第14話:白の領域
疾風を涯に任せた薫は、一人異界に戻ってきていた。しかし、薫がいるのは自分の領域ではなかった。
薫がいるのは白の領域と呼ばれる場所。
精霊達の間で白という言葉を指すのは光。つまり、光輝の一族の剣に宿る・光炎の領域だった。
「おい、いるんだろ? 話があるからさっさと出てこい」
薫が大きな声で怒鳴ると、わずかに力の揺れを感じ、そのすぐ後に自分の側に現れた人物を薫は睨みつけた。
「よくも騙してくれたな」
「何の事だ?」
面と向かうなり仲間である自分に対して怒鳴りつけてくる薫に光炎は首を傾げる。その反応に薫は更に怒りを募らせる。
この白の領域に来た直後、ある物を目にした瞬間に薫は悟ったのだ仲間である光炎やこの場にいないもう二人の仲間に自分と涯が欺かれていたことを。
「まだ、とぼけるか。お前は、あの焔のお姫さんは死んだと言ったな」
「ああ。彼女は亡くなった。お前も主と共に彼女の墓参りをしてきたではないか?」
「じゃあ、あれは何だ? あの亀裂は?」
薫は、天を指さす。
薫が指さした先には、この白の領域に似つかわしくない紅の線が走っている。
「…………治すのを忘れていたな」
「光炎、お前!!」
全然悪びれる事ない口調に薫の額に青筋が浮く。
「彼女は死んでいた、この間までな」
「死んでいただと? 何ふざけたこと言ってやがる! お前は、あのお姫さんが蘇生して戻ってきたとでもいうのか?」
「落ち着け。死んでいたといのは、肉体的なことではなく精神的なことだ」
「あ?」
「十年前、彼女は家族を殺された現場に居合わせた。そんな場面を見て幼子が正気でいられると思うか?」
「それは…………」
光炎の言葉に薫はそれ以上突っかかって行くことが出来なかった。
「それにまだ完全に回復したわけではない。その内完全なる覚醒はあるだろうが」
「それで、焔のお姫さんはどうしているんだ?」
「黙秘する。それは私が勝手に話して良い事柄ではない。今後の身の振り方を決めるのは、完全に覚醒した小姫だ。それに、彼女がどうするかは彼女の意思に任せるべきであり、関係のない我々が口出ししてもよい問題ではない」