第二十一話 トント博士と空腹少女
どんな顔で二階堂サクラは言ったのか。
「『愛で世界を救いましょう』か」
ボンドが、二階堂サクラの言葉を口にした。
それに、
「愛は世界なんか救わない!」
リナが噛みつくように、ボンドに吠えた。
「いや。俺に言うなよ」
「--~~くっそぅ~~‼」
リナは目元を腕で拭った。
「てか。サト江ーまだ、この記録動画長いのかぁ?」
ボンドがバーチャル初号のサト江に訊く。
『長いかな♪』
「そぅか。で。お前はこの建物の監視カメラを統括しているのか?」
『うふふ~~♪ ええ、誰に言っているのかしらぁ♪』
「そぅか。なら、ここはまだ……いや、地上は大丈夫なのか??」
心配そうにボンドが言う。
もしも、地上に蜘蛛が居るならば。
阻止をしなければならないからだ。
ここーー《三圀島》からの移動を。
「いつまでも、ここに居るってわけにもいかないじゃんか」
『--……今は大丈夫よ♥』
「そぅか。なら……観よう」
『ええ♪ 観ましょう♪』
--Pi……。
『いい子にしていたかい? サト江』
『はい』
真っ白な空間の中央に丸い椅子が置かれていた。
その椅子に腰を据えているのが。
鬼灯トントに創造されしーーサト江だ。
容姿はといえば。
リナが知る彼女ではない。
自身よりも幼い彼女。
ただ。
表情がない。
返事をする傀儡のようだった。
『なぁ。サト江』
『はい』
『いや。何でもないよ』
『はい』
--Pi……。
『博士』
『ぅん? 何だい?』
『博士』
『ぅん? どうかしたかい?』
サト江は顔を横に振った。
『そっか』
--Pi……。
『博士』
『ん? どうかしたのかい? サト江』
『博士』
『ん? 何だい?』
細く伸びた脚をバタつかせた。
そして、頬を朱に染め。
『ぉ、お腹……空いたわ』
『! ああ! ああ!』
トントの声が弾んだ。
--Pi……。
『ほら。ご馳走だよ? 口に合わないのかい?』
--Pi……。
『何が食べたいんだい? サト江?』
--Pi……。
『肉。肉が食べたい……新鮮な』
--Pi……。
『博士。いけません! そ、そんなーー絶対に‼』
二階堂サクラの癇癪声が響いた。
『サト江は! サト江は! 博士の!』
『--しかしねェーサクラ君。君も見たでしょう? 映像』
『っく! っし、しかし……ぅ、う゛う』
『も。こうなっちゃったらさぁ。イけるところまで行くっきゃないでしょー』
--Pi……。
『食べたい……食べたい……食べたい……』
『何が食べたいんだい? サト江』
『新鮮な、肉よ』
--Pi……。
『サクラ君』
『はい』
『--……いいのかい?』
『はい。お先に逝きます♪』
トントは出刃包丁を持っていた。
大理石の床に腰を下ろして。
背中を向けている二階堂サクラ。
『すまない。君は俺にとってッッ‼』
ザッシュッッ‼‼
--Pi……。
『おかわりはないの?』
ーーPi……。
少女は成長し。
リナが知る大人の女性に変わっていた。




