第11話:兄目線
「ねぇ、水葵さんは元々ここに来るつもりだったのよね?」
「はい」
「だったらとりあえず、椿さんにでも連絡して水葵さんのお部屋の鍵を貰いましょう? 怪我が治るまではゆっくり休んだほうがいいし、その間に流衣さんから連絡が来るかもしれないでしょう?」
「そうですね、椿さんなら何かしらの伝手もあるかもしれませんし」
「私、電話してくる」
雪は、そう言うと電話に向かって走って行った。その様子はどこか嬉しさもあるような気がして疾風は首を捻る。
「涯、そう言えば薫さんは?」
「出かけた。帰って来るまでは、俺が全員を守る。だから、勝手にふらふらと出かけるなよ?」
台詞の後半は完璧に自分に向けられたものだと感じた疾風は、ひきつった笑みを浮かべながらも頷くとその視線から逃げるように雪の方へと向かう。
(早く帰って来てくれ、薫)
「椿さん、これから来るって。…………どうしたの? 疾風」
自分の方に逃げてきた疾風を見て雪は目を丸くさせる。
「しばらく勝手に外出するなってさ。涯が」
「分かった。私は、水葵さんのお世話もあるし、別に外に行く気もないからいいわ」
「何か、お前浮かれてない?」
「あ…………、そう見えた?」
疾風が頷くと雪はばつが悪そうな顔をする。
「あのね、お友達になれればいいなって。ほら、里の子達もいい子ばっかりだけど、やっぱりどこか一線を引いたような感じでしょ? 当主の娘っていう言葉があると皆ね?」
雪の心の内を悟った疾風は、妹の頭を優しく二三度撫でる。
「じゃあ、水葵の世話頼むな。俺も見るけどやっぱり女の子同士のほうがいいだろ?」
「うん!!」
嬉しそうに頷いた雪は、軽い足取りで水葵の元へと駆け寄って行く。そして楽しそうに水葵に話しかけている。始めは戸惑っていた水葵の顔にもだんだんと笑顔が浮かぶ。そして二人は楽しそうに年相応の少女らしくはしゃいでいる。
そんな二人の姿を見て疾風が笑っているといつの間にか晶がすぐ近くにまで来ていた。
「いいんですか?」
「何が?」
「雪ですよ」
晶の言いたいことが分かったのか、疾風はいつになくはしゃぐ妹の姿を見て苦笑する。
「ああ。これから天牙衆の仲間になるんだし、女の子同士仲良くするのがいいんじゃねぇの? いつも俺等と一緒ってわけにはいかないだろう。一族にも友人がいたほうがいいし、青嵐だと友達って呼べるほど深い関係の人間は出来ないから」
雪の置かれている立場を思い出したのか、晶も肩をすくめた。
「仕方ないですね。うるさい外野の人間達は、僕等が目を光らせていればいいですかね」
「そう言うこと。頼むぜ、晶。…………欲しいんだろう?」
疾風の意味ありげな視線に晶は、めずらしく言葉をつまらせた。
「…………先程の意趣返しですか?」
「別に、雪の兄貴としての助言だよ。里から離れている間にとっとと気持ちを伝えとかないと、何が起こるか分からないぜ。うちの両親の行動は誰にも読めないからな」
「肝に銘じます」