第十八話 トント博士の成功
無欲からの産まれた貪欲なるーー無垢な感情。
全てを忘れられる瞬間。
生きているという実感。
「……キモイ」
「まぁ。分かんなくもないんだよなァ~~こぅいうの」
「っはァ?!」
恍惚としたトント博士の表情に。
リナは胸糞悪い気持ちになり。
胸やけを覚えた。
「どこにそんなのを感じたのよ! 気持ち悪い‼」
「どこって。ぅうん~~なんつうぅかさーこいつのよー」
「はァ?! 何よ‼」
声を荒げながら、リナがボンドに詰め寄った。
「あんたもあんな体験でもあるっての?!」
「--……あるさ」
「はァ?!」
顔を寄せたリナの顔を強く掴み。
「教えてやるよ」
唇を塞いだ。
『あら♪ あら♪ 獣ねー男ってのは♪』
あまりに突然のことで。
されてしまったリナも茫然と、ボンドの顔を見ていた。
「ンん゛ン゛! ァ゛、わ゛!」
勢いよく振りかぶった拳が。
ボンドの頬に命中した。
「ぁだっっ‼」
「いい加減にしょっちゅうキスしないでよ‼」
「だーからー~~伝達行為であってーキスなんかじゃないっての!」
「キスだから! あんたがしているのはキ! ス‼」
ボンドの胸に指をやり。
トントン! と充てる。
『続けてもいいかなー~~??』
「「いい‼」」
--Pi……。
『ようやく。俺はーー』
ここにきて。
ようやく何かの手ごたえなのか。
大きく椅子を回しーー腕を伸ばし回転した。
『実験をスタートラインから進んだ!』
十代に満たなかった少年は。
そのあどけなさを失い。
貫禄のある青年となっていた。
『母さん! 俺は手前を超えたんだッッ‼』
そう言いながら。
トントがカメラのレンズを見た。
『俺はーーこの世界を救うんだよ‼』
鬼気迫る彼の様子に。
--Pi……。
思わず。
誰かが止めた。
『このときから。あの人は異常だったの』
バーチャル初号のサト江が短く。
モニターのトントを見た。
彼女の表情は冴えない。
まるで。
人間のような。
精密なーー何か。
「なら! また精神科病棟に入れればよかったじゃないの!」
『--残念ながら。この研究所にはあの人の信者しかいないの』
「ああ。じゃあ、仕方ねぇなぁー」
『ええ。なるようになった結果がこの様よ』
ボンドも、
「その結果が、どんなものだったのかってのにもよるよな」
短くサト江に漏らした。
言われたサト江も。
『それは、この続きを見れば分かるわよ』
--Pi……。




