第18話:ティータイム
どうすればいいのだろう。
今、目の前に広がるこの奇妙な光景を見て疾風は思った。
四人掛けのテーブルの正面に、自分達に宣戦布告をした少女が買ったばかりのカフェ・ラテを行儀よく飲んでいる。
そして自分の隣では、表向きはにこやかな笑みを浮かべコーヒーを飲んでいる友がいた。
「飲まないの?」
「あっ、ああ」
凛に勧められ、疾風もやっと手にしていたアイスティーを口にする。しかし、残念なことに味が分からない。
「凛。僕は、貴女にいくつか聞きたいことがあります」
晶がそう切り出すと凛は、思い切り眉間に皺を寄せる。
「私、貴方に呼び捨てしていいなんて言ってないわ。いきなり呼び捨てなんて失礼だと思わないの」
「これは失礼しました。疾風がそう呼ぶのでつい」
「疾風はいいの」
「凛殿、これでいいですか?」
「…………我慢するわ。それで?」
「貴女の言う、愚かな人間達についてです。確かに光輝には、我々の目に余る行為をする者達がいます。けれど、そんな人間達は今までいくらでもいたはずです。我々が生まれる遥か昔から。それなのに何故今さら?」
「私の言う愚かな人間達と貴方が言っている者達は別。貴方が言っている者達程度なら簡単に始末をつけられるわ、政治的にね。私が粛清を宣言したのは、扉を開放しようとしている勢力についてよ」
「!?」
凛の答えに晶と疾風は、驚きのあまり言葉を失う。
扉の開放を望む勢力がいる。もし、これが本当のことなら放ってはおけない。扉が開くということは、この世界が滅びるということ。
しかし、そんな事をしようとする人間がいるのなら各家の当主達が黙って見ているはずがない。
「幹部に協力者がいたら、上に話がいくまでに握りつぶすことなんて簡単。特に光輝の幹部なら尚更」
疾風達の疑問を感じ取ったのか、凛は呟く。
「そんな事を何故貴女が知っているのですか?」
「私達は、一族と袂を分かつ事になってからも自分達の使命を真っ当してきた。それに扉が開くような事があってはならないから、代々の光輝の当主との繋がりだけは持ち続けた。何故、光輝の幹部が協力者にいると分かったか、それは…………」
「それは?」
「今日はここまで」
「はい?」
突然の凛の終了宣言に疾風はずっこける。
「私だけ情報を提供するなんてフェアじゃない」
「確かに。そういう輩がいると分かったのなら後は、こちらで調べます。貴女は、何か聞きたいことありますか?」
「水鏡の姫を保護しているのは本当?」
「これは随分とお耳の早い。それがどうかしましたか?」
「さっさと手を引いたほうがいい。あれはあくまであちらの内政問題。疾風が手を出す必要はない」
「水葵は目が見えないし、力も封じられている。そんな状態で放っておけるかよ」
「疾風。彼女は、総領なの。甘やかすのはよくない。周囲が甘やかしたから今の状況がある。これは彼女が自分で解決しなければいけない」
凛の厳しい言葉に疾風は、思わず声を荒げる。
「凛は、水葵をよく知らないからそう言えるんだ。これが内政問題だってことくらい俺にも分かる。でも、水葵は唯一の仲間と言えるお付きとも離れ離れの状態なんだ。だったら、天牙衆の仲間である俺達が手助けするのは当然だろう」
「もういい。疾風、同情するのは悪いと事だとは言わない。もし仮に、今回の件を貴方達が解決したとする。すると、その結果、彼女に残る物は何だと思う?」
「え?」
凛は立ち上がり、上から疾風の目を覗きこみ言った。
「自分の部下達からの失望よ。きっと誰からも相手にされなくなるでしょうね。そして、ただ血を繋げる為だけのお人形にされるわ」
そう言い残すと凛は、その場から立ち去って行った。