第15話『熱く冷たい夜。ワシは死にたい』
夜は寝るのが一番です。涙してください。
『すごいんだよ!ギルじいが隕石を受け止めたんよ!!いや、ホントに!!嘘じゃなくてマジで!!やべぇよ!!』
『ボワァーって凄い燃えてたんですけど、ギルじいが何かやったんでしょうね?火が全部消えて、隕石を食い止めたんですよ』
『ギルじいさんが止めたんでしょ!?凄いわね。いやぁ〜。尊敬します』
街中でのインタビューがテレビで放送されている。
つい昨日、街に突如接近した隕石騒動についてだ。
しかし、それは隕石ではなく、炎を纏った男子高校生だった。
世間にはまだその情報は流れていない。
「何者じゃこの子は」
テレビ放送そっちのけで、保護した男子高校生を見つめるギルじい。
一旦自身の家に連れて帰ったはいいが、一向に目を覚さない。
「かなり燃えとったのぉ。この子の力なのか?」
ギルじいが心配そうに見つめていると、ずっと目覚めなかった男子高校生の瞼がピクッと動いた。
「お。起きたか」
ギルじいが身を少し前に乗り出す。
男子高校生は目を開き、横になったままキョロキョロと辺りを見渡した。
「ここは…?」
まだ状況が掴めていないようだ。
男子高校生は側に座っているギルじいの顔を見た。
「めちゃくちゃ強い…人?」
ぼんやりとした顔で男子高校生は問いかける。
ギルじいはホッと息を吐き、男子高校生の顔を見ながらコクっと頷いた。
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「君、名前は?」
ギルじいは目覚めた男子高校生とテーブルを囲み、ひとつひとつ聞いていくことにした。
「俺の名前は山田レオンハート。クラスの皆んなからは“レオン”と呼ばれてます」
山田レオンハートと名乗る男子高校生はそう答えた。
山田レオンハート。通称“レオン”。15歳の高校生だ。頭に黒いヘアバンドを巻き、服装はワインレッドカラーのブレザーにグレーのチェック柄スラックス。左胸には校章が入っており、所謂学校の制服だ。更に赤いネクタイもしており、全体的に赤の主張が強い。何より、彼は髪の毛も赤い。ほぼほぼ赤だ。
「高校生が燃えながら空飛んでるなんて、普通あり得んぞ。何があった?」
これまで普通にあり得ない異形をなしてきたギルじいが言うのもなんだが、レオンに燃えていた原因を聞き始めた。
レオンは目を薄ら細めながら口を開いた。
「実験です…」
「実験…?」
ギルじいはキョトンとした顔を浮かべる。
「はい。俺もよく分からないんですけど、前に怪しい奴らからこの炎の力を与えられたんです」
「ほぉ」
「急に与えられた力だから、まだ全然思うように使えなくって」
「ほぉほぉ」
「そしたら、そいつらが俺に突然注射を打ったんです」
「注射?」
「はい。そしたら、俺の意思に関係なく全身が燃え始めて…、気づいたらここでした」
「そうか…」
話を聞いたギルじいが眉をしかめる。
恐らく、打たれた注射は力を強制的に増幅させる、謂わば能力増強剤といったところか。
レオンが隕石のように飛んできたのは、一種の暴走状態だったのであろう。
それにしても気になるのは、レオンに力を与えた怪しい存在だ。
奴らにとって意図的な暴走だったのか、それとも暴走は想定外だったのか。
色々と考えが巡るが、今すぐに探れるようなものでもない。
ギルじいはひとまず、レオンにお茶を差し出した。
「ほれ、ゆっくり飲んでけ」
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その夜、賑やかな歓楽街を大文字久秀が歩いていた。
ここは眠らない街とも呼ばれており、深夜2時を回るこの時間でさえ、大勢の人々が行き交い、騒いでいる。
「お兄さーん、どうよ?ウチ可愛い子揃えてるけど入ってく〜?」
大文字にスーツを着たキャッチが絡みにきた。
「間に合っている」
大文字はその一言だけ溢して、その場を去ろうとする。
が、キャッチはしつこく大文字に近づき、馴れ馴れしく肩を組んできた。
「そんなこと言わずにさぁ〜、ね?おっぱいとか好きでしょ〜?」
馴れ馴れしいキャッチに構わず、大文字が肩を払おうとした。
すると、、、
「っ!?」
大文字が妙な気配に気づく。
何か、これまで感じた事の無い、ヌメっとしたような嫌な気配だ。
しつこく誘ってくるこのキャッチではない。
明らかに別の存在だ。
「去れ」
「え?」
大文字がボソッとキャッチに向かって言い放つ。
キャッチは何?といった表情で立ち尽くしている。
「ここを去れ。今すぐにだ」
「いや、急にそんな怒った顔しなくても…」
「去れ!!早く!!!」
「しつこくしてごめんって…。分かった、去るから…」
キャッチが焦って大文字から後ずさろうとした、まさにその時!
ドッパアァァァァァァァアアアアアアン!!!!
「うわぁ!!!!」
道路のマンホールから水が噴き出した。
マンホールの蓋がガンガンと音を立てながら道路に転がる。
ゴポポポポポ…。
飛び出した水は、まるでゼリーのように形を保ちながらニュルニュルと空に伸び始める。
明らかにただの水ではない。
「何者だ…?」
大文字は刀を抜き、謎の水を睨みつつ構える。
ゴポポポポポポポ…。
物言わぬ謎の水は、マンホールから伸び続け、蛇のようにグニャグニャと捻り始めた。
「水そのものが生きてるのか?」
だが、水からは生き物の気配は感じない。
恐らく、マンホールの中からこの水を操る張本人が居るはずだ。
大文字はそう確信すると、刀を横に振り、水をスパッと切った。
だが、水が一瞬真っ二つになるだけで、特に攻撃が効いているようには思えない。
さすがは水。
いや、当然のことか。
大文字は続けて刀を地面に振ろうとした。
ザパァ!!!
だが、水が攻撃を仕掛け、大文字の行動を阻止する。
恐らく、地面を断ち切ろうとした大文字を止め、地下に潜る本体の存在を見せまいとしたのだろう。
「やはり下か」
大文字がニィっと笑うと、水がみるみる内に形状を変化させ始めた。
まるで、巨人の上半身のような形へと変わる。
「うわあ!!!やべぇえええ!!」
大文字にしつこく付きまとっていたキャッチも、思わずその場から少し離れる。
だが、周囲にいた人々は逃げるどころか、徐にスマートフォンを取り出した。
「おおおおおお!!すげぇえええ!!!」
「なにアレなにアレ!?」
「なんかヤバくな〜い!?」
写真や動画を撮りながら、ゾロゾロと人が集まってくる。
大文字と謎の水の周囲を、あっという間に街の人々が囲い込んでしまった。
「お互いやりにくいな?」
ゴポポポポポ…。