第十二話 リーシェとの出会い
ミウが希望の形状を伝え、少し時間が経った。
奥でキンキンと叩いていたのだろう。
一度試し打ちしてみたマリが嬉しそうな顔をしながら言った。
「玉鋼の最適熱量と火入れのタイミングなんて色んなことも調べなきゃいけないからいつ頃できるとは言えないね。さすがは超級ダンジョンからの産物だよ。なるべく早くは仕上げるつもりだけどさ」
「それでよろしく!あと、今回持ってきたので足りなかったらまた持ってくるね」
そうして二人は元の広場に降ろされた。
また騒ぎにならないうちに他の場所へ移動する。
「で、ミウはこれからどうする?」
「わたしはちょっと他をブラブラしてこよっかなー!」
「了解。じゃあまたな。家には戻れよ?飯はこっちで食えるからって家に誰もいなかったら強盗が入るかもしれんからな」
「えーめんどくさいからヤダ!じゃあまたねー!」
ミウはスグルから逃げるように走って人混みの中に消えていった。
(おい...もう行っちまったよ。まったく、逃げ足だけは速いんだよな。と、それじゃあ俺も向こうふぇ探索するための準備でもするとしますか。流石に武器もなしで行くのはあのフィールドでは危険だって分かったしな)
というわけでスグルはベータ時代いつも行っていた馴染みの錬金術士の店に来ていた。
見た目完全にホラーの館のこの店にはやはり誰も寄り付いていない。
ここはこっちの住人が開いているアイテム屋ではあるが、もう一つ別の稼業もやっているのだ。
ギーッと木製の手押し扉を開いていく。
中は真っ暗で何も見えない。
「すみませーん、店利用したいんですがライトつけてもらっていいですかー?」
「……ふわぁ。あれ〜、お客さんかい?」
中性的な声が暗闇の中を響きライトがつけられる。
そこにはローブを羽織っている、見るからに怪しい格好をした眠そうなお姉さんがカウンターに突っ伏していた。
「いらっしゃい。リーシェのアイテム屋さんへようこそ。私は店主のリーシェだよ」
「俺はスグルです。よろしくお願いします」
(やっぱりベータの記憶は消されているか。これだとまた同じNPC、この世界の住民に2度目の自己紹介をすることになるのか。結構嫌味なことだ)
「で、今日はいったい何の用かな?基本消費系のアイテムなら置いてあるよ。なかったとしても素材さえ集めてもらったら作ることも出来る」
「じゃあ今日は上級ポーション10個を買います。それと素材も少し持ってきているから買い取ってもらえると嬉しいです。あとは暗器の方をお願いします」
「おや?少年はそっち系の人だったのかい?ま、先に素材の方から処理しようか。こっちのカウンターに出してよ」
リーシェはキョトンとし、首を傾げたあとアイテムを出すカウンターを片付ける。
アイテムボックスを開いてどんどん出していく。
一応、最初のフィールドでは取れない素材が多いから買取金額は期待している。
「おお、結構この辺りでは取れない素材が多いね。少年は旅人か何かかい?」
「まあ、ジョブは旅人ですね」
「ほおほお……査定終わったよ。この上薬草は1束600ゴルドで81束あるから48600ゴルド。で、こっちの電電虫は1匹1500ゴルドが8匹いるから12000ゴルド、青碧の雫はひと瓶5万ゴルドで、12本だから60万ゴルドの3種合計で660600ゴルドになるね。それでいいかい?」
「はい、それで十分です」
始まりの町付近ではあまり良い素材は取れない。
まあ、上位の素材があったとしてもきちんと利用できるまでにジョブのレベルが上がってる訳ではないからだろう。
ただ、何故かスグルのフィールドは上位のアイテムが豊富にとれる。
その分、フォレストタイガーみたいなバケモノもいるんだろうが。
「それじゃあこちらが上級ポーション10個と、その値段を売却総額から引いた560600ゴルドになるよ。暗器はこっちに置いてあるからついてきて」
リーシェから金貨5枚に銀貨銅貨がそれぞれ60枚ずつ手渡された。
計算すればわかるだろうが銅貨一枚で10ゴルド、銀貨金貨はそれぞれ100倍した金額となっている。
リーシェのあとに続いて奥の部屋に入る。
途中で半透明の幕のようなものをくぐり抜けた。
そこには店の外観ではまるで予想がつかない、土が轢かれた円状のステージが広がっていた。
(ベータ時代はこんなもの無かったんだがな)
「おや、驚かないようだね」
「はは、心では驚いていますよ」
「そうは見えないけどね。すまないね、初めて来たお客さんには簡単な適正調査を受けてもらうよ」
「わかってます。で、何をすればいいですか?」
「自分のは持ってるかい?ないなら貸すけど」
「持ってます」
「じゃあそれで。今から幾つかテイムしているモンスターと戦ってもらう。ただ身体と暗器以外の普通の武器を使うのは禁止。スキルも一切使用禁止だよ。それでいいかい?」
「短刀もダメですか?」
「短刀なら構わないよ」
(ベータの時は的を吹き矢や短刀で射止めるだけの試験だったのがだいぶ変わったな。まあ暗器のみでモンスターを倒せるとは思っていないだろう。要はどれだけの腕があるのか見に来ているってことか)
「初級、中級、上級があるけどどれがいい?」
「幾つか受けてもいいんですか?」
「体力がもつのなら3つとも受けてもいいよ」
「じゃあまずは初級からでお願いします」
「はいよーっと。【召喚】ウルフ」
リーシェが気の抜ける声でそう唱えると目の前に魔法陣が現れ、3匹のウルフが出てきた。
それぞれがこちらを向いてグルルルと威嚇してくる。
「とりあえずレベル7を3匹ね。時間制限は1分ぐらいでいいかな。じゃスタート〜」
のんびりとした掛け声とともにウルフ共が一斉にこちらに向かって飛びかかってくる。
とりあえず服袖に潜ませていた短刀を引き抜く。
そして一番早く飛びかかってきたウルフの目を一息でに切り裂く。
そして2匹目の喉に左拳を叩き込む。
最後の3匹目を余裕を持って頭蓋を短刀で貫いた。
一瞬遅れて空中にポリゴンが広がる。
このモンスター達はテイムされたものだからか経験値は手に入らなかった。
「合格だよ。うーん、これだけ動けるなら中級は飛ばしても大丈夫かな。というわけで上級行っちゃおっか」
「それで大丈夫なんですか?」
「いいのいいの。ぶっちゃけ適当だしね〜。じゃ、かかって来なさい」
ふんわりと観客席から飛んで目の前に着地してくる。
「え、相手はモンスターじゃないんですか?」
「上級は私が実力を確かめるんだよ〜。ちなみに教えておくと、ここは過去コロシアムだったのを収縮してまんま閉じ込めた空間なんだ。だから町中であるここで戦ってもダメージを与えられたでしょ?」
「そうだったんですか」
「そゆこと。というわけで、さっさとヤっちゃいますか。あ、一応念押しするとスキルは使用したらダメだからね〜。クリア条件は…私に触れられたらでいいかな」
「はい?」
そう言ってリーシェは飛び込んできた。
いや、飛び込んできたように見えた、だ。
腕を振るのが見えた次の瞬間にはナイフが6本飛んできた。
それを全て弾くか躱す。
既に前にはリーシェの姿はない。
後ろから風が当たった。
後ろを瞬時に振り向いて短刀を振り回す。
金属同士がぶつかり、ギギと鈍い音がなる。
「おーよく受けたね。終わりかと思ったよ〜」
にこやかに声を交わしてくる。
でも、片手で既に別のナイフを持っているのは確認済みだ。
「簡単に終わるわけには行きませんか、ら!」
スグルとリーシェが退がると同時にナイフを投げる。
二つは丁度中間で弾けた。
(やばい、この人単なるNPCかと思ってたけどかなり強い。動きだけなら間違いなくゆい以上だ。スキルは見ていないからわからないけどかなりレベルは高そうだな)
「うーん、腕は現状互角…かあ。仕方ないね、第二ラウンドだよ」
そうニカッとわらい、さらにリーシェが加速する。
(正直スキルなしでこのスピードはないだろ!)
上から微かに殺気を感じたスグルはすぐに横に転がった。
一瞬遅れて上からリーシェがスグルが立っていた場所に降り立つ。
「これもかわしちゃうのかー。個人的にはもう合格でいいんだけど……少年を舐めてたお詫びに見せてあげるよ。高みってやつを」
「そんなもの見なくていいです」
「まあまあ、こんな安売り珍しいよ〜。それじゃ頑張って避けてね」
言い終わった瞬間に空気が変わった。
あの人を中心に空気が吸われて行っている感じだ。
身体にものすごい重圧がかかってきた。
「斬るよ」
つぶやいた瞬間リーシェの身体が消えた。
スグルの身体を暖かい空気が包み込む。
そして身体には無数の赤い線が入っていた。
(は?どうなってんだ。というか何がおこった?)
身体に感覚がない。というより何も動かせない。ただ自身の身体が崩れ落ちるのが最後に見た光景だった。
ポーン
無機質な音が鳴り響く。
『〈頂を知る者〉の称号を得ました。』
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「ふぅ……まさかコレを使わされるなんて、やっぱり君は予想外すぎるよ。絶対、逃さないからね?」
その場で身体が修復されたスグルを担ぎながら、リーシェはそう呟いた。
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(改稿済み)