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第三話 状況予知不能につき

 三圀島には島民、二百人が住んで居た。

 そして、間宮リナが住む街である《砂々波街(サザナミガイ)》には島民、百五十人が暮らしていたのだが――……


 ***


 リナは山の斜面へと向かって走った。


「おいおい! だから! この状況をッ!」


 リナが大きく歩幅を広げながら進んで行く。

 その後でボンドが箒を抱えながら、ついて行っていた。


「ここは《人類(ヒューマタルト)》の世界なんじゃないのか!?」


 彼だって目の当たりにした怪物に、心臓がバクついていて、頭の整理に追いつけていない。


「ここは! 日本じゃないのかよッ!」


 日本列島の最果ての孤島。

 ボンドの父親の産まれ故郷であり、迫害された過去のある国だが。巨大な蜘蛛がいるなんて話しは一度だって父親から聞いたことがない。おとぎ話の中でしか存在しないはずの生物が、リナの金属製のシャベルで殺された。自身の目の前で、あっという間の出来事だった。


 あまりに勇ましい彼女に、ボンドも見惚けてしまった。


 月明りを浴びる彼女から目が離せなくなって、心細さから一緒にいて欲しいと望んでしまった。気がつけば飼い犬になったように後ろをついて歩いている。ついて着ているボンドにリナも苛立ちに立ち止まる。


「ついてこないでよ!」

「!?」


 身体を振り返った彼女の頭が、っご。っち~~ンんンっ! とお見合いをして額がぶつかった。いい音と視界に火花も散ってしまう。


「ぁ、っだっ!?」

「い、ってぇ!」


 二人とも額を抑えて、地面にしゃがみ込んでしまう。


「本当にあんた! 邪魔!」

「ぁ、だだだ! いいから、教えろっつ~~の! 石頭の大馬鹿女っ」

「!? っお、大馬鹿、ですってぇ~~?!」

「ああ! 大馬鹿だ! 可愛くないねっ!」

 歯をむき出しに二人は睨み合う。

「教えろも何もっ、私が訊きたいわよっ」

「聞きたい、だって? どういう、ことだよ」


 ボンドはリナの真剣な目を見て、臭いでも嘘ではないと分かった。

 だからこそ余計に状況が読めない。そのことが後悔と、恐怖を生み出す。


(こんなことならっ、くるんじゃなかったぁああ!)


 ボンドも身体を前のめりに丸めたまま、自身の頭を抱え込んでしまう。

 どうして。ミザリィの言うことを訊かなかったのか、と。


 後悔。後悔。また、後悔とボンドの胸中も穏やかではない。後悔に身悶えていると鼓膜にリナが吐き捨てた言葉が聞こえた。


「私につきまとわないで!」

「だぁあかぁああらぁアア! 待てってっ!」


 また、先へと行こうとするリナの腕を、ボンドは引いてしまう。

 その衝動的行動にボンド自身も驚いた。


「だから! お前が知ってる情報を言えってんだよ! 多分でも、何でもいいんだ! 俺は状況を知りたいんだよっ!」

「ぅ、っわ! っきゃ!?」


 ボンドがリナを押し倒す格好でアスファルトの上に倒れてしまう。

 気がつけばリナの両手を頭の上でボンドの大きな片手で掴み抑えられている。その手は尋常でないほどに強い上に熱い。まるで楔のようだとリナは他人事のように思った。


「痛いんですけど???」

「ほら、早く言えよ!」


 口をへの字にさせ渋々、とリナは口を開いた。


「ご飯を食べて寝てて、起きたら。この有様だったのよ。それで」

 淡々と、嫌そうにボンドを睨みつけて話し続けた。

「友達の家に行ったの。でも居なかったわ。誰も」

「誰も、だって??」

「ええ。誰もね。このサザナミの街の人も」

「大勢があっという間にいなくなるなんざ、神隠しだっ! そんな怪異が、こんな孤島の街で起こったっていうのかよ!?」


 リナの言葉に、ボンドが強い口調で聞き返した。


「嘘ばっかり言いやがって! ここは日本じゃないんだろう?! な」


「うっさい! この馬鹿っ!」


 ガン! とリナはボンドの股間を、

「!? ~~っつ! の、ォおお野郎ォおおうッ!」

 思いっきり怒りのままに蹴飛ばした。しかしだ、想像するような展開にはならなかった。

 本来、男の股間を足か何かで攻撃なんかをされた日には、普通は、普通であるのならば、リナの脳内と想像では悶絶して海老ぞりと、言葉にもならない言葉で顔面蒼白か真っ赤にもなって、涙目で口から泡なんかも噴き出て、手が外されるという塩梅だったはずなのだが、おかしいぞ、とリナも言葉を失い、それこそ顔面蒼白になった側でボンドの顔を見上げていた。


「ぅ、嘘でしょう?? あ、あんた! 男じゃないの?!」


 上擦った口調でリナはボンドに性別の確認をしたのだが、ボンドもきょとんとしたが、すぐに怒りの口調で言い返した。


「信じられなねぇ奴だなぁ! 俺は正真正銘の男だよ! ぁああ! つぅかっ、魔法の(ローブ)を羽織ってなけりゃあ、……おォ、こわ!」


 布にリナが目を向けたのだが、月明りもなく。街路灯もない場所での確認は出来なかった。


 ボンドが話すことに半信半疑とリナも確認で聞き返した。


「あんた本当に、日本人じゃないの?!」

 リナの言葉にボンド自身を明かした。


「《混血種(クロマクロ)》だ」


 だが、あまりに突拍子もない夢のように、聞いたことのない言葉の単語にリナの目も信じられないといった様子で吊り上がった。真剣に聞いたというのに誤魔化されたのかと眉間のしわも深く刻まれる。


「はぁ???」とひと際に大きな疑問符が口から漏れ出た。信じられないといった視線にボンドも自身の父親の話しをした。


「父親がニホンオオカミの人狼だから、俺も半分は日本人? じゃね? だから、お前の言葉も分かるし、こうして話せるし」


 暗闇に慣れて来たリナの目に徐々にボンドの顔が見えてきた。


(ぅ、っわぁ)


 目が金色に光り、髪は艶のある黒髪。月の光に浮かび上がって縛っている髪が垂れ下がり、リナの鼻先をくすぐる。


「いいからっ! 早く、手を離しなさいよ!」

「お前さぁ。元凶に心辺りあるんだろう」


 ボンドの言葉にリナも軽く顔を縦に振る。そして、口を戦慄かせて、口にしたくもない【彼】の名前を告げた。島民の誰もが疑わなかった、信頼をしきっていた天才博士の名前を。


「ええ。鬼灯トント博士の仕業だと思っているわ」


 リナの言葉にボンドの顔が疑問に大きく歪む。日本人の名前で、博士という博識ある知識人が、一体、何をしたというのかがボンドには依然と理解が出来ない。


「人間、なのか?」

「人間で、至って普通じゃない部類の方の日本人よ!」

「目的は、一体なんなんだ?!」


 またも、混乱してしまう。

 あんな巨大な生物を生み出したのが人間だということに。


「そんなことはどうでもいいのよ。どうでもよくないくらいに、本当にいい加減に手首痛いんだけど!」


「あ。悪い……ちょっと、そのまま口開けてくれな」

「口ぃ?」


 忌々しいという口調のリナにボンドも飄々と告げた。そして、さらに行動は意味を報せずに実行された。


「おい! 閉じんな、馬鹿女っ」


 指を入れ大きく開けさせると。

 はむ。ちゅうぅうう。とボンドがリナに口づけをしていた。


 唐突のない何の雰囲気も、たいして何も知らない相手からの行為にリナの目が大きく見開かれたが、ボンドの顔によって視界が真っ暗になった。


 何がどうして、こんなことになったかを必死に頭の中で言葉を探して、行為から集中を反らす真似をしたが、無駄だということにすぐ気がついたが、依然とボンドによって視界は塞がれたまま、真っ暗で口づけを受け入れている。

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