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第六話 鬼灯トント博士の研究所

 光圀島の中枢と大きな山の頂上に外壁や建物自体に違和感と存在感が混在する鬼灯トント博士の研究所が屋上から地上二階と地下24階と建っている。


 ***


 玄関から二人は中に入ったが、何も襲っては来なかった。リナは案内図も視ずに前に歩き進んで行く。その後ろでブツブツとぶっきらぼうにボンドもぼやいた。

 

 研究所の中はだだっ広いというのが、初見のボンドが感じたイメージだが。現に誰が見ても申し分もない程に大きく広い。研究所の外観からは想像も出来ないくらいにだ。


 天井のシャンデリアもキラキラと眩しくも光ることに、研究所とは思えないものでもあった。まるで高級ホテルリゾート施設、そのものだ。研究所と思わずに足を踏み入れなければ分からないだろう。

 

「ここの研究所は、そのトント博士の所有物なのか?」

「さぁ。どうでもいいよ」


 リナはボンドの言葉に振り返らずに言い返した。彼女の態度にボンドも、さらに問い詰めるように不機嫌な口調で聞く。リナとトント博士の関係をはっきりと知りたかったからだ。


「お前。トント博士のことはどこまで知ってんの?」


 問いかけにリナ呼吸もひゅっとなったが、すぐに整えると返事を返した。


「どこまでも何も。島民のほぼ全員が関係者なの。私の両親も研究員よ。光圀島自体がトント博士の研究所から生み出される利益で活きていた国なのよ、国籍なんかも様々だったわよ。アメリカ人、中国人、ブラジル人とかいろんな国籍の研究員たちと、その家族たちも住んでいたわ。優秀な頭脳明晰で優秀な人種が集まっていたの。もしかしたら、魔法使いもいたかもね、知らないけど」


 得られた答えは【研究員】【島民は関係者】【利益】【国家】【多国籍】であったという現状だった。リナの口調から島民全員が賛同をしていた訳ではないと分かったのだが、両親が研究員で手を貸す存在だったのなら、子どもであるリナにも理解や心棒する心が、と思ったが顔を横に振り、リナの言葉に含みのある言い方を返した。

 

「ああ。成程ね」

「何よ」


 表だってない【事件】を揉み消す手伝いを両親がしていた。それを子どもである彼女が知れば、嫌でもこういう反応になるのが至って普通だろう。ボンドも意地悪く言葉で責めた。


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 ボンドの言葉にリナのからだが立ち止まる。


「……うっさいわよ! 馬鹿!」


 リナは顔を真っ赤にして歯をむき出しに声を荒げた。


「事実だろ? お前が倒しまくってくれてる、アレを証拠じゃねぇか」


「違う! 違う! 違うわっ!」


 リナが顔を大きくかぶり振った。

 さらに追い詰めるかのようにボンドも告げる。


「お前の両親に努力の賜物って訳だ」


 そして。頭に手を置きしゃがみ込んでしまう。


「お母さんも! お父さんだって! アイツに騙されていたの! 心酔してしまってただけなの! 言われるがままになってしまっていただけだわ! 意思なんか、なんか、な、なんか……なかった、んだよ! ある訳がないんだ! いいように利用されていたんだよっ!」


 しかし、すぐに立ち上がりボンドの方に振り返り、そうであって欲しいという願望の言葉を彼に投げかけた。騙されていたのだと。取り返しがつかない研究になるはずがなかった、と知らなかったのだと。両親も被害者なのだと。


「こうなることなんかを望んだ訳じゃないわっ!」


 悲鳴に近い少女の言葉にボンドも頭を横に振り、希望を打ち消すように、彼が思う想像を口にする。そんなボンドを顔面蒼白なリナも真っ直ぐと見据えていた。


「身内を護りたいってのは分かるがさ、現実は甘くなんかないぞ。想像を遙か上に乗り超えてんじゃんか。誰も彼もがと、盲目的だったなんてのは有り得ない妄想だ。夢物語ってもんよ?」


 言い切るボンドにリナも「な、んで」と全身を戦慄かせてボンドに問い掛けた。


「何で、言い切れるのよ。それはあんたの想像じゃない!」

「何でって。実際、こんな事態じゃんか」

「憶測で物事を言わないでよっ!」


 リナは吐き捨てて小走りに歩く。そんな彼女の後ろにボンドもついて行きながら持論を続けた。


「どんな研究をしていたかなんか知らないけどさ、弧島自体を媒介にしていたってんなら納得はいくよ。とんでもない化け物を飼っていたんじゃないのか? それか、創ってしまったかだ。巨大な蜘蛛は副産物なのかもしれないな」


「そんなの、あんたの妄想だ!」

「リナ。お前だって、考えただろう」


 さらに、ボンドが話しを続けた。彼から逃げるようにリナの足も速くなっていった。


「だから。元凶を博士、って言った。だろう?」

「違う。ただ、頭に浮かんだのがあいつだったのよ! それだけよ!」


 そうに違いない、というボンドに、リナも、そうではない、と否定の言葉を吐き捨てる。


「それだけの話しよ!」


 ひと際、大きくボンドに言うとリナがさらに走り出したことに、何か分からないのにと、っち! とボンドも舌打ちをして追いかけた。


「馬鹿女っ! 待ちやがれっ!」


 しかし、いくら喚いても、言い合いをしても何も姿を現さない状況に、ボンドも不気味だと息を飲んだ。研究所は何かがおかしい、と。

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