第十七話 トント博士の狂気
彼は純粋に研究欲に飢えていた。
それ故に。
上手くいかない研究に自身を追いやっていっていた。
『どうして!』『何故ッつ‼』『どうしてだァ‼』
嗚咽に、ボンドもリナも。
顔を背けてしまうこともあった。
長い年月の記録にしては、一本一本と。
時間も短くーーあっという間だった。
「ねー~~まだあるのー~~?!」
『ええ。まだまだ、あるわよ♪ お姉さん』
「! お姉さんって呼ぶんじゃないわよ!」
「おーい。いいから、さっさと観ようぜ。時間も惜しいしよ」
ボンドが腕を組みながら。
モニターを見据えていた。
(こいつが。《人円類》ってんなら)
口をへの字にさせ。
(--……きっと。俺は、こいつには勝てないな)
苦笑した。
「何が可笑しいのよ! 笑ったりして!」
偶然見てしまったリナに強い口調で責められてしまう。
だが、
「いいや。何でもねぇさ」
あえて、そのことは伝えなかった。
恐怖を与えたくもなかったからだ。
「さ。観ようぜ。サト江、続きを」
『ええ。ボンド』
--Pi……。
『博士。息抜きに何かをされては如何ですか?』
初めて。
彼の記録したものにーー彼以外の声が聞こえた。
それに彼も驚いたのか。
画面が落下した。
ガ、タタン‼
『お、脅かすんじゃないよ。俺を、二階堂サクラ君』
『失礼ですが。ノックをしましたよ?』
『……もう、いいよ』
画面が持ち上げられ。
サクラの姿は首までしか映っていなかった。
『--息抜きね。俺、そういうのが一番苦手だよ』
『知ってますよ? だから、言っています』
『いぃ度胸だ。さすがは俺の研究を手伝うだけあるよねぇ』
『どぅも♪』
終始和気藹々と会話が続いた。
この記録が今までーー長かった。
『博士はいつだって全力投球過ぎるんですよ。ほら、昔夢中になったこととかありませんか?』
『--……ママに怒られた研究は。うん、息抜きになるのかなぁ?』
『息抜きはあくまで息抜きですからね? その辺、勘違いしないで下さいね』
トント博士はサクラの助言に従い。
他愛もない息抜きを始めた。
しかし。
その息抜きは次第に熱を帯び。
本来の治療薬の研究も滞り始めた。
--命を弄ぶ真似は許さない!
正に。
トント博士の母親が危惧したことが。
起こってしまったのだ。
他愛もない研究員の一言によって。
◆
『ああ! 愉しぃ‼』
◆
『上手くいかなかった原因を考えねば』
◆
『ああ! 愉しぃい‼』
ーーPi!




