第十六話 トント博士 序章
--ママは。優秀な研究員だ。
目の前のモニターに映し出される。
少し印象の違うーー鬼灯トント博士になる前の少年。
--それは誰だって分かっているし、だからこそ。研究に時間を費やせるんだ。
落ち着いた声のトーンに。
どこか大人になってしまう悲哀を感じさせた。
--仲間……うん。俺には一番、縁遠いものだ。
トント少年が、強い口調で。
そう漏らしーー嗤った。
彼の様子に、リナも。
「こっから見せられたらさーかんなり、長くない??」
『ええ。かんなり、長いわよ』
「いいじゃん。お前、海外映画のシーズンぶっ飛ばして視る派かよ」
「映画観ないし」
「じゃあーシリーズもんのゲームを飛ばしてやる派かよ」
「!? っそ、そぅね……見ましょう!」
リナも椅子の腰を据えた。
がっしゃん! と荒く音を立てて。
「でも! ちょいちょい、巻いてよね!」
『はぁー~~い♪』
「ほら。観ようぜ」
◆
『ママが死んだってさ。ああ! 俺はやっと、やっと‼』
◆
『俺には絶対得られないものが。やっと、得られたよ。ママ』
◆
『三圀島だ。ママの研究所があるんだ。ここが俺の新しぃ家になるんだ』
◆
『何でだ! ぁアアア゛ァ゛アアアッッ‼』
--Pⅰ!
ここの場面でバーチャル初号のサト江が動画を止めた。
それに、二人も何も言わない。
絶叫するトント博士の絶望に息さえ飲み込めない。
最初は、ようやく精神病院から出されたことに感激し。
浮かれる彼に、
『親が死んだってのに』
『いやいや。でもこれで彼は自由になれたわけで』
リナとボンドが言い合う。
から。
久しぶりの外は彼には刺激がありすぎた。
同時に莫大な遺産が一人っ子だった彼に受け継がれたわけだ。
そして、母親の手がけていた研究も引き継がれたのだが。
それは彼にとっての挫折だった。
『そりゃあ。してる人間が違えばさーこうなるわなァ』
『一概には言いきれないが。まぁ……どぅだろうなぁ』
二人のため息交じりな声に。
サト江が、
『ええ。いくら頭がよくても。頭の構造はーー別なのよ』
そう低く呟いた。
◆
『……--一からだ。一から全部ーー創り直すんだ‼』
◆
『上手くいかない……何でだ……どうして』
--Pi‼




