第12話『燃えよタコ。ワシは死にたい』
あの時のあいつです。涙してください。
某日。
ある秘密組織の基地内にて、尋問が行われていた。
「…で、そろそろ話す気になったか?」
ガラス張りの四角い箱に閉じ込められた宇宙人を、組織のエージェントが鋭く睨みつける。
「かれこれ3週間は経ったぞ?まだ黙り続けるつもりか?」
彼の名前はアキラ。21歳。組織の若きエージェントだ。
先日、街に突如出現した超巨大兵器モスタンク2000。
その巨大兵器との戦闘の末、カルロスが捕らえた操縦者の宇宙人。
今まさに、その宇宙人から情報を聞き出そうとしているところであった。
「何が目的で地球にやってきた?侵略か?ボスはお前か?それとも他に誰か上がいるのか?そろそろ吐いた方が身のためだぞ?地球人はお前が思ってるほど待つのが得意じゃない」
両腕を特殊な手錠で繋がれた宇宙人。
エージェントの顔を見るや否や、ニヤッと不敵な笑みを浮かべる。
「お前ら、特殊生命体対策組織“NEVER”だろぉ〜?」
「質問しているのはこちらだ。素直に答えろ」
「知ってるぜぇ〜〜。お前らがこれまで行ってきた幾多もの悪行」
「何の話だ」
「俺たちがこの星に来たのは初めてじゃない。これまで何度も同僚たちがこの星に転送されてきたからなぁ〜」
「…?」
「あの手この手で地球に手をかけ、これまでにいったい何人の地球人を殺してきたのかも、もう今では数え切れない。そんな中、我々はある計画を実行した」
「計画?」
「まぁ、その計画が何とは言わねぇがなぁ!ゲハハハハハハハハハハハハハ!」
ここ数週間だんまりを決め込んでた割には、随分とペラペラ喋り出したなと思ったが、最後まで吐いてくれるほどバカではなかったか、とアキラも困った顔を見せる。
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その頃、別室で映像を見ていたカルロスとC1の2人もため息をつく。
「話が漠然としすぎて何を話したいのか分からねぇ。話題も双方に飛び交いすぎだ。やっぱ撃ち殺してた方が良かったんじゃないのか?」
「いや、殺しちゃったら次の対策打てないでしょ〜。またデッカイの街に送り込まれちゃったらどうすんの?」
「はぁ…。それは分かるけどよぉ。かと言って、こんな無駄な時間ずっと過ごしてるつもりか?」
カルロスは痺れを切らし、つま先でトントンと地面を叩く。
「あぁ〜…。悪い、休憩してくる」
そう言うと、カルロスはその場を離れ部屋を出て行った。
「おう。ゆっくり休め〜」
C1は映像を見ながら左手を挙げ、カルロスを見送った。
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「ったく、話したい事まとめてから話せってんだよ、あの宇宙人。あぁ、腹減ったな。何か食うか」
基地内の食堂に向けて足を進めるカルロス。
すると、廊下でざわついている集団が目に入る。
NEVERの隊員達だ。
「おい、どうした?」
隊員の1人に問いかける。
「あ、カルロスさん。お疲れ様です!あれを見てください!」
窓の外を指差す隊員。
その方向へカルロスも視線を向ける。
「ん?なんだありゃ?」
見慣れぬ影が空を飛び、こちらに接近しているのが見える。
NEVERの基地は海の上に建っているため、辺り一帯が海に囲まれている。
そのため、周りには景色を遮る建物など一切なく、海を一望できる故、監視をするにもこれ以上ない程に適している。
海だけでなく空から接近する物に対しても瞬時に対処できるよう対策されているのだ。
「おいおい、何も報告入ってねぇぞ?なんなんだあの物体は」
「あの距離であれば、既にレーダーが感知して、部隊への報告、敵とみなした場合には出動要請が出ているはずなんですが…」
「そりゃそうだろ!?もうだいぶ近いぞ!?」
すると、カルロスの表情が曇り始める。
「しかもあの奇妙な形、明らかに人間が作ったものじゃないだろ…」
カルロスがそう口にするのも無理はない。
今まさに接近している物体は、飛行機や戦艦ではなく、まさに巨大なタコそのもの。
8本の触手がウネウネと動いている。
まだ1キロ以上先を飛んでいるが、見るからにサイズが大きいことは伺える。
と、その時。
ビー!ビー!ビー!
『超巨大生物出現!1.5キロ先を飛行中!ただいまこちらに接近しています!攻撃部隊出動せよ!』
「遅いんだよ、報告が!!」
カルロスは少々怒り気味に声を荒げる。
すぐに外の甲板へ飛び出し、高圧ガスを噴射。
空に向かって一気に飛び上がった。
攻撃部隊もカルロスに続くように、甲板へ出て銃を構える。
カルロスは腰に巻いたホルダーから特殊な光線銃を取り出し、標的に銃口を向けた。
『カルロス!カルロス!』
すると、タイミング悪く尋問を監視しているはずのC1から無線が入った。
「おいC1、タイミング考えろ!仲良くお喋りしてる場合じゃねぇ!」
『分かってる!巨大生物だろ!?でも、それだけじゃない!』
「ぁあ?」
『いま衛星からの映像を見てる!左方向から何か来てるぞ!』
「左ぃ!?」
カルロスは標的である巨大生物から自身の左側に視線を移す。
目を細めてみると、確かに何かがこちらに向かって飛んでくるのが見える。
『物凄い速度で接近している!』
「新手か?」
更に目を細めてみる。
「んぁ?燃えてるぞ?」
どうやら、メラメラと燃える炎がこちらに接近しているようだ。
少しずつ、ゴゴゴゴゴゴゴと地響きのような鈍い音が、基地まで聞こえ始めた。
「おい!C1!火の玉が飛んできてる!なんだありゃ!!?隕石か!?」
『いや、分からない!でも、生体反応が…!』
「はっ…!?」
と、その時。
チュドォオオオオオオオオオオオン!!!!
炎はカルロスの僅か数百メートル手前を横切り、そのままタコ型巨大生物に直撃した。
接触した衝撃でタコ型巨大生物の一部が爆発し、そのまま炎は巨大生物の体を貫通。
止まる事なく、鈍い地響きのような音を立て、真っ直ぐ飛び去っていった。
「おい、何だったんだいったい…」
カルロスは思わず眉をしかめる。
体を貫かれた巨大生物は即死。
海に勢いよく着水し、大きな水しぶきをあげた。
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その頃、基地内の尋問室ではちょっとした変化が起きた。
宇宙人の顔が急に青ざめ、汗をダラダラと流し始めたのだ。
「ぁ…ぁ…」
「どうした?浮かない顔だな?」
「ま…まさか、デスクラーケンが…ぁ…ぁぁ…」
明らかに様子がおかしい。
「おい、宇宙人。外の巨大生物とやらは、お前の仲間か?」
「え?あ、ゲ、ゲハハハハハハ!そ、そんな訳ないだろぉ〜!バカかテメェはぁ〜!俺の居場所を察知した仲間が俺を助けるために送り込んできた刺客とかそんなんじゃないぜぇ〜!逆に、奴の生命反応を俺が察知できるとかも有り得ないからなぁ〜〜!!ついでに言っておくが、俺の仲間は常に妨害電波を発信し、テメェらのレーダーを掻い潜ることができる!さっきも、恐らく急に現れてさぞ驚いた事だろうよぉ〜!ゲハハハハハハハハ!!!」
「おい」
「ゲハハハハハハ!なんだ?」
「お前、絵に描いたようなバカだな」
「誰がバカだぁ!!バカって言う方がバカだ!」
「ぁあ?」
「バーカバーカ!」
「黙れ、てめぇの方がバカだ」
「おい!バーカ。バーカ」
「なんだこの野郎。表出ろ」
「出れねぇんだよバーカ!この手錠外せマヌケが!」
「ぉお?言ったなこの野郎。一生外してやんねーからな」
宇宙人は割とバカだった。
アキラは意外とキレやすかった。
そして、アキラも割とバカだった。
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一方その頃、ギルじいは。。
「ヴェエッッッックショイ!!」
呑気に風邪を引いていた。




