第11話『道明寺流仕事の流儀。ワシは死にたい』
廊下は走っちゃいけません。涙してください。
夜の学園にて、全速力で階段を駆け下りるギルじい、道明寺、志場、西野、西馬、高木の6名。
周りには6名全員を囲むように、白い光の玉“白魂”が一定の距離を保ちながら配置されている。
必死に走る中、ギルじいが道明寺へ疑問を投げかける。
「霊能者、あの狐はなんじゃ?お前さんのペットか?」
道明寺は前方に顔を向けたまま答えた。
「あの子の名前は“九兵衛”。ペットじゃなくて、私の式神よ」
「式神?」
「私に使えてる一種の神的な存在」
「使えてる側にしては随分と対等に話してるように思えたが」
「そう?素直でいい子よ?」
「あぁ、、、まぁ、ええわい」
道明寺の調子のいい性格もあり、あの軽い言い合いの様なやり取りが成り立ってるのだろうとギルじいは勝手に納得した。
そうこうしている間に、一同はようやく校庭に出る中央玄関まで辿り着いた。
扉を開き、外へ飛び出す。
すると、4階から窓ガラスの割れる音が聞こえた。
「ん?」
志場が思わず上を見上げると、突然声を荒げた。
「うわぁぁ!!」
目の前に、ズズゥゥーーンっと上から大きな狐が降ってきたため、思わず志場以外の全員も声が漏れる。
降ってきたのは、音楽室で女の霊を抑えていた式神の九兵衛だ。
「キュウちゃん!大丈夫!?」
道明寺が九兵衛の元へ駆け寄る。
しかし、九兵衛は直ぐさま立ち上がり、音楽室の方向を見上げた。
「すまない輪。どうも、壊し禁止は守れなかった」
「窓ガラスぐらいなら許容範囲よ。気にしないで」
すると、割れた窓から女の霊がスゥーーっと外へ出てきた。
そのまま、こちらへ飛んでくる。
「走れ輪!外ならこっちも好都合だ」
「うん、わかった!」
九兵衛が構えるや否や、一同は道明寺を先頭に再び走り出す。
残った九兵衛は眉を尖らせ、女の霊を睨みつける。
「とっとと、成仏しやがれ!」
そう投げかけると、九兵衛は口をガパッと大きく開き、喉を眩しく光らせた。
キュゥィィィンっと高音が鳴り響き、眩しさで女の霊は手で顔を覆い隠す。
「金剛烈弾砲・白」
ズギュウウゥゥゥゥゥゥン!!!!!!
九兵衛は空かさず、物凄い勢いで口から光線を発射。
あまりの眩しさに、辺りが一瞬昼間のような明るさになった。
見事に的中した女の霊は、空中で体をガクガクと震わせる。
同時に、体の一部が消滅し始めた。
「さぁ、輪。そろそろ締めだ」
九兵衛の言葉に答えるかのように、道明寺が1人走って戻ってきた。
手に数珠を持ち、表情は少し笑っているようにも見える。
「どうした?なんだか嬉しそうだな?」
「だって、随分と久しぶりじゃない?こんな案件」
「まったく、お前の悪い癖だ。すぐ相手の事を考える」
「だって、あの子だってきっと苦しんでる。人を想う気持ちが自分でも気づかないうちに強くなりすぎて、自分なりに抑えようとした結果が自殺だった。だから、私たちで浄化することで、一歩前に進んでもらえる。ずっとこんな箱に閉じこもってちゃ、もったいないよ」
道明寺はそう言って、数珠を指にはめ、両手を合わせる。
「私たちで、あの子の背中を押してあげられる」
道明寺を軸に、地面に光の円が出現し、輝きを放ち始めた。
「勝手かもしれないけど、それが、私達の役目」
道明寺はスゥーっと目を閉じる。
「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前。この世に未練を残し、行き場を失くした悲しき怨念よ。我が示すその道を行き。安らかに…眠れ」
「輪!今だ!」
「破っっ!!!!」
地面に輝く光の円から、無数の鎖が飛び出し、女の霊に巻きつく。
同時に、道明寺の左手から黄色い光の玉が放たれ、身動きの取れない女の霊に直撃。
鎖で繋がれ、光の玉が直撃した霊は、唸りながらみるみるうちに体が灰となっていく。
その姿を、道明寺と九兵衛は力強く見つめる。
「ぅぅぅぁぁぁぁあぁ…ぁ………」
やがて、見る影もなく霊は消滅。
鎖は光の円に引き戻され、その円もうっすらと消えていった。
辺りに夜の暗さが戻ったところで、道明寺を肩の力が抜けたのか、腕をぶらんっと下に降ろし、
「おやすみなさい…」
と、小さく呟いた。
校門の外から覗き込むようにしてこちらを見ている志場や西野ら4人の学生と、その後方に立つギルじいも安心したように肩をゆっくり降ろした。
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次の日、ギルじいは自宅で新聞を広げていた。
隣では小林がスイカを食べている。
「長命さん、昨日は大変でしたね」
「大変でしたねじゃないわい。お前どこに居ったんじゃ。向かう途中で帰ったじゃろがい」
「まぁ、僕幽霊とかホント苦手なんですよね」
「知るか」
学園に向かう途中で抜け出した小林をギルじいは軽く睨みつける。
かと言って、着いてこられても邪魔だったので、静かに新聞へ視線を戻す。
今回の件はひっそりと行っていたため、特に記事になることもなく、マスコミが騒ぎ立てることもなかったが、音楽室側の廊下の窓ガラスが割れているという事で、少々学園内では注意喚起がなされるなどの小さな騒ぎになっていたようだ。
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ピコピコピコピコ
電気も付けず、薄暗い部屋の中。
デスクの上に腰をかけ、巫女装束の道明寺がゲームに熱中している。
「フンフンフ〜ン♪」
道明寺のすぐ横には大量のお菓子が入った袋が置かれている。
袋には、志場、西野、西馬、高木の4人からのメッセージも貼り付けられている。
『輪姐さん、ありがとうございました。大好き』
と大きく記されている。
すると、ピーンポーンと呼び鈴が鳴った。
道明寺はゲームに夢中で出ようとしない。
ピーンポーン
またもや無視。
ピンポピンポピンポピンポピンポピンポピンピンピンピンポピンポピンピンピンピンピンピンポピンポピンピンピンピンピンピンピンポピンポピンポピンポピンポピンピンピンピンポピーンポーン!!!!!
「あ〜〜、もぅ、はいはいはい」
ようやくゲームをその場に置き、入り口に向かう。
扉を開けるなり、道明寺の口から聞き覚えのある言葉が飛び出した。
「あれ?もしかしてアンタら、わたしのファン?」
道明寺輪は、今日もひっそりと調子よくやっている。




