第三十六話 演説は出立前に必須です
話は飛んで、今日は使節団の出立日当日。
昨日聞いたらミウもやはりいきたいと言い出したため、先にリーシェに頼んでおいてよかった。
ダンテも来たがってはいたが、建設やら計画書の作成やらでてんてこ舞いに忙しいらしく来るのを断念した。
始まりの町の西門前で集合となっているためスグルはそこに向かう。
今回はルーも一緒に連れて行くことにした。
長い間一緒にいられなかったからか、昨日久々に呼び出したら飛びかかられたのだ。
『別に寂しかった訳ではない。ただ物足りなかっただけだ』
さいですか。
今回は始まりの草原を抜け、さらに広がっているクリッダ平原も超えるとヘルネ王国の領土が広がっている。
ただ、他国との接点がない場所だったからか関所などはおいておらず、好きに通ることができるようになっている。
そしてさらに進むと最初にリィースという街がある。
ここはヘルネ王国の辺境伯が治めている街らしく、今回はこの辺境伯に会うことが使節団の目的だ。
スグルは次元の世界の事もあったので霧が晴れても始まりの町以外の街に行ったことが無い。
なので今回訪れるリーシェの街も当然ながら初見の街だ。
普通のプレイヤーなら行っているだろうがやることが多かったので仕方がないだろう。
スグルは西門の辺りまで来た。
前の方を見ると何やら人がガヤガヤと騒いでいる。
その中にはプレイヤーの姿もあった。
前に進んで行くと大きな荷馬車が5つ、並んでおり、今も中に様々な品物がつぎこまれているところだった。
リーシェがその指揮を取っている。
「おお、少年。今日は早いね。良ければ運び込むのを手伝ってくれない?」
こちらに気づいたリーシェは笑顔で手伝いを求めて来る。
人の注目も集まり仕方なしに、わかった、と返答する。
「おい、あいつ誰だ?」
「バカっスグルさんだろ!」
「えっ、なんでまだスグルさんがこんなところにいるんだよ!というかこの団体は何なんだ?」
「俺が知るかよ!てかそれ言うならあっちの指揮してる女の人も誰なんだよ」
どうやらプレイヤーはプレイヤーで見に来ているらしい。
荷物運びに参加すると、先ほどは荷馬車の陰で見えなかったが、シルクも別の場所で指揮していた。
「どうもシルさん。今日はよろしく」
「おお、来ていたのかスグル。それにそいつが草原ウルフか。二人ともよろしくな」
『我はルーという。よろしく頼むぞシルク殿』
「おお、こいつ念話できるのか!いや、ルー。こっちこそよろしく。あと俺はシルでいいぜ」
『ではシル殿と呼ばせてもらおう』
と、こうしている間にも着々と準備は進んでいき、少しして準備が完成した。
横で一休みしていると、とってぃが横から顔を出した。
「あれ?まだスグルしか来てないの?」
「おお、とってぃか。もうすぐ来るはずなんだがな」
「そう?それはそうとこれ、頼まれてたものだよ」
そう言ってとってぃは持ってきていたバケットの中からお馴染み、とってぃ特製弁当を渡してくる。
スグルはそれをアイテムボックスの中に丁寧に入れる。
アイテムボックスの中では時は止まっているので弁当が腐ることはない。
「おう、サンキューな。これで備えもできた」
「いいよ。それにしてもすっかりこの町に入れ込んじゃってるね」
こてん、と首を傾げながら聞いてくる。
「仕方ない。それにそれを言うならお前もじゃないか?」
「ボクは他の街にも興味はあるんだけどね。戦闘のほうではてんで力にならないからいまだ次のリィースの町にも行けてないんだよ。それに現状ではさほど食材の面でも困ってないからね。今はこの状態で満足しちゃってるのさ」
「満足してるならいいが。今度よかったら行きたい町まで連れて行ってやることもできるぞ?」
「そう?じゃあ今度行きたい町を考えておくね」
先日のアップデートでそれぞれのフィールドに設定されるはずだったボスシステムが廃止になった。
今は好きにほかの町に行くことができるのだ。
といってもここから近いリィースは辺境ということで他に行ける町が限られてる。
というより実質一本道だ。
ただ、それでもこのシステムによってかなりのプレイヤーが各町にばらけていったことは確かである。
「あ、みんなも来たよ」
とってぃが見ている方向に同じく目を向けると確かにゆいにミウ、ダンテの姿があった。
ミウはこちらに向かって大きく手を振っている。
「リーシェさん、ゆい達が来たぞ」
「らしいね。さて、これで私たちのメンバーも全員揃ったし最終確認をしたら出発しようか」
「わかった。おーい、お前らが最後だぞ!急げ!」
ミウたちは走ってこちらにやってくる。
そのメンツを見てさらにプレイヤーたちは盛り上がっていたが今はそんなことどうでもいい。
「遅かったな。もう出立するってさ」
「ごめんごめん、少し準備に時間がかかっちゃってさ」
「さ、じゃあメンバー同士の自己紹介は出立してから荷馬車の中でやってもらおうかな。よし、全員集合!」
リーシェがそう掛け声を出すと周りにいた二十人ほどの銀の全身鎧フルプレートを付けた兵士たちが二列に並ぶ。
スグル達も端のほうで並ぶ。
その対応が正しかったのだろう、こちらを見てニコッと笑い、すぐに視線をまっすぐに戻した。
「さて、町の衆。ギルド長統括に就いているリーシェだ。われらの町を守る壁となっていた霧がいきなり消えてしまったことで心配している人もいるだろう」
霧のことでルーが少し顔色を悪くする。
まあ、確かに消してしまった当人だし仕方ないのかもしれない。
しかしリーシェは気にせず話を続ける。
「だが、心配はいらない。始まりの時よりすでに500年がたった。霧が晴れた今こそが我々が再び表舞台へ出る時期である。今回、我々はこの私を筆頭に冒険者ギルドマスターシルク、そして普段門番をしているわれらが町の兵士100名の内20名。そして私が推薦した若干名が今回の使節団に参加することになった。今回の目的は外の情報の収集、そして他国の貴族との交流である。我々に誇れる唯一のもの、それは時間だ。時間を費やし、ひたすらに私たちは強くなった。今回の遠征でもそれは決して私たちを裏切らないだろう。皆のものは安心してこの町で待っていてくれたらいい。では、出立だ!」
リーシェが普段とは明らかに違う統率者の顔をして口上を終える。
少しの間をおいて、次の瞬間には爆発的に民衆たちの声が広がった。
スグル達は荷馬車に乗り込み、いつまでもやまない声を背に始まりの町を出た。
もうあと少しでこの章も終わり、最近はあとがきに何を書くか本当に悩む頃。
そろそろこの章のタイトルも決めないとzzz




