第七十一話 道化
「イャハハハ!これはこれはダンテ殿。堪能させて頂いておりますよ!それにしてもこの食事は実に美味でありますな!何せ船旅で食べれるものは限られておりましたので!失敬、それは二週間前の話でしたな!と、ダンテ殿そこなところに立ってずささ、こちらにこちらに。おろ、そちらの方は一体どなたですかな?」
(……うっせえ!)
案内され、出会った男の第一印象がそれだった。
両手に直接肉やら果実やらを持ち、口を開けては次の食べ物をどんどんと放り込みながらこちらの方を見て口うるさく喋る。
その男性は背まで伸びている金髪を後ろで束ね、オールドブルーの目で言動とは裏腹にこちらを観察するような目を向けてきた。
(ダンテが言っていたのはこういう事か)
スグルは先程この男性についてダンテから聞いていたことを思い出した。
『そいつは絶対馬鹿みたいに見えると思うわ。ただ舐めたらあかん。わざとそう振る舞ってる感がある。心ん中で何思とるかは知らんけどわいと同類、商売人やで』
思い出した内容と今を照らし合わせていると直ぐに観察するような据わった目を隠した。
「ほれスグル、挨拶や」
スグルはそう言われ慌てて一礼する。
「ラザレフ殿。お初にお目にかかります。俺はスグルと申します。以後お見知り置きを」
「ヤハハ、こちらこそよろしくですよ!こちらはお世話になっている身!どうか普通にして貰ったらと!」
スグルが座ったのを確認し、ラザレフが話し出した。
「それでダンテ殿。本日は一体どのようなご用件でしょうか?」
先程までのわざとらしい陽気な性格はすっかり息を潜めてしまい、そこには確かな自己を持った一人の商売人の顔があった。
「いやなに、スグルがラザレフはんの国の話を聞きたい言うてな。ここはひとつ、良かったら話してくれんか?」
「そういう事なら全然!さてさて?スグル殿は何を聞きたいのですかな?」
コロコロと言動を変えながらスグルにそう聞いて来る。
「ラザレフさん、でいいかな?ラザレフさんはここの外の大陸から来たんですよね。そこはどんな大陸だったのですか?」
慣れない敬語で横のダンテが吹き出しているのが見えたので足を思いっきり踏む。
「そうですね……漠然としておりますので明確な答えは出来ませんが、それなりに豊かであったと思いますね。ワタシが商業組合という国の統制機関に所属しているというのはご存じでしょう。商業組合というのはダンテ殿の商業ギルドに似ておりますな。一番上に五人の商人がおり、国の方針を決めるのです。ワタシも一応そこに所属してますがまだまだ若輩なもので、意見が通るということはほとんど無いわけですな。私は普段、行商にて利益を上げておったのですが、最近はどうも煮詰まっておりまして。そんな折ワタシは海の向こうに目をつけた訳です。こんな近場の海じゃなく、もっと外には違う大陸があるのでは、とそう思いましてな。もう気づいたら直ぐに自前の船で出航しておりました。その結果が漂流という形になった訳ですが」
何やら思案しながら、一息に次々と答えていく。
「それは災難でしたね。ところで、船が破損された原因はなんだったのですか?」
「イャハハハ、海には様々なモンスターがいるのですよ。その中でワタシ達は鉄硬魚にやられたのですねぇ」
「てっこうぎょ?」
「文字通り、鉄の硬さほどの魚です。ウチ自慢の鉄と木材で組み合わせた船も一瞬で穴を開けられてしまいましてねぇ。なんとか風魔法で帆に風を当て移動して来たところに陸地が見えた訳で。こりゃ行くしか無いっちゅう事でお邪魔したんで」
(そんな怖いモンスターがいるのか。……これなら売れるんじゃないか?)
そう思いながら、ダンテにある物を取って来るように頼む。
「おろ?ダンテ殿はどちらに行かれたのですかな?」
「いや何、ひとつ物を取って来てもらおうと思いまして」




