もいる。
学校側がその話を聞いてお祓いをしたとも言われているが、完全に除霊などがされたのかは誰も分からない。そういった理由から、今回4人の学生が確かめに来たという。
「よし、3階の部屋は全部見たよな?」
懐中電灯を手に持った黒髪の男子学生が確認をとる。彼の名は、志場宗太。2年B組のリーダー的存在。甘いマスクとノリの良さで、学園内での人気も高い。
「うん、見た見た!でもどの教室も特に変わったことは無かったけどね」
茶髪でくるくるとカールした髪が特徴の女子学生が答えた。
彼女の名は、西馬美姫。志場と同じ2年B組。学年のおしゃれ番長とも言われている。
「じゃ、例の4階、行っちゃおうか」
カメラを持った、茶髪でツンツンヘアの男子学生が率先して階段を登り始めた。彼の名は、高木麗音。2年A組で志場とは違うクラスだが、最も仲の良い友人だ。よく授業をサボってカラオケに行っていることがある。
「え〜、本当に行くのぉ?」
黒髪ストレートの女子学生が後ろで立ち止まる。彼女の名は、西野沙織。成績は常に学年トップ。綺麗な顔立ちで1年の頃にはミスにも選ばれたほどの美人。だが、連んでいるメンバーが皆んなチャラついていることから、少し遠い目で見られることもある。
「大丈夫だって。どうせいつも音楽の時間に行ってるんだから、何も大したことねぇよ」
「そうだよ沙織!お〜ば〜け〜とか出てきたら、持ってきた塩かければいいんだしさ!」
高木と西馬がそんな事を言っているが、心なしかはしゃいでいるだけに見える。
しかし、せっかくここまで来たのに、何の収穫もないまま帰るのも、なにか味気ない。なので、志場がポンッと西野の背中を押した。
「都市伝説があるとか言ったのはお前だろ?ほら、行くぞ」
「…えぇ〜〜」
西野は仕方なく階段を登り、前を歩く3人の背中に着いていった。
しばらくして、4階の教室を見終えた。残るは例の音楽室。4階の一番奥に位置するため、不気味な雰囲気が更に高まる。
「…ここ、だよね」
「…うん」
音楽室の入り口前に4人で立ち止まる。
「西馬、ちょっと見てこいよ?」
「はあ!?あんたが行きなさいよカメラ持ってんだから!」
「カメラは一番後ろだろ、普通!」
「じゃあ志場行ってきて!懐中電灯持ってるし」
「はぁ?普通に入りゃいいだろ〜、こんなん」
何かと他人に押しつけてくる西馬と高木に苛立ちを見せる志場。仕方なく先頭に立って中に入ることにした。
ガラガラガラ…。
「失礼しまぁす」
入り口から見た感じでは特に変わった様子はない。妙にシーンとしているが、それ以外はいつもの音楽室だ。そぉ〜っと中に入る。
ギシ…ギシ…。
歩くたびに木の床がギシギシと音を立てる。
「うわぁ…、夜の音楽室ってこういうのが不気味なんだよなぁ…」
高木がバッハやベートーベン等の有名な作曲家の写真を見て身震いした。
「このピアノが鳴るんだよね?たしか」
そう言って、西馬がピアノに近づいた。と、その時…。
ダダダァァーーーーン♪♪♪
ピアノが勝手に低音を鳴らし出した。
「きゃぁぁ!!」
すぐ側にいた西馬は驚いて悲鳴をあげる。周りも驚いてピアノの方を振り向く。
「なんだ急に!?西馬お前か!?」
「違うよ!!私じゃない!!ピアノが勝手に…!」
「そ、そんなことあるわけ…」
高木が疑いつつピアノに近づこうとした、その瞬間…!
フゥウォーン!!
「うわぁっ!!!!」
突然、誰もいない方向からシンバルが風を切るように飛んできた。
「なんだよコレェ!?」
ギリギリで交わし、高木は床に落ちたシンバルに向かって怒鳴りつける。
すると、志場が妙な気配を感じ取った。
「なんだ…?……この感じ」
ふいに西野のいた方向に目を向けると、志場は目を丸くした。
「は…!西野ォ!後ろ!」
「えっ…!」
驚いた西野が後ろを振り向く。
すると、そこには人型の白い靄が立っていた。白い靄が手を伸ばし、目の前の西野を捕らえようとしている。
…まずいっ!!
直感でそう思った志場は、急に飛び出して西野の肩を思いっきり押した。
「っ!!」
押された西野はそのまま横に倒れ、志場だけが白い靄に捕まった。
「くっ!」
解こうにも思いの外、靄の力が強く、そのまま黒い渦の中に引きずり込まれていく。
「や、やばいぞ!志場ァァ!!」
高木が急いで手を伸ばし、志場の手を掴もうとするも、ズルズルと物凄い速さで引きずり込まれ、志場はあっという間に渦の中へ入っていった。
「志場ァァ!!!」
「…っ!!!」
「…志場…くん」
高木は膝をつき、西馬は身体が動かない。そして、助けられた西野は座り込みながら身体中が震えていた。
「くそ!…なんだよこれ!!」
高木は床をドンッ!と殴った。
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次の日の朝。
この暑さの中、家のクーラーが壊れてしまった小林がギルじいの家に来ていた。
「あぁぁ〜〜〜〜。涼しいですねぇ〜、長命さんのお部屋」
「なんでお前がワシの家のクーラーで涼みに来とるんじゃコラ」
「いいじゃないですかぁ〜、外すごい暑いんですもん」
「海行け。それかプール」
「遠いから嫌ですよぉ…」
「お前の家を殴り飛ばして、ワシの家から離れさせるぞ!?」
ギルじいはイライラしながら、新聞を開く。すると、そこには『巨大兵器、人々を恐怖に』という見出しがあった。あれから既に1週間が経ったが、どこから現れたのか等の詳しい情報はまだ分かっていない。アカ市とサタ市のほぼ半分が壊滅。更には負傷者と死亡者が大勢出たとの情報も。これでも被害は最小限に抑えたとの事だが、被害の大きさは隠しきれない。街の復興作業も行われているが、おそらくまだ数パーセントも進んでいないだろう。
「長命さんは、特に何も無かったですか?ケガとか」
「ああ。ワシは特に何も無かった」
そう言ってギルじいは新聞をパラパラと流し見をしていると、トントントンッと戸を叩く音が。
ガチャ…。
「はい…?」
ギルじいが扉を開けると、目の前には3人の学生がいた。
「高木です」
「西馬です」
「西野です。長命スギルさん!助けてください!」
急に名乗り出すなり、一番先頭に立つ女子高生が頭を下げ始めたので、ギルじいは頭の上にはてなを浮かべた。
「なんじゃお前ら?急に何を助けろっていうんじゃ?」
ギルじいが困っていると高木が説明を始めた。
「実は俺たち、近くの高校に通ってるんですけど…、夜中に校内で肝試ししてたら、音楽室で友達が消えちまったんです」
「なんじゃいそりゃあ?」
ギルじいの表情が呆れ顔に変わる。
「それで、幽霊か何なのかは知らねぇけど、最強と言われてるアンタなら何とかしてくれるんじゃねぇかって思って…」
「何とかって…、ワシは霊能者じゃないぞ」
初めての案件にギルじいが困り顔を浮かべる。すると、後ろから小林が顔を出した。
「長命さん。話は聞かせてもらいましたぜぃ」
「なんじゃその喋り方?」
「ちょうど新聞の広告にこんなん載っていやしたぜぃ?」
誰だよそのキャラと言いたくなるようなキャラで喋り出す小林が新聞を広げ、その広告を見せてきた。
『悪霊、妖怪、その他諸々、なんでも私が払ってみせます!道明寺輪』
広告を見るなりギルじいは眉をしかめる。
「胡散臭すぎじゃろ…。なんじゃこの広告」
「でも長命さん、幽霊とか退治できないですよね?…となると」
「…はぁ。行ってみるかぁ、一応…」
疑いつつも、小林に押されて仕方なく行ってみることになった。
「すまんなお前たち。ワシに霊感は無いから他に頼むとしよう。ほれ、行くぞ」
ギルじいは学生3人を連れて、家を後にした。
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「フンフンフ〜ン♪」
少し薄暗く、部屋中にお札が貼られた部屋。その奥にある机の上に腰掛けながら、1人の女性が鼻歌を歌っている。手には携帯型ゲーム機を持ち、ピコピコとアクションゲームをプレイしている。すると、落とし穴にはまり、ゲームオーバーになった。
「ぁああん!んもぅ、そこで死ぬぅ?普通ぅ」
彼女の名は、道明寺輪。23歳の霊能者。黒髪ポニーテールで目はぱっちり二重。左目の下にある小さなホクロが特徴的で、身に纏っている巫女服が目に眩しい。
コンティニューして、再びゲームを始める。と、その時、ピーンポーンと事務所の呼び鈴が鳴った。
「う〜〜ん、ちょっと待ってくれぇ〜」
ゲームに夢中で全く出ようとしない。
そこで、2度目のピーンポーンが鳴る。
「ん〜、もうちょっとだから待ってぇ〜〜」
3度目のピーンポーン。
「あ〜〜あ〜〜あ〜〜」
4度目。
「だ〜〜か〜〜ら〜〜」
5度目。
「今行くからもうちょっと待ってってばぁ〜〜〜〜〜」
6度目は連続でピンポピンポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピーンポーン!!!!!!
「あぁぁ〜〜〜ん、んもぅ!分かったぁぁ!!」
プレイ中のゲームを机の上に置き、小走りで入り口に向かう。
ガチャっと扉を開けるとそこにはギルじい、小林、3人の学生が立っていた。
「なんじゃ、思っていた以上に若いのぉ」
ギルじいの一言に道明寺がニィっと笑った。
「なにアンタたち?わたしのファン?」
この一言で、この女が調子のいいやつだと全員が悟った。