第二十話 二階堂サクラ女史
止めてしまった記録映像を止めてしまったのは。
一体、誰だったのか。
だが。
◆
『離してください! 博士! トント博士ッッ‼』
◆
一体、誰が。
この後の映像を観たいと思うだろうか。
「…--鬼灯トント~~ッッ‼」
リナは怒りに身体を震えさせ。
一方のボンドは。
(まるで)
自身の身内でもあるーー《人円類》を。
思い出していた。
彼らもまた、このように自身の生家、その成果に心酔をする。
そしてーー《人類》を見下すのだ。
鬼灯トントの中に。
その血脈のようなものを感じていた。
この血脈の厄介なところは。
匂わないながらにも神経細胞を侵食し。
操るという能力もあった。
《人類》の中に居ては使えない魔力を補うかのように。
ただ、能力はあくまでも。
補強レベルであり。
相手側からの強い気持ちに反応するのだ。
魅力的に、心酔をする存在程に。
(本当に何だって。俺はーー)
ボンドは目を閉じた。
そんな彼の様子に、
『ボンド? 関わったことに後悔しているようね?』
バーチャル初号のサト江が訊いた。
不躾な物言いだったが。
あえて、返事はしなかった。
可もなく。
(別に後悔なんざ。してねぇし)
不可もなく。
(親父の産まれた国だ。来れただけでも、もぅけもんさ)
そうーー何とも言えない感情で。
言葉になんか出来ない。
だが。
言葉にしなくたってもいいことだ。
「? ボンド、あんた」
「うっせぇよ。馬鹿女」
「!? っは、はァ?!」
「サト江。次だ、次!」
『えぇ。喜んで♪』
--Pi……。
『これが俺の研究だ! ああ!』
--Pi……。
次の映像には二階堂サクラの悲痛な叫びは。
なかったかのようになっていた。
恐らくはーー消去を逃れてしまったカットなのだろう。
リナとボンドは、そう思った。
だから、同時に。
もう二階堂サクラは死んだのだと。
そう思い込んだ。
だが、すぐにそれも。
吹っ飛んでしまった。
--Pi……。
『ああ。博士、博士……博士ェ』
--Pi……。
声だけだったが。
二階堂サクラの肉声だった。
場所は同じく研究室の中。
映る研究室は、どの場面も同じだが。
時折、散らばったシーンも。
一瞬、あったりするのだが。
その一瞬はーー余り、映し出されない。
--Pi……。
『よぅやく。ここまで来れたよ、有難うーーサクラ君』
また、設置されたカメラが動いた。
誰かが、持っているのだ。
一瞬映った指先は細く、黒く長い髪が。
フレームに映った。
『いえいえ♪』
声はーー二階堂サクラ女史だ。
『後はだよ? この子をーーどうするかだよね?』
『ええ』
『サクラ君。君ならーー』
『恐らくは博士と一緒でしょうけど。私は育てますよ』
芯のある言葉だった。
それにトントも、
『本当に君には。驚かされることばかりだよ』
苦笑交じりに言った。
『名前をね、どうしょうかと。悩んでいるんだよね』
『名前……名前ーーサト江。サト江は如何ですか?』
二階堂サクラが、そうトントに提案をした。
しかし、トントは何も言い返さなかった。
『お嫌ですか?』
『どうして。そこでーー俺の母親の名前を出すかなァー』
少し低い口調のトントに、
『親の親になる。子が子になるーー親子』
回りくどい言い方をしながら、
『愛を持って接してあげてください。ね、トント博士♪』
声を弾ませる二階堂サクラ。
『愛で世界を救いましょう♪』
--Pi……。




