第5話:襲撃
「それにしても水葵の連れ、遅いな?」
「ええ、どうしたんでしょう?」
公園に建つ大きな時計に目を向けて疾風は首をひねる。このベンチに座ってから、かれこれ二時間以上はたっていた。
水葵を見るとその顔には不安の色がかなり色濃く出ている。
「相手は携帯とか持ってないの?」
「一応、持っているはずです。けれど、私が電話をかけることがないので番号だけしか、知りません」
「なら、俺がそこの公衆電話でかけてくるから番号とその人の名前教えてくれる?」
「すみません、お手数をおかけして。番号はこの紙に。名前は流衣と言います」
「流衣さんね、分かった。ちょっと待ってて」
水葵に手渡されてメモを持ち、疾風は公衆電話まで走った。そして、硬貨を入れ書かれた番号を打ちこむ。
しかし、呼び出し音が鳴るだけで、一向に繋がる気配がない。
「…………出ねぇ。どうするか…………」
疾風が諦めかけたその時、電話が繋がった。
「もしもし? 流衣さんですか? 水葵の代理で電話している者ですけど」
「水葵様の代理?」
「はい。公園で知り合ったんですけど、もう暗くなるし彼女一人にしておくわけにもいかないので」
「君と今まで二人でいたんだね? ならまだ奴らにはバレていないか」
「はっ、はい? あの、流衣さん?」
「すまないがこれから言う連絡先に電話をして私の妹に水葵様を保護するように伝えて欲しい」
「え!?」
「番号は………、しまった………」
――――ブツ、ツーツーツー
流衣のせっぱつまった声を最後に、突然、電話は切れてしまう。しかし、疾風の耳には、その切れる直前に何かしらの爆発音らしき音が聞こえた。
「何だよ、今の…………」
始めは、受話器を握りしめ呆然としていた疾風だが、すぐに我に返ると再び同じ番号へと電話する。
しかし、流衣が再び電話に出ることはなかった。
(落ち着け、落ち着け。まずは、水葵だ。とりあえず、うちのマンションに連れ帰ってそこから流衣さんの妹さんに電話をかけさせよう)
そう考えた疾風は、受話器を下ろすと急いで水葵の元へと走る。
その時、ふわりとした風が疾風の横を通り過ぎ、異変を伝えてくる。風が伝えてきたのは、禍々しい殺気を帯びた複数の人間の気配とそれらが誰を襲おうとしているか。
「ちっ、やべぇ。薫!」
「何だ、疾風。どうした?」
疾風が呼ぶとすぐに現れた薫は、主の慌てた様子に何事かと問いただした。すると、疾風は間髪いれず叫ぶ。
「水葵が危ない!」
「水葵?」
「あそこにいる女の子」
走りながら疾風が指さしたと同時に黒いスーツを着た人間達が水葵に襲いかかろうとしているのが目に入る。
「何なんだよ! ほんとに! 風精よ、彼女の周りの人間を吹っ飛ばせ! 一応、手加減しとけ!」
相手が普通の人間だろうと思った疾風は、最後にそう付け加えた。するとその声に答えるかのように、水葵を中心に円を描くように風の障壁が出来上がり襲いかかった人間を吹き飛ばすはずだった。
しかし、襲撃犯は臆することなく風の障壁に向かい手を伸ばす。その襲撃犯の手には、水の刃があり、四方から障壁に刃を突き刺す。すると、障壁に亀裂が走り、その結果、障壁の内側で暴風が起き、水葵のその小さな体を宙へと吹き飛ばす。
「水葵!!」
「まかせろ」
薫は、トンと軽く跳躍すると一気に水葵の元へと飛び、その体を抱きとめると一切の手加減をせずに風の刃を作りだし襲撃犯を吹き飛ばす。そして、襲撃犯が動けなくなったのを確認すると水葵を抱えて疾風の元へと降り立った。
「水葵! 大丈夫か?」
薫に抱えられた水葵を見ると頭から微かに出血しているのが分かった。
「とにかくここは引くぞ」
「ああ」
薫は足元に移動の陣を敷くと、陣を発動しその場から去った。