第一話 バックスペースオンライン
『7月上旬現在、猛暑の日が続いています。
現在、私はある店舗の列の先頭付近に来ております。
ご覧いただけますでしょうか?
現在の時刻は朝7時。普通なら会社に出かける頃の時刻ですが、今日、この日だけは違います。
この、数百メートルにも並ぶ人の行列。
この人たちのお目当ての商品は一つしかありません。
そう、今回世界で初めての人工の仮想世界が組み込まれたゲーム、バックスペースオンラインです。
これまで空間の拡張という面で様々な研究が行われてきて、既に60年が経過しております。
それが現在、最も多くのゲームに組み込まれているVRシステムは専用の機器を頭部に付けることで視界が3Dの世界に見えるというものでした。
そして今回、ついに身体丸ごと仮想空間に入り、実際に全身を動かすことができるゲームが開発されたのです』
『このバックスペースオンラインというものは幻想、つまりはファンタジーと呼ばれる世界に移動できます。
その世界の名はフォーチュン。
これまでに2回のテスターを募り本日は一般向けの発売日となります。
初回限定生産ロットは二万本。
これは現在の世界の人口と比べるとあまりに少ないと思われることも多いですが、一つしかないサーバーの都合上、この数になったということです。
そして強気なことに、今回このゲームを開発した株式会社フォーチュンはネット販売、先行販売を行わず全て一般店での販売を決議されたようです。
ただし、事前に行われたテスターの方々には無償で配送するということです。
この最後尾が見えない長蛇の列の先頭の方々はなんと三日も前から並んでいるようです。
以上、現場からの放送でした』
ブッとした音とともにテレビの画面から色が抜ける。
そしてそれと同時に、
ピーンポーン
と部屋に鳴り響いた。
「遂に・・・」
「ああ」
「「来たっ!」」
部屋から2人で一斉に玄関まで飛び出す。
そして玄関の前に立っている宅配便のおじさんからひったくるように箱を受け取ると、部屋に戻る時間も惜しいのかその場で箱を開け始めた。
「じゃあ開くぞ」
「お兄はやくっ」
お兄と呼ばれた男がダンボールの箱から厳重に包み込まれた小箱2つと一枚の紙を取り出した。
小箱の表紙には大きな文字で《リンクリング》と、さらに右下にバックスペースオンライン専用と書かれている。
「さて、まずはこの紙を読むとしますか」
そう言って男が紙の内容に目を通す。
「『拝啓、神谷 傑様 並びに、神谷 美羽様。
バックスペースオンラインβテストに参加していただき、ありがとうございました。お陰様で無事に発売することができました。よって、こちらのリンクリング並びにバックスペースオンラインのソフトを提供させていただきます。御二方のフィジカルスキャンによる生態情報はリンクリングの方に既に登録してあります。これからもバックスペースオンライン並びに弊社をどうぞよろしくお願いいたします』、というわけだ」
「もういいっしょお兄!はやくやろうよ」
「言われなくても分かってるよ」
男と女の子はそれぞれ箱を急いで開ける。
そして中から真っ白の輪っかを出すと首にかけた。
「じゃあ行くぞ」
「うん!」
「「ワールドコネクト!!」」
(改稿済み)