第五十七話 暇つぶしに
「それにしても多いな。どんだけこの谷に住んでんだよ」
ため息交じりに笑う。
ジェイル達を追いかけていたゴブリンの群れは最後尾が見えないほどに続いていた。
仕方なくある程度の数が追っていったところでゴブリンの間に割って入る。
突然現れた新たな侵入者に戸惑いを覚えた。
その隙を見逃すわけもなく完全に後続を断つために周りのゴブリンを一掃する。
割って入ってきたスグルのことを敵と認めるまでに数体が首をはねられ、ルーの牙で噛み千切られた。
「ま、80体ほどは向こうに行っちまったがいけるよな」
『主君、前の敵に集中したらどうだ』
適当に目の前にいるゴブリンをあしらっているのにルーは注意する。
「おう、すまん。でも弱いこいつらが悪いんだぜ?せめてレベル30はほしいとこだ」
スグルは簡単に言うがレベル30台のゴブリンなど、災害以外の何物でもないだろう。
それだけたくさんの生き物を殺しているということなのだから。
ここにいるのは、たいていがレベル7や8程度の一般的なゴブリンだ。
愚痴を言いたくなるほどに、多対一という状況をまるで理解していない統率のない動きしかしてこない。
「ほら、こんな剣速でさえスパって切れるんだぜ?愚痴も言いたくなるってもんだ」
手に持った刀で棍棒を振り上げて近寄ってきたゴブリンを半身で両断する。
ゴブリンたちも一定の恐怖はあるのか、お互いに攻めようとしてこない。
「ほれ、弱いうえに臆病と来た。こんな奴ら戦うだけ無駄だ無駄」
『確かにそうではあるな。しかして、なぜこのような奴らに先ほどの男たちはやられたのであろうか』
「ああ、なんでも谷の底に入ったらいきなり上から矢が降ってきたのと不意打ちでやられたらしい。まあいくらあいつらでも普段からこんな奴らにやられるほど落ちぶれてはないだろ」
『なるほど。それで先ほど先行して弓矢を持つゴブリンを片してきたわけだな』
「ま、俺に奇襲なんて銃弾の速度で【空間把握】の範囲の及ばないところからじゃないと意味ないけどな。ほんと、このスキルだけはチート染みてると思うわ」
そろそろこのグギャグギャと耳に響く鳴き声もうざく思ってきた。
スグルはゴブリンを冷たい目で見上げ、鬱陶しそうに
「あー、こいつらマジでうぜえな。ジェイル達には悪いが間引きじゃなくて殺すか」
『そうくるのを待って居ったぞ』
両者とも我慢することが苦手なタイプである。
スグルたちの雰囲気が変わったことに対し、ギャギャとわめきながら警戒態勢を強めそれぞれが注意深く見るが、
「だからうっせえつってんだろうがぁああ!」
『その臭いにおいをどうにかせい!』
いくら警戒をしても所詮はゴブリン。
怒り心頭の二人の前には何もできず倒れていく。
スグルはゆっくりと刀を横に抜き、
ブシュッブシュブシュッ!
ゴブリンの目には到底映らない速度で目の前に構えている棍棒ごとたたき切りつける。
刀や剣といった刃物はなんでも切れるなどと容易に思うのは間違いだ。
切り抜くためには、まず自身の型などというものは必要ない。
型というのは、剣を綺麗に、真っ直ぐふるえるようにという修練が目的とされている。
もちろん型自体にも意味はあり、基礎がなっていない人ならば型通りにやれば実戦でもそれなりの役には立つ。
しかし、ある一定。
即ち達人と呼ばれる人ほど自身の型を捨てている。
このような、人ならざる者を相手に取るときは尚更に。
(どうせなら目を瞑って戦ってみるか。相手もゴブリンだしあの暗闇でのクラーケンとの予行演習と思えば丁度いい)
そう思い、スグルは目を瞑り【空間把握】で入ってくる自身の周辺の空間に気を向ける。
ゴブリンが手に持ったナイフで襲いかかってきてる。
「これくらいならいけるな。でも完璧に気配が読めるってわけでもないししばらくはこのままで練習してみよう」
手に持ったナイフを切り飛ばした後、迷うことなく相手の首元に刀を振るいながらそう言う。
首元に吸い込まれて言った刀は止まることなく
スパッ
と相手の首を刈り取った。
現在小タイトルの方を少しずつ変える作業を行っております。気にしないでいただけると幸いです




