第13話:報告
部屋を後にした椿は、地下駐車場へと向かいながら携帯で連絡を取る。もちろん、その相手は、椿の主であり天牙衆の頭領でもある聖だ。
「椿です。水鏡の姫君を確認しました。あの方で間違いはないかと。現在は能力を封じられていらっしゃるようです」
「そうか。それにしても彼には何かあるようだな」
「疾風様ですか?」
「ああ、きっと彼には人を惹きつける何かがあるのかもしれない。何しろ、闇珠に続き水鏡もだからな」
聖の言葉の裏に何か自嘲めいた響きを感じた椿は眉をひそめる。
「聖様?」
「何でもない。それでこれからどうすると?」
「例の情報屋の元へ行くよう勧めておきました。最近の活動で大分感染者の件も落ち着きを見せていますので、水葵様の件に力を割いても問題はないでしょうし」
「分かった。何かあるようなら私にも連絡を。彼等だけに任せるわけにはいかないからな」
「はい。それでは失礼致します」
聖との電話を切ると椿は止めてあった車へと乗り込む。
「今さら何を言い出すかと思ったら。さすがに自分の置かれている立場に危機感でも持ったかしらあの若様は」
聖に対する椿の辛辣な言葉。その椿の表情は何の感情も写してはいない。
しかし、先ほどの聖の言葉が気になった椿は、聖との会話を反芻する。しかし、特に意味はなさそうだ。
聖の元に戻る前に報告をすませておかなければならないと思った椿は、周囲に人がいないのを確認し、グローボックスからもう一台の携帯を取り出す。
「椿です。はい、確認しました。まぁ、聞いていた通りの事が起きているようです。それにしても水軍の者には同情します。あのような方では、当主になるのは無理です。目のことではなくそれ以前にあれでは総領として不適格です。それと、場合によって今回の件、聖殿はご自分で動くと。もちろん、そのような事態にはならないように動きます。では」
携帯を元のボックスに戻し、キーを回した椿は、笑いながら呟いた。
「ふふっ。本当に愚かな男。そのまま何も知らずにお山の大将を気取っていればいいのよ。所詮、飾りでしかないのだから。そのまま最後まで何も知らないでいたほうが身の為よ」
ほんの一瞬だけ、暗い光を目に宿らせた椿だったが、すぐにそれを消し去るといつもの優しげな表情を浮かべ、アクセルを強く踏み車を走しらせその場を去った。