第十話 トント博士と嗤う女
ギィーー……。
ギィィイイイーー……。
「やっぱり。お前の指紋照合で開くのか」
掴んでいたリナの手首から。
ボンドも、手を離した。
腑に落ちないといった表情でリナも、ボンドを睨む。
「何でも、かんでも私で試さないでくれる?」
「さっきもやったんだから。いいじゃねェかよ」
「そぅ言う問題じゃないし!」
騒ぐリナを他所に。
「……ぉ。灯りが点いた、な」
『点けたわよ! 感謝しなさい』
「!?」
ボンドの目の前に、立体ホログラムで浮き上がった。
少女の姿があった。
思わないことに、ボンドの身体も。
一歩後ろに、飛び跳ねて下がってしまう。
「っな、何なんだよ! お前はッ!」
『ん? ボクかい?』
唇を突き出しながら、にこやかに。
ボンドに、彼女が訊いた。
「ああ! そうだよ! お前だよ‼」
威勢よく、ボンドも言い返した。
「そいつはサト江だよ!」
ボンドの横に、リナがつき。
その少女の名前を言い放った。
「何? 知ってんのかよ」
「ええ! トント博士と一緒に居た女よ」
「? 一緒に居たーー女、ね?」
◆
鬼灯トント博士は遺伝子学の博士号を持つ男だった。
ここーー《光圀島》にも、その研究でやって来た。
ここまでで疑う要素もない。
一年、二年と。
三年、四年と。
そして。
六年目の年の夏頃に。
トント博士の横には笑顔が張りついているかのような女が。
寄り添っていた。
いつから、そこに居たのかさえ島民は知らない。
ただ、その妖艶な女に酷く恐怖し、寄りつくこともしなかった。
全身真っ黒なワンピースに、首元には花のネックレス。
薄いピンクの髪は上でアップし、花の髪飾りを。
唇には紫のグロスが塗られていた。
彼女の名前がーーサト江。
後の全ては、一切が不明だった。
◆
「悪趣味。こんなものも、あの女にするなんて」
「? 何、そんなに嫌うんだよ。リナ」
リナの口調にボンドも、首を傾げた。
「そんなに。その女はーー」
「薄気味悪いのよ。顔に笑顔が張りついてて」
「ふは。そんだけかよ」
ボンドは肩を上げ。
「で? お前はーー何者だ?」
そう目の前の少女ーーサト江に訊ねた。
すると、サト江も。
『ボクは《サト江》プロジェクトのバーチャル零号のサト江だよ』
幼い彼女の目が大きく、まつ毛も長かった。
薄いピンクの髪が顔を隠すほど多く。
左右に縛っていた。
服は白いエプロンに、黒いワンピース。
『このプロジェクトの発案者は。君の両親だよ、間宮リナ』
その言葉に、ボンドの目が大きく見開かれた。
リナの身体は、小刻みに震えている。
『ボクの産みの親は、間宮夫婦なんだよ。リナ?』




