第21話:左京<1>
数十分後、先ほどの女性が疾風達の元へとやって来た。
「お待たせいたしました。商談スペースへご案内致します」
どうやらやっと自分達の番が来たらしい。
疾風は、晶と目配せし合うと立ち上がる。そして、案内されるまま店の奥へと進んだ。
そこは、窓のない四方を壁に囲まれた部屋。その中にあるのは、テーブルと椅子だけ。
「殺風景な部屋だな」
「人の事は言えませんよ、疾風」
疾風の口から出た感想に晶は溜息をつく。
晶からすれば疾風の部屋と似たりよったりだ。現在は、雪が一緒に住み始めて改善はされているようだが。
「ここは、商談スペースですから。あまり、飾り立てても仕方ありません。特に我々のような商売ですと」
突然、背後に感じた人の気配にニ人は、振り返ると同時に一、ニ歩分の距離を空ける。
「おやおや、驚かせてしまったみたいですね。失礼致しました」
警戒する疾風達に、現れた男はニコニコと笑みを浮かべながら謝罪してきた。
「あんたがここのオーナー?」
「はい。左京と申します。どうぞ、おかけになって下さい」
二人は言われるがまま椅子に座ると左京に目を向ける。
茶髪に銀のノンフレームの眼鏡をかけ、服装は執事の格好をしている。確かに表向きは、喫茶店なので、合っている気もするが何やら胡散臭げな男であるには違いない。
(変な奴だな)
「椿殿のご紹介でしたね。…………この格好が気になりますか? 青嵐の若君は」
「別に…………。まぁ、服装は個人の自由だし」
疾風の言葉に左京は、大きな声を上げて笑い出す。
「……………大丈夫か、この人」
「さぁ?」
(何とまぁ、あの方達とは随分違いますね)
次第に困惑し始めた疾風達を見ながら左京は尚も笑い続ける。そのあまりに普通過ぎる少年達がおかし過ぎたのだ。
(何とも可愛らしい少年達です。これが今の総領達ですか)
そして、気がすむまで笑うと一転して、その瞳に物騒な光を宿らせ、疾風達を口撃し始めた。
「それにしても、青嵐の若君から仕事の依頼がくるなど考えもしませんでした。まぁ、どんなに情報収集に長けた一族とは言え、このような土地では難しいかもしれませんね」
その言葉に疾風は、カチンときた。その何気ない言葉の裏に込められた悪意を感じて。
(何だ、この男は…………)
「何が難しいって?」
「一族内でも情報を司る一族があの体たらく、実に嘆かわしいということです。まぁ、このような土地に送られれば、どんなに勤勉な人間でも堕落すると言うもの。まぁ、だからこそ我々の仕事の需要があるのですけどね」
続けざまに放たれた悪意に疾風は思わず怒りにまかせて左京に掴みかかろうとしたが、それをいち早く察知した晶が、手首を掴みそれを阻止する。
「僕達は、仕事の話をしに来たんです。この依頼を受ける気がないというなら他の処へ行きます」
「これは失礼しました。もちろん、お受けしますよ。何なりとお申し付け下さい」
そう言って笑う左京の顔は先ほどと同じ、実ににこやか笑みだ。しかし、その瞳の奥で何か黒いものが揺らめいて見えるのは、気のせいではないと思う。
(何なんだよ、この男は!!)