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第一話 地上の島国

 八月の夜、雲の中。バサバサ! 強い向かい風に宙を一列に箒に跨った少女たちのスカートがたくし上がった。その度に少女の口から飲み込めなかった悲鳴が漏れる。


「みなさん。風が少し強いですが、きちんとついて来て下さいね」


 強い口調で促すのは、少女たちを引率する教師のミザリィ=ビアンカ。

 長い亜麻色の髪も左右に大きく靡かせるミザリィと少女たちが居るのは地上遥か上の空。雲の合間を悠々と浮かぶ。野鳥たちも行き交う空の中で、少女たちは誇らしげに眉も凛々しく口先も笑みだ。少女たちの一列の横に引率のミザリィが箒に跨り、人形のように無表情な面持ちで奔らせる。


 少女たちは幼いながら、れっきとした魔法使いの《人円類(ウロボロタルト)》と呼ばれる種属だった。さらに魔法使いとは違い隔世遺伝で魔力を持った子どもたち。魔力と素質、超越し選ばれた人間の《人類(ヒューマタルト)》には《純潔種マシュホワ》と《混血種クロマクロ》の二通り存在し、適齢期から突然と選択と告知を受けることで困惑は当然するのだが、家族からの後押しもあり、魔法界の学校への進学と学生寮での生活をして、ほとんどの学生たちは魔法界繋がりの仕事を得て、生涯を魔法界で暮らすこととなる。


 ミザリィが引率する魔法使いの卵である子どもたちは【魔法界】の魔法学校に通う許可を得られ向かう途中であった。


「いいですか? 箒をきちんと握り締めて魔力を制御して、きちんと来て下さいね」


 こうして魔法界の学校に向かって空を飛び為に地上で三か月の研修を受けて、今日のぶっつけ本番で少女たちは箒を奔らせている訳だ。怖くないはずもない。魔法での加護があるにしても視線を落とせば地上は遙か下なのだから。


「難しい~~ですぅ~~先生ェ~~っ!」


 泣きごとを言うのは決まって――《混血種》の少女たちであった。

 そして。それを鼻先で一蹴するのが《純潔種》の少女たち。うんざりかと目を細めてつんと表情も口先もへの字だ。


「ただ箒で飛んでいるだけで泣き言を言うようであれば、この先の試験にも通りませんよ。つまりは《失格》です」


 ミザリィが少女たちを視ることなく言い放つ。その硬い口調と言葉に泣き言を漏らしていた《混血種》たちの口も閉じて、目も細められた。「失格」という重い言葉が肩に圧し掛かり、何も弱音も言えなくなってしまう。


「貴方たちは《神》に選ばれたと優秀種属であるという自覚が自身があるのなら。泣き言など言えるはずがありませんよね?」


 魔法使い見習いとなる少女たちの中。たった一人だけ――少年が居た。


 彼の名前は――(ツルギ)ボンド。


 父親がニホンオオカミの人狼で母親は欧州の魔女。

 彼は《混血種》だ。


 ボンドの吊り上がった目の視線が地上を見る。

 強い風が、頭部で縛っている髪を大きく靡かせた。


 彼の視界に映るのは日本の遙か最果てにある孤島。無人島ではないと分かるのは、灯りもあちらこちらとバラバラにあったからだ、島民の数も一握りであることも分かる。


 父親の故郷だと頭で考えていた。そんな彼に利発そうな少女が箒で横について問い掛けた。表情は明らかにからかいでニヤついている。


「ボンド(っくぅん)。君ってばぁ~~日本人の血統種しょ? 今、日本海域上空に居る訳だけどぉ~~」

「だから、何なの」

「いやぁ~~うふふ。懐かしかったりするのかなぁ? って」

 少女が箒を横につけながら意地悪く訊く。

「いや、俺は住んだことないから懐かしいも何もないんだけど」

「ああ! 日本から逃げ出したからぁ~~祖国じゃないのかぁ~~ごっめ~~ん♪」


「ブス。うっせぇよ」

「~~っつ! 死ね! 根暗ッ‼︎」


 素っ気なく応えるボンドに、少女が杖を向けると、先端が淡い桃色の閃光を放つ。しかし、すぐに大きく膨らむと一瞬で小さく畝って消えた。


「ミランダ。魔法界以外での魔法が禁止されていますよ」


 またしても振り向かずにミザリィが少女を諭すように告げる。

 

「そして、選ばれた者同士での諍いは禁止されていますよ? 《人類ヒューマタルト》に堕ちたいのですか?」


 ミザリィの言葉の硬さに嘘ではない、と少女も口をへの字にさせることしか出来なかった。小さく柔らかな身体も魔法学校のマントに包まれてたまま小刻みに震えた。


 彼女の言葉と掛け合いに少女たちも押し黙ってしまう。空気も悪くなる中でミザリィも小さく息を吐いて「皆さん、いいですか」と両手を叩き弾いた。


「学校に着くまで、簡単な授業をしましょうか。では、初歩的な質問ですよ」


 バサ。バサバサ! と全員のマントが風に靡いて舞う。


「《人円類》と《人類》は戦うことは出来ません。何故(どうして)でしょう?」


 突然の問題に少女たちもざわつき、声もしどろもどろと答えを探している。そして、導き出した言葉を口にするのだが、正解なのかは分からない。しかし、答えを言わない訳にもいかなかった。


「ぇ、っと……確かぁ~~」

「はい! 《人類》に魔力を無効化されてしまうからです!」

「《人円類》が《人類》の祖であるから、魔力が魔力を喰べてしまうからだよ! だよ!」


「正解です。つまりは私たちと彼らは同じ世界には居られないと言うことですね」


「先生」


 ミザリィの言葉を遮るようにボンドが声をかけ、ミザリィの横に箒をつけた。しかし、ボンドを無視してミザリィは話しを続ける。


「一緒では《人円類》自体が魔法も使えずに《人類》同様に劣化種属と一緒になってしまうということですね」


「海上の島がーー真っ赤になっているぜ?」


「真っ赤に? ですか……――ああ、本当ですね」

 冷静に言い返すミザリィにボンドも眉間にしわを寄せて想像を口にする。

「ひょっとして。《人円類》が……」

「それはありません。私達は人間界で攻撃が出来かねますから」


「でも。先生っ」


 食い下がるボンドにミザリィも目を細めて咎める言葉を投げかけた。彼女にとって、どうでもいい島を心配する彼が面倒くさかったに他ならない。ここで強く家族のことをいえば、収まり、押し黙るだろうと思ったのだが。


「父親や、母親のように偉大な《人円類》にはなれませんよ。顔に、その名誉に泥を塗るつもりですか?」


「そんなつもりなんか、ねぇですけど……」


 ミザリィの言葉にボンドの肌が泡立つ。

 胸の中がザワつくのが分かる。血が沸騰する――《怒り》を覚える。何も言ったところで、どうもしようとも、興味すらもないミザリィの態度にボンドの見切りも早いものだった。


「先生っ! 俺! 見て来るからっ!」


 ボンドが柄を掴んだ箒が真っ逆さまと速度も増して落下していく様子にミザリィの目が信じられないものを見るかのように唖然となり、同級生である少女たちも一斉に悲鳴を上げた。


「きゃぁああ!」


 ミザリィは目を細めて、口許を震えさせた。

 月の光が彼女を照らす。


「皆さん、行きますよ。どうせ彼もすぐに戻って来ますから」


 しかし、ミザリィの予想とは裏腹に彼が、少女たちの元に自力で帰って来ることはなかった。

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