第十九話 トントと研究成果
透明だったものが俗世に穢れ。
真っ黒になってしまった。
鬼灯トントはまさにーー典型的な型だった。
それが悪い行為なのか。
それが良い行いなのか。
善悪の狭間がーーなくなって一つになってしまっていた。
--Pi……。
『サクラ君』
またしても。
二階堂サクラの名前が出て来た。
やはり、この二階堂サクラは。
顔だけが映し出されていない。
しかし、豊満な胸を確認出来。
二階堂サクラが女性だとは分かった。
ただ。
声は中性的でーー少しアルト。
『はい? 何ですか、トント博士』
『君は。俺の研究はーー可笑しぃと思うかい?』
椅子に浅く腰を据え。
項垂れるトントがか弱い声で言う。
その状態の彼に、彼女は。
『利益にならない研究ですね。出来れば早急に、依頼研究を終わらせて頂かないと』
何かをめくくっていた。
『……--愉しいというのは研究の根本的に大事なことです。それが間違いだとは言いませんよ』
『はっきり言うよねェーサクラ君。君って雇用主にさぁ』
『大事な中枢研究員はクビにはし辛いでしょう? ……ザマぁ♪』
『っふ! サクラ君。君ねぇwwww』
ふくらはぎまで覆っていた白衣が浮いた。
そして。
『私は貴方の虜ですよ。貴方が間違えるのなら、一緒に道を踏み外しましょう』
カメラのフレームにようやく。
サクラの頭部が映し出された。
彼女の顔はトントの膝の上に置かれていた。
『--……ここの研究員。皆、一同がーー貴方の手足で在り。脳なのですよ』
顔は見えない。
どんな表情で。
そんな酔狂な台詞を吐けるのか。
録画記録しか見ることの出来ない。
ボンドや、リナには分かりかねることだった。
--Pi……。
「本当に理数系って! 暗い!」
「明るい暗いって理屈じゃねェんだよ。リナ」
「! 何よ?!」
熱がヒートアップしていくリナ。
それに対して。
平静に、クールダウンしていくボンド。
「同じ穴の貉。つまりぁ、感性も同じ奴らが集まるんだ。だから、理屈じゃねェんだよ。リナ」
口元に重ねた手を置き。
低い口調で言う。
「だから暗いって言ってんのよ! 馬鹿‼」
「あ。サト江、続けてくれ」
ボンドはリナを放って置き。
『ええ。分かったわ』
バーチャル初号のサト江も応えた。
--Pi……。
『っは、博士?! 博士?!』
カメラのフレームにはまたしても映っていなかったが。
サクラの戸惑いの声が。
その音声が残っていた。
『っこ、こんなのは! こんなのはッッ‼』
『--……ああ。サクラ君。君ならーこの研究が分かるだろう?』
『分かりません! っわ、分かりたくもありませんッッ‼』
突如として固定されていた。
ビデオカメラが動き出した。
大きく手ぶれがし。
揺さぶられていた。
『離して下さい! 博士‼ トント博士ッッ‼』
悲痛な悲鳴が木霊した。
引きずられているのかもしれない。
そう二人は思った。
『サクラ君。君は研究の中枢だ。俺の研究の成果を見届ける義務があるんだよwwww』
--Pi……。




