第10話:離反
「流花さんは、今どこにいらっしゃるんですか?」
「流花には、ある任を与えてあります。それに決着がつくまで彼女が私の元へ戻ってくることはありません。この任は他の一族の者に知られるわけにはいけませんので連絡を取るのは非常事態のみということにしてあります。なので、私が隠れ家から姿を消したことも彼女は知りません」
「でもこれって非常事態だろ? 連絡してもいいんじゃないか?」
疾風の問いに水葵は首を横に振る。
「それは駄目。今の状況でそれをしたら任務中の流花にも危険が及ぶもの」
「その任務について教えてもらうわけにはいけませんか?」
「一族から離反した者の探索です」
「離反?」
「ええ。この数年、だんだんと一族から離反して姿を消す者が増えているの。昔からあることだからと、父や幹部達は気にしていないようだけど、その数は確実に増えている。始めの方はあまり力を持たない者達。だけど、最近はかなりの能力者が姿を消しているわ」
水葵の言葉に疾風と雪は不思議そうな顔をしているが、晶は違った。一瞬、顔を強張らせた後は、だんだんとその目を鋭くさせていく。
「晶?」
「晶君?」
「どうやら我々の一族と同じ状況のようですね」
晶は深いため息をつくとそう呟いた。
「きっと青嵐も同じでしょうね。ただ、彼等の場合は離反ではなく放浪に出てしまったという可能性が高いので何とも言えませんが。逆に離反しやすいと言えばしやすいですけど」
晶は、疾風と雪を見て苦笑する。
青嵐の一族の人間は、何よりも自由を求める。それは肉体的にも精神的にも。その行動は自由きまま。まさに風の性質が顕著に現れている。
十年以上も放浪に出て、忘れた頃にひょっこりと姿を現すことがたびたびだ。
「だとすると他の一族でも同じことが起きているはずです。光輝にも焔にも。ひょっとするとこれは何かの前兆ともとれます」
「ええ。私も何かが起きるのではないかと不安に駆られるのです。私の杞憂で終わればいいのですけど」