第四十六話 昼と騒動
「昼はどこにする?」
すっかりお腹も減ってスグルはミウに聞く。
「お肉がいいなー。お腹減ったよ」
「どっか良い店知ってるか?」
「宿屋と兼用の酒場が美味しいんだよね。最近見つけた場所なんだけど」
「じゃあそこにしよう。案内してくれ」
ミウは了解〜っと軽い声で歩き出す。
先程の道とはまた少し外れて小さな路地に入って行く。
よくこんな道で迷わないなと思いながらスグルはミウについていった。
「さて、ここがミウのオススメだよ!」
店の前に立ってミウは腰に手を当てる。
そこは神殿から20分ほどの距離にあった。
見た感じは木造建築でかなり年季が入っている。
地味に初めて見る扉の真ん中だけに取り付けられた両開きの板が扉となっているモノをミウが押して店に入る。
見た目通り、ギィーと木々が擦れる音と共に軽く開いた。
中はかなり広めに取られており、20ほどの丸テーブルが置いてある。
酒場ともいっていたから奥のカウンターが夜はバーになるんだろう。
今は二時過ぎあたりだからか半分ほど席が空いていた。
ミウは近くの丸テーブルに寄って座る。
スグルも習って座るとウェイトレス姿の女の子が寄って来た。
白黒の服が壊滅的にこの店と合っていない。
「いらっしゃいませ!こぐま亭へようこそ!こちらがメニューになりますので、決まったら呼んでください!」
その女の子は机の上にメニューを置いて他の席を回る。
見た所他に従業員はいないようだ。
「お兄はどうするー?ミウはボアの角煮とクリームシチューのするよ」
「うーん、オススメはあるか?」
こういうところでメニューに料理の絵が無いのがいつも気になる。
一応西洋ヨーロッパが基準の世界らしいしそれほど技術面でも高くはなさそうだがやはりサンプルが無いとどんなものかがわからない。
「そうだねー。前食べたボアの生姜焼きとかエアバードの唐揚げが美味しかったかな。まあそれ以外食べたことないんだけど」
「おい。じゃあ今日はそれで良いか。すみませーん」
さっきの女の子にそれぞれ注文する。
わかりました、と言ってカウンターの奥に入っていった。
「そういえばお兄、大学もうすぐ始まるんじゃないの?宿題とかないの?」
料理を待ってる間にミウがそう聞いてくる。
「逆に俺が聞きたいんだがミウの学校って何日に始まるんだ?俺はあと3週間くらいあるから全然大丈夫」
「あ、そうなんだ。ミウは3日後に始業式かなー。学校行きたくないよー」
「まあ高校の時は俺もそう思ってたなー。精々頑張れ若者よ」
「お兄も若いじゃん。宿題は夏休みに入る前に終わらせたから良いけど少し復習しとかないとテストヤバイかも?」
「俺の時は何もやらんで点もそんな良くなかったからな。頑張ってくれ」
「そう言ってちゃんと大学いけてるんだから良いじゃん。はー、学校だるいし志望校とか決めてないし」
ミウの愚痴を聞いていると料理をもった女の子がこっちにくるのが見えた。
「お待たせしました!エアバードの唐揚げになります。ボアの生姜焼きと角煮は少々お待ちください!」
自分の前に置かれた唐揚げをスグルは見る。
そしてそれを凝視しているミウに苦笑して皿を前に押した。
「ほら、ミウも食べろよ」
「いいの?」
「そんな目で見られちゃな。ほれ、冷めちまうぞ?」
口の中に一つ放り込む。
カリッと揚げられた皮を噛むと、中からは熱々のジューシーな肉汁が口の中を飛び散る。
「美味しいな」
「でしょ!ここの料理かなり美味しいんだよね。他のも期待してて良いよ!」
唐揚げを食べていると無性にご飯が食べたくなって来た。
この世界にもコメがあって良かったと初めて思う。
少しして他のボア料理も持ってきた。
スグルは折角なので昼だがブドウ酒を頼んだ。
思った通り、かなりワインとこの料理は合う。
ワインを少しずつ飲んでいると、店の扉がギィ、と開いた。
入ってきたのは皮系の軽装備で背中に曲刀を背負った男性だった。
そして、その男の頭の上には黄色のカーソルが表示されていた。
その男は一直線にウェイトレスの女の子に近づいていった。
そして机を吹いていた女の子の腕を掴む。
ニタニタと悪い笑みを浮かべた軽薄そうな男だ。
「ねえ君、暇ならオレと遊ばない?」
それを聞いた瞬間スグルとミウは思わずフリーズした。
まさか、こんな日中の酒場で視線を気にすることもなくプロポーズ?もしくは略奪?しにきたのだから。
周りに座っていた客たちはみんな面白そうに見ている。
「こんな白昼でナンパって。恥ずかしくないのかなお兄」
「それ以前になんでミウに声をかけないんだ?ミウは可愛いのにあの男バカだな」
スグルがシスコンを発動しているのを、ミウは白けた目で見る。
「あの、他に用事がありますので」
「そんな釣れないこと言わずにさー」
女の子が手を払おうとするが上手いこといかない。
聞く耳を持たない、というのはこういうのを言うんだろうとスグルは思う。
女の子からすればただ迷惑な話だが。
「で、どうする?」
「嫌がってるし止めてあげてよ。この店の料理美味しいし好きだから」
「はいはい」
ミウはボアの煮付けを食べながらそう言う。
そう言っている間にもどんどん声が大きくなっていく。
女の子は本気で嫌がってるのが分かる。
「おい、あんた。それくらいにしときな」
なぜ俺の周りはいつもこううるさいんだ。
そう思いながらその男性の肩に手を置いて後ろから声をかけた。
なぜ俺の周りはうるさいのか
↓
主人公だからです(キリッ
1/21)相手をプレイヤーからNPCに変更しました。




