第1話:現状
「疾風! 右です!!」
「うわぁ!!」
晶の声にとっさにしゃがみ込んだ疾風の頭上をサッカーボール程の大きさの炎弾が通り過ぎる。
そして炎弾を避けた直後、それを放ったと思わしき男が距離を詰めてきた。
「ちっ! 風精よ、我の呼び声に答え彼の者を捕えよ!!」
疾風の呪に答えた風精が集まり、男の足を止めようと突風を吹かせる。本来なら簡単に足止めは可能なのだが、里と違いまったく効力がない。
それを見た晶が呪を唱え更なる足止めをする。
「土精よ、彼の者の縛る鎖となれ!」
すると、まるでその場に根をはったかのように男の足は微動だとしない。
「今です、疾風!」
「…………悪く思うなよ。来い、嵐!」
疾風の言葉に答えるように、疾風の右手に剣が現れる。その剣を手に取り鞘から抜くと疾風は男との距離を詰め、剣を振りおろす。
――――グシャリ。剣から伝わってくる感触に、疾風は渋面を作る。
(やっぱり、嫌な感覚だ)
切られた男はそのまま前に倒れ込み動かなくなる。息絶えたのだ。
疾風は剣を払い、刃についた血を飛ばし鞘に収める。そこに晶が駆け寄ってくる。
「大丈夫ですか?」
「ああ。あとは本部に連絡して終わりだな」
「連絡はしておいたわ。本当に大丈夫? 疾風?」
同じように自分の元に駆け寄って来て、心配そうに見つめる妹・雪を安心させようと笑って頷く。
(これは俺の問題だから。自分でどうにかしないと)
「それにしてもやっかいだな。この状況は」
「そうですね、まさかここまでとは」
「疾風でもこの状態だもの。他の風軍のメンバーが動けないのも納得だわ」
三人は、一様に「はーっ」と大きく溜息をつく。
「見捨てられた土地とは、よく名付けられたものですよ」
「ここまで精霊達が毛嫌いする土地があるなんて思わなかったぜ」
「土精は、動くのを嫌う性質があるから変わらず存在しているけど、私達が使役する風精達は動くことを好むもの。そのせいで自分達にとって嫌な土地はとことん避けてしまうから」
つまり、疾風をもってしてもいつもの半分程度の力しか発揮できないでいるのだ。
「まずいよなぁ。この状況は」
疾風は空を仰ぎながら髪をかきむしる。
『見捨てられた土地』、この言葉の意味を身にしみて分からされることになろうとはと思う疾風達だった。