第2話『伝説とか知らん。ワシは死にたい』
今回は伝説を語ります。涙してください。今回も泣けるシーン無いですが。
“めちゃくちゃ強い100歳”ギルじい。一言で強いと言ってもイメージが湧かないと思うので、今回は彼の作ってきた幾つかの伝説を簡単に説明しよう。
これはギルじいが50歳の頃の話。
会社帰りに自宅へ向かって歩いていると、たまたま反対側から一人の若者が歩いてきた。その時、若者の目の前に犬のフンが落ちていたが、若者は気づかずに踏んづけてしまった。
「うっわぁ!」
若者が驚いた拍子に犬のフンで足を滑らせ、フンの付いた足が空に向かって高く上がった。その瞬間、若者の足からフンが飛び散り、向かい側にいたギルじいの鼻に見事に乗っかった。
「うっ!くっすぅえぇぇぇええぇぇええぇえぇえええぇ!!!!!!!ぶふぉぉ!!!ぐへええでえええぇえぇえ!!!!」
あまりの臭さに飛び上がったギルじいは、そのまま体勢を崩し、コンクリートの地面におもいっきり頭をぶつけた。
「ぬっっ!!!」
その衝撃でギルじいの脳のリミッターが解除され、ギルじいの奥底に眠る真の力が惜しみなく解放してしまったのだ。
「ううおぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
ギルじいはシュバッと立ち上がり、体全体に黄色い覇気を纏って雄叫びを上げ始めた。若者は驚きのあまりその場から逃げ出してしまったが、ギルじいはしばらくその場で覇気を纏わせて叫び続けた。
これが後に、『人間が限界を超えると、しばらく怒りを忘れて雄叫びを上げる。あと臭さも忘れるようだ伝説!!!』として語り継がれるようになった。ちなみに、ギルじいもこの出来事を機にめちゃくちゃ強くなった。
続いてはギルじいが60歳の頃の話。
ある日銀行に極悪な強盗団が押し寄せ、100人近くの人質を取られてしまうという事件が起きた。大勢の警察官が銀行の周りを包囲しながらも手が出せないという状況を、マスコミによって全国に中継され、この絶望的な事態に日本中がもうダメだと諦めかけていた。
この時ギルじいはたまたま銀行に来ていたため、100人の人質の中の一人となっていた。
「これから人質を一人ずつ殺していく!」
強盗団の一人がそう叫ぶと、目の前にいたギルじいが最初のターゲットとなった。強盗はギルじいの首根っこを掴み、銀行の入り口まで引きずり出した。
「ほぅ、ワシもとうとうここまでか」
銃口を頭に押さえつけられ、さすがのギルじいも諦めかけた。
バァァン!
引き金を引き、ギルじいの頭は銃弾に貫かれた。…かに思えたが、ギルじいに大した変化は見られない。
全員が目をキョトンとさせ、場がシーンと静まり返る。
銃口とギルじいの頭の間から、ポロッと潰れた銃弾が落ちてきた。
「…え。なぜだ?…確かに頭を貫いて…。え?」
強盗は目を見開いて、ギルじいからジリジリと後ずさる。
対するギルじいは、チラッと背後にいる強盗に目を向け、ため息をついた。
「はぁ…。なんじゃ?殺すならしっかり殺せ、このたわけが」
その後、ギルじいは強盗をデコピン一発で撃退。想像以上に自身がめちゃくちゃ強くなってると気づいたギルじいは、光の速さで残りの強盗全員を撃退し、一瞬にして100人近くの人質を救った。
その後、マスコミに囲まれたギルじいがインタビューで言った一言は「ワシ、めちゃくちゃ強すぎて、光の速さで移動してみようと試みたら、マジで出来ちゃったわい」だった。
これが後に、『ワシ、めちゃくちゃ強すぎて、光の速さで移動してみようと試みたら、マジで出来ちゃったわい伝説!!!』として語り継がれるようになった。ちなみにこの事件を機に、ギルじいの存在、そして強さが世に知れ渡った。
次にギルじいが70歳の頃の話。
地球に初めてエイリアンが襲来した。
巨大UFOから放たれた街1つ崩壊しかねないビームを、ギルじいは偶然出たクシャミによって跳ね返し、エイリアンを一撃で宇宙に追い返した。
これが後に、『花粉の時期に来てくれて良かったね伝説!!!』としてめちゃくちゃ語り継がれるようになった。ちなみに、この未知との遭遇を機にギルじいは自分が花粉症だと気づいた。
さらに次はギルじいが80歳の頃の話。
都心部に、超巨大隕石が落下してきた。
その時ギルじいは、偶然にも落下地点にあるビルの屋上におり、隕石を見上げていたギルじいの鼻の先っちょに巨大隕石がチョコンッと触れた。
その瞬間、巨大隕石がみるみるうちに溶け始め、跡形もなく溶けきってしまった。
これが後に、『鼻の油、拭き取ってたら死んでたかも伝説!!!』として歴史の教科書に載るほどに語り継がれるようになった。ちなみに、この天災を機にギルじいは初めてTゾーンがテカってることに気づいた。
最後にギルじいが90歳の頃の話。
夜寝ていると、ちょっぴり怖い夢を見てしまったギルじいは、驚きのあまり布団から飛び上がり、そのまま太陽に向かって光の速さで飛び立っていった。
もうサヨナラかと世界中がギルじいとの別れを覚悟したその時、太陽の熱で服が燃えてしまい全裸になったギルじいが地上に降ってきたのだ。
ギルじいは何事もなく着地し、家に帰って布団に入ったという。
これが後に、『裸を見られたことがとても恥ずかしかった伝説!!!』として太陽系惑星全体に語り継がれるようになった。ちなみに、この一時の宇宙旅行を機にギルじいは宇宙の神秘に興味を持ち始めた。
以上、これらが、“ギルじい”こと長命スギルが“めちゃくちゃ強い100歳”と呼ばれるようになった由来なのである。