第十八話 瞬殺と途中経過
草原に出たスグルはライターで火をつけ、煙をたてながらとってぃの弁当を開ける。
中身は唐揚げと野菜が少し、あとはご飯に海苔がのっけられた簡単なものだった。
「うん、やっぱ美味しいな」
今は日が真上に来ている。
ちょうど昼と考えて明日の昼までイベントは続くのだろう。
となると夜は寝るプレイヤーも多いだろうし、そこで殺すほうが効率が良いのかもしれない。
そう思いながら食べ進めていく。
食べていると早速身体が軽く感じてきた。
これは昨日とったパッシブ型のユニークスキル、【食は大事!】の効果だ。
調べてみた結果、美味しいものほど身体能力他の効果が上昇することがわかった。
逆に不味いものを食べるほど身体能力が落ちることもあった。
食べ物で身体能力が上がるというのはなかったためこれでも十分に効果がある。
ただ、とってぃの食べ物の場合全く話は別だった。
4時間くらい、いくら走っても疲れなくなったし速さもこれまでが時が止まっていたと感じるほどに速くなった。
というか全力が出せないほどにチカラが満ち溢れていた。
さて、ごちそうさまでした。
弁当の空を草原に投げ捨て、寝転がる。
(30分ほど経ったけどルーも他のプレイヤーさんがたも来ないな。ちょうど日が眩しくてあまり見えないのかもしれない。これはしくじったかねぇ)
「おうおう、随分とのんびりしてるじゃねえか」
「ん?」
20メートルほど後ろにタンクトップの丸刈り男が立っていた。
ちょうど空間把握の範囲が今は半径15メートルほどだから僅かに足りなかったようだ。
よく見ると後ろには15人ほどプレイヤーが固まっている。
それぞれがタンクトップを着て正直見た目が悪い。
「てめえ蜃気楼のスグルだな?俺はガルだ!俺たちタンカーズと勝負しやがれ!」
「俺その二つ名嫌いなんだ」
どうやらいっぺんに人が釣れたらしいな。
ありがたいありがたい。
「ま、食後の運動にはちょうど良いだろ。相手してやるよ」
「ああーん!?行くぞてめえら!俺らの力この生意気な小僧に思い知らせてやれ!」
うおおおおおおぉぉ!!!
後ろの男達が思い思いの武器を持って突撃してくる。
しかし、その動きは連携を全く考えない素人そのものだ。
まあ弱いならその分楽だし良いなと思いながら短刀を引き抜く。
(短絡的なのはいただけないな)
「まず振りが甘い、後仲間に武器を当てるなんてのは論外だ」
まず2人、首を一気に飛ばす。
「お前はもっと前に出るべきだ。そのための重装備だろ?」
(まあ重装備と言っても首元や関節のつなぎ目は薄いからそこを狙われたら一瞬だけどな。これで3人)
「お前ら!距離を取るんだ!囲いこめばいける!」
「それは愚策だな」
ガルの言われた通りに俺を囲い込んでくる。やはり単調な動きしかできないようだな。それではこれから先は通じないだろう。
一気に武器が中心の俺に向かって突き出される。
それを飛んで避けた俺はそこの残りの敵に向かって投げナイフを頭に撃ち込んだ。
彼らも全員ポリゴンとなって消えていった。
「さて、これで残りはあんただけだが」
「...ありえねえだろ」
「おいおい、良い歳して泣き言はやめてくれ」
「仕方無え。今回は俺らの負けだ。だが忘れるな!俺たちタンカーズは再び強くなって今度こそ貴様を...」
パリン!と弾けるような音がしてガルの体からポリゴンがあふれた。
『主、待たせたか』
『...最後ぐらい言わせてあげようぜ』
『ふむ?』
ガル、どんまい。
ルーもきたしそろそろ移動するか。
…………………………………
スグル達は移動し始めてから一時間が経過し、イベントページで戦果の確認をしていた。
(1時間で24人か。意外に見つからないものなんだな。というかこのフィールドが広すぎるんじゃないか?)
『ルー、お前ここに来るまでに何人やった?』
『18人だ。いずれも奇襲のみで片がついた』
『やっぱ広いなぁ。取り敢えず移動するか。乗っけてくれ』
『了解した』
ルーが体を下げてくれたのでその背中に乗る。
『やっぱモフモフだよなぁ』
『それは褒め言葉なのか?』
『もちろん褒めてるんだよ。さて、じゃあ取り敢えずこの草原のあっち側に行ってみよっか。俺は鷹の目で見とくからとにかく駆け回ってくれ』
『承知』
ルーが駈け出す。
もともとがウルフだからかなり速いスピードだ
。
風が強いどころか少々痛い。
『ルー、右方向に見つけた。3人組だ』
『では我は左の一人を頂こう。向こうが気づく前に接近する』
およそ300メートルほどの距離をルーは10秒で一気に詰めた。
『じゃあ俺は跳ぶから』
そう言ってスグルはもう間近に迫った彼らに向かって短刀を突きつけた。
高速の状態でジャンプしたからか何のしがらみもなくすんなりと首を両断した。
ルーも相手の首に飛びかかっている。
青いポリゴンじゃなかったら軽くホラーなシーンだな。
二人を倒したスグルは再びルーの上にまたがると、他の場所に走り始める。
ただ、プレイヤーも視界が開けている分見つかりやすい場所でもある草原にはあまり来ていないようだった。
2時間ほど走り回ってスグルが62人、ルーが38人しか仕留められていない。
『やっぱ森の方も行かなくちゃいけないかな?』
『主がそういうのなら森に向かうとしよう』
その時、スグルの頭にポーンという機械的な音が頭に鳴り響いた。
どうやらルーにも聞こえたようで、走り始めようとしていた足を止めている。
そしてまたキノとニノの高い声が頭に響く。
『【追加仕様のご説明】だよー!』
『生き残ってる皆さん3時間が経ちました。今生き残っているのは6810人です。これからさらに加速して盛り上がっていきましょう』
『キノからはマップ機能の追加だよ!やってみてわかったかと思うけどこのフィールドはかなり大きく作られているよ!なかなかめぐり合うことができないという人も多いよね!だから、特別にこのフィールドのマップは知れるようにということになりました!』
『ニノからは居場所特定機能とポイント取得方法の追加だよ。追加されたマップ機能で現在ポイント所持ランキング上位10名の居場所が特定できるようになったよ。敵わなさそうなら逃げるのも一つの手。ただし、上位10名の誰かを倒した場合はその人が持っているポイントの半分を手に入れることができるよ。ちなみにランキングの更新は1時間ごと、もしくはランカーの誰かが倒された時行うよ』
『ハイリスクハイリターンを狙うかローリスクで細々やるかは君次第だよ!以上、追加仕様の説明でした!』
『でしたー』
一方的に話しかけられた後、ブツっという音がして声が途絶える。
『やられたな。ルーは今5位、俺が2位だ。かなり狙われる確率が高いことになる』
『...心配そうな顔はしていないが?』
『当たり前だ。向こうから寄って来てくれるってことなんだからな』
『ではこのままでいいのか?』
『ああ。森の中で相手だけが居場所を知れるっていうのは結構危ない。相手が見える草原の方が対処はしやすいしな』
『我は主についていくのみだ』
やっぱイベントはこうでなくちゃな。
そう思いながら草原を走りに戻るのだった。
(改稿済み)




