第四話 モンスターと門番さん
気づいた方いないかもしれませんがミウの兄への呼び方を兄ちゃん→お兄に変更しました。
side.ミウ
神殿を出た今で11時かあ。
お兄と約束した18時まではまだまだ時間あるなぁ。
このゲームは意地悪なところが結構ある。
最初だったら武器の入手とか。
他のゲームだったら武器は最初鈍であっても貰えているゲームが多いけど、このゲームは店で買う、鍛冶屋のプレイヤーに作ってもらうモンスターがドロップするの3点で入手することができ、最初はなんの武器も持っていないんだよね。
ここで最初の問題なんだけど、ダイブ感覚で動けるこのゲームで、しかも今日はリリース初日。
全員とは言わないけどだいぶ興奮状態になっているのは多分当然だと思う。
そんな状態でまず何をするのか、半分以上の人は恐らく町の外に行きたがると思う。
わたしもそうだったし。
でも、いくら現実と同じ身体とは言ってもこの世界はそこまで甘くない。
武器もなく、ジョブは旅人のまま。
そんな状態で始まりの町付近とはいえモンスターと戦ったら殆どの人は大神殿送りになるだけだ。
ゲーム開始時の所持金は10000G。
Gというのはゴルド、なんとも安易なこのフォーチュンのお金の単位。そして10000Gというのは完全AIのNPCが開いている鍛冶屋で売っている鈍武器一つの値段に相当する。
本来なら最初に鍛冶屋で武器を買ってから挑むべきモンスターに何もなしで挑んで敗北する。
そうすると死亡した彼らは所持金を半分失ってしまう。
つまり、本来武器や防具などに使うはずの10000Gがモンスターに吸われてしまったんだ。
そこから武器もないままモンスターを倒さないとゴルドが手に入らなくてこのゲームは詰んでしまう。
友人がいるのならその人から借りればいいんだけどね。
まあお兄の場合は普通に武器を買わなくても素手で普通にモンスター倒せていたけどあれは本当に一部の人にしか無理だと思う。
わたしもベータの時死んじゃったし。
そういうわけでわたしは今武器を持っていない。
流石にわたしも武器を調達しなければまたベータの二の舞になっちゃうだろうね。
今わたしは待ち合わせをしていた噴水の前に立っていた。
そして中央にある時計台で時間を確認する。
(おっそいなー!もう予定の1時は過ぎちゃってるよ)
そう思ったちょうどその時、肩ををチョイチョイと叩かれた。
後ろを向くと、
むにっ
とほっぺを突かれた。
「はははっ、引っかかったね」
「コラー!遅れといてその態度はなんだー!」
「おお、すまんね。つい出来心でやっちまったよ。あたしの顔に免じて、許してくれや」
「仕方ないなー」
とお互いに顔を見合わせて2人して笑った。
燃えるように赤い髪と強い眼差し、背中に巨大な槌を背負い、胸にさらしを巻いているその女性は豪快にわたしを叩く。
「実に3ヶ月ぶりじゃあないか!あたしに会えなくて寂しかったろう!」
「痛い、痛いよマリさん!そんな強く叩かないで!」
「おおっといつもの癖でついな。で、スグルのやつは居ねえのか?」
マリさんはコテン、と首を傾げながら聞いてきた。
わたしはお兄の特典のこと、そしてついでにわたしのユニークジョブの事を教えた。
「フィールド一個ってのは運営も剛毅なもんだな!それにユニークジョブか!羨ましいじゃねえか!あたしの6位の報酬はでっけえ鍛冶工房と素材だったぜ。空間移動可能のやつだ」
「そっちもいいね!で、一つお願いがあるんだけどさー」
「わかってるよ!あんたの双舞子ってのも興味があるし、あんたの装備はあたしが作ってやるよ!」
「さすがマリさん!ありがとう!」
「いいってことよ。その代わり、今後も鍛冶師マリをよろしくってね」
「もちろん!」
今更だけど、生産系のジョブで攻略ランキング上位に入る事は本当に難しい事なんだ。
まあ、マリさんは本当に鍛冶師なの?って感じで戦闘もするけどね。
「作るのには三日は見といてくれ。その間はどうする?」
「とりあえず鈍で動きの調子を取り戻すかな」
「じゃあこれ持って行っときな」
そう言われてトレード画面が開く。そこには
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【ツインソード+1】
レア度:☆2
種別:剣(片手用×2)
素材:鉄
状態:良
製作者 マリ
【特殊効果】
なし
【解説】
通常のツインソードを使いやすく鍛造したもの。斬れ味、耐久性は並
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「さっき適当に作ったもんだけどそこいらの鈍よりはマシだろうさ」
「マリ姉さんありがとう!あ、フレ申しとくね」
そうして武器を手に入れたわたしはマリ姉さんともフレンドになって急いで町の外に向かった。
先ほど、沢山のプレイヤーが死亡するであろうという話をしたが、その際にロストするゴルドはどこに行くのか。
正解はモンスターが蓄積していくんだ。
モンスターは当然のことだが生まれる、つまりリスポーンする時には金を持っていない。
その状態のモンスターを倒したら当たり前に幾らかの素材アイテムが落ちるだけなんだけど、モンスターにもAIが積み込まれているらしくて、プレイヤーを倒すほどモンスターも強くなっていくという仕組みになっている。
その分強くなったモンスターをわたしたちが倒せば死亡したプレイヤーのゴルドも同時にドロップしてくれる強者にとってはありがたいシステムになってるんだ。
要するに、現在進行形で沢山のプレイヤーがやられているだろう始まりの町付近のモンスターは沢山のゴルドを抱えているというわけなんだよ!
因みにこのプレイは卑怯でもなんでもない。
きちんと運営が作ったシステムに便乗しているだけだからね。
それにどうせ他のベータテスターたちも行ってるだろうし。
おっと、考えてる間に町の門まで辿り着いた。
(いつ見てもこの門といい他の建物といいリアル感がありすぎるんだよね。2万人まるごとフォーチュンに来させるシステムとか見ても今の技術で行けるのかって話だよね。まあプレイヤーとしては遊べたらそれでいいんだけど)
ベータ時の3ヶ月前までは見慣れていた門の兵士さんたちも久しぶり。
でもベータの時のデータは全て消されてるはずだから、今かける言葉は一つだけなんだよね。
「門番の兵士さん、初めまして!ミウって言います!通っていいですか?」
「おお、嬢ちゃん。ここら辺は弱いモンスターしか出ないが危険だぞ。まあ動きからしたら大丈夫だろ。さっきまでずっとこの門は混んでたからな。しかも動きはなってないわ、武器も持たずに外に行くわでほんと迷惑だったよ。おっとすまねえ、愚痴のようになっちまった。俺はジバルってんだ。一応、兵士たちの中で隊長を任されてる。よろしくな」
そう言ってニカッと悪人面で笑ってくる。
この顔で凄まれたら現実なら一瞬で逃げ出すだろうね。
「わかったよジバルさん!じゃあ行ってくるね!」
「おお、気をつけるんだぞ。あと、モンスター狩りを専門にやるなら冒険者ギルドに所属してみるのもいいと思うぞ。ジョブってわけじゃねえが肩書きとしてなら使えるし、素材も定価だが安定して売れるからな」
「気が向いたらそうするね!ありがとう!」
今の話で分かっただろうが、一般のNPC、ノンプレイヤーキャラクターにも全員にAIが搭載されており、まるで生きているかのように応答してくる。
全く、このゲームのスケールの大きさにはただただ頭を下げるばかりだ。
それはそうと...
「ようやく外だよっ!早くレベル上げてスキルも開放しないとね!!」
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(改稿済み)