第16話:情報屋へ
椿からの助言を受けた疾風達は、早速教えてもらった情報屋へと向かうことにした。その場所は、表向きはごく普通の喫茶店。しかし、裏社会では名のしれた情報屋だという話だ。とりあえず、緊急事態に備え水葵や雪は置いていくことにした。力の使えない水葵と力の弱い雪を二人同時に守るのは難しいと晶が判断したから。
「それにしても情報屋か。別にうちの情報網で探した方が早くね?」
「確かにそれはそうです。しかし、今回は身内が敵ですからね。僕達がそれを使えば相手に知られてしまう可能性が高い。それにここは東京ですから。もちろん、別の土地なら疾風の家の情報網を使用した方が早いですけど」
「そうだよなぁ。確かにあの様子だと俺の家でも難しいか」
水葵と出会う前に訪れた東京支部を思い出して、疾風は溜息をつく。
今後の天牙衆としての仕事の為にも一度訪れておくべきだと判断した疾風は、一週間程前に一人で支部に足を向けた。そしてそこで目にした支部の実態を見て使えないと疾風は判断したのだった。
どうやら元々、東京行きは一族内では左遷を意味するらしい。そもそも自分達が使役する精霊達が忌み嫌う土地、そんな場所に行きたがる人間はいるはずもなく関東圏内は焔の管轄ということもあってか他の一族はただ怠惰に最低限の仕事をするのみという状態。そして最近では、その最低限の仕事さえ行なわれていない有様。
そんなゆるみ切った支部の様子を目の当たりにした疾風は、怒りすらも湧かずただ呆れしか感じなかった。
(親父は知ってるのか、この有様)
もしこんな状態を自分の父親が目にしたらきっと一瞬で支部は破壊されるに違いない。普段は無口で温厚な父だが切れた時の破壊力はあの母よりも上回る。そして、父が切れるということは母も切れるということで。血の雨が降る、冗談ではなくて現実に。
(ちっくしょ、この件が片付いたらまず支部の奴らの根性叩き直さないと。いざという時に使いものにならなかったら終わりだ、俺も奴らも)
隣でブツブツと呟く疾風を見て晶は苦笑してしまう。疾風は心の声を全て口に出していることにまるで気が付いていないのである。
しかし、疾風が抱えている問題は晶にとっても他人事ではない。青嵐ほどではないが地涯も似たような状態なのだ。
(うちの一族は根が真面目な人間ばかりで助かりました。ただ、いざという時のとっさの判断が苦手なんですよね、うちの人間は)
「とにかく使える情報屋だと助かります。後々の事も考えると信頼が置ける情報源も持っておくべきですから」
「…………ああ。げっ、電車出たばっかじゃん」
改札をくぐったすぐ上にある電光掲示板を見上げた疾風は思わず舌打ちをする。
「せっかくだし、そこのカフェで軽い昼食でも取りませんか? 向こうについたら昼食が取れるか分かりませんし」
「それもそうだな。あっ、先に便所行ってくる」
「分かりました。先に店に入ってます」