第二話 ベータ時代の特典
気づくと、スグルは宙に浮いていた。
周りには何もなくただひたすらに暗い空間が広がっている。
(ここに来るのは二回目だな)
そう思いながら何もせずに浮いていると突然目の前にウィンドウが表示された。
そしてそこに表示されていく文字と同じように頭の中に機械感溢れる声が響く。
<初期データの編集を開始します>
data loading now
......
scan complete
*既にこのリンクリングにはスグル様のデータが登録されております。
パスワードを入力してください。
これは本人確認のための仕様となっております。
スグルはベータ時にそこに設定しておいたパスワードをウィンドウに入力する。
生態情報確認中......
スグル様本人と確認しました。
*チュートリアルは必要ですか?
Yes / No
スグルは迷わずNoを選択した。
すると、目の前の四角いウィンドウが消え、次にはバーン!という音とともに
フォーチュンへようこそ!
と文字が視界いっぱいに広がった。
そして光がどんどん強まっていく。
スグルは思わず目を閉じた。
次の瞬間には地面に投げ出されていた。
スグルはいきなりのことで何もできずに転がる。
「いってえな」
地面にぶつけた場所をさすりながら起き上がった。
周りを見回す。
「さて、ログインしたら最初は始まりの町に転送されるはずなんだが」
周りに人工物の気配は欠片もなく、ひたすらに草原が広がっていた。
そして草原のさらに奥には微かにだが森のようなものも見える。
(少なくとも近くに町の類はないようだ)
そして視界の端にメッセージ着信のコマンドが赤く点滅しているのを確認する。
メニューと念じ、そこからメールの欄に手を添える。
メールボックスを開くと最初は空箱のはずのそこには2件の着信が入っていた。
一つ目はミウ。ミウはスグルの妹のゲーム内での名前だ。
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from.ミウ
お兄どこいるのかわからなかったから先に転職の神殿に行っとくね!
また後で落ち合お!じゃ
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(ミウのほうは無事に始まりの町についたらしいな。となるとこれはバグなのかね)
スグルは頭の片隅でそう思いながらも何故か絶対違うという予感がした。
そして二つ目のメールを開く。
差出人はフォーチュン運営委員会議から。
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from.フォーチュン運営委員会
このたびはバックワールドオンラインに再びお越しいただき誠にありがとうございます。
前回行われたベータテストの攻略貢献度ランキング2位のスグル様には特典としてスグル様にフィールドをご用意させていただきました。そのフィールドはこのメールに添付されてる次元の鍵を使用することで自由にフォーチュンと行き来することが可能です。また、そのフィールドはどのように利用されてもかまいません。次元の鍵を使い、扉を出現できる場所は行ったことのある町中のみとなっております。これからもバックワールドオンライン並びに弊社をどうぞよろしくお願いします。
添付アイテム:次元の鍵(不滅)×1
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メールを読み終えたスグルはやっぱりかという顔をしながらため息をつく。
(またこの運営の悪ふざけが出たか。フィールドなんて個人で何に使うんだよマジで)
となると、この件をミウには報告しといたほうがいいだろう。
そう思い、ミウに一連の流れと自分はしばらくこのフィールドに滞在することを書いたメールを送った。
(まあ何をするにもまずはレベルを上げていかないとな)
そう思い、スグルは草原を歩き始めた。
旅人というジョブは本来戦闘向けのジョブではない。
そして生産系のジョブでもない、中途半端な存在だ。
本来、戦闘職を目指す人はそっち系のスキルが多い剣士や魔法使いなどのジョブに転職するし、逆に生産職を目指す人は鍛冶師や錬金術士などに転職する。
そして最初の見習いジョブからどんどん進化させていくのだ。
それなのになぜスグルが旅人というジョブを変えないのか。
理由は主に二つある。
一つは旅人というジョブから上のジョブがないということ。
つまり旅人というジョブは唯一、進化が必要ないジョブだからだ。
そしてこの話は二つ目の理由にも関係している。
その二つ目というのが旅人ジョブはレベルが上がりやすいということだ。
そもそも、レベルが上がることでどのようなメリットがあるのか。
それはスキルポイントの獲得、そして新しく取得できるスキルの解放。
あと最も大切なのが身体能力の向上だ。
これは公式でも発表されているが1レベル上がるごとに1%、上昇するらしい。
つまりレベルが100になるとレベル1の二倍の身体能力になるという事だ。
そのレベルが一番上がりやすいジョブ。
それが旅人だ。旅人はスキルにめぼしいものがないが、その分レベルの上がりやすさは他のジョブを圧倒的に凌駕する。
旅人の経験値の取得方法は移動する事、そしてモンスターを倒す事の二つ。
つまり普段から移動するだけでレベルがどんどん上がっていくのだ。
そうしてスグルは6時間ほどひたすらに草原を歩き続けた。
その間、主にゴブリンやウサギなども倒していたためかなりレベルが上がった。
その結果が、
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名前:スグル
種族:人間
職業:旅人(Lv.8)
【パッシブスキル】:健脚(Lv.4) 護身術(Lv.3) 空間把握(Lv1)
【アクティブスキル】:鑑定(Lv.2) 鷹の目(Lv.2)
スキルポイント:3
称号:帰還者
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となっている。
それぞれのスキルの効果は次の通りだ。
スキル:健脚
効果:脚が丈夫になり、歩く速度も速くなる。発揮される能力はレベルに依存する。
スキル:護身術
効果:相手から攻撃してきた際、現実以上のチカラが出るようになる。発揮される能力はレベルに依存する。
スキル:鑑定
効果:物事を見定めるチカラを持つ。リキャストタイムは1分。知れる内容はレベルに依存する。
スキル:鷹の目
効果:一度発動すると一定時間昼夜関係なく遠くまで見渡せるようになり、敵を発見できるようになる。持続時間はレベルに依存する。
スキル:空間把握
効果:自分を中心とした球状の範囲の状況を把握することができる。半径の広さはレベルに依存する。(現在半径2メートル)
フォーチュンにおけるスキルはパッシブスキルとアクティブスキルの2つだ。パッシブスキルは常に効果が発揮されている状態。この中だと健脚、護身術、空間把握が該当している。逆に、アクティブスキルは発動するごとに効果が発揮され、それぞれの再利用には一定の時間を待つ必要がある。
ひたすらに歩きまわり、今日の結果に満足したスグルは既に沈みかけている夕日を見る。
(さて、こっちのフォーチュンじゃそろそろ夜か。夜のフィールドも魅力的だがミウと約束してる待ち合わせの時間もそろそろだし一旦このフィールドから出ないとな)
スグルは夕日を背にしながらメニューウィンドウを開き次元の鍵(不滅)を使った。
ゴゴゴという地響きとともに地面に亀裂が入る。
そして地中から灰色の両開きの門が出てきた。
そして扉が重々しい感じで開いていく。
その奥には虚無の空間が広がっており、真ん中では渦を作り出していた。
「端からみたら完全に悪魔の門って感じだな。無駄にクオリティが高いし」
そう愚痴りながらスグルは中でとぐろを巻いている渦の中に向かって進んでいった。
小説書くのっていつも怖いな。
評価くれると嬉しいです
(改稿済み)