しがない鑑定眼の情報屋さんの油断
冒険者ギルドで魔石と牙を交換してもらいます。
全部で金貨2枚と銀貨8枚になりました。ほとんどはC級魔石の値段です。パーティーを組んで行けば分配するところですが、一人で攻略したため手持ちに大分余裕が出ます。情報屋さんをしていた時であればこれだけ稼ぐのに二ヵ月は要しました。苦労したかいがあります。泣いた回数は二ヵ月では届かない程泣きましたけど。
トッコトッコと宿に戻ろうとして、思いとどまります。
陽もまだ沈むまでは時間がありそうです。体と言うか、心労は大分溜まっていますが、スライムに闇同化だけは試しておこうかなと思います。
D級以上の迷宮に行けばスライムはまず出ないですし、D級以上の迷宮で試すにはちょっと自信がないです。頼りなさ過ぎるんですもん。
私はここから一番近い南の門に向かい、森に行く事にします。すぐに見つけられるでしょう。
トコトコと森へ向かい歩き出します。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ポヨヨンポヨン
森へ入ると程なくして薄い青透明なスライムに出会いました。こっちから攻撃してこないと攻撃してきません。私は割と好きです。だって無害なんですもん。
よく見ると丸い点の様な目があるのが分かります。あれが本当に目なのかと言われると、判断は出来ません。私は目だと思っています。そっちのが可愛いです。
トコトコとスライムに近付くと、スライムは逃げる事も無く。ポヨポヨとゆっくり移動しています。
私は闇同化の魔術を使い体に闇を纏います。
ズズズズズズズッ
闇に覆われます。やはり完全に有害な空気を纏った人に見えます。私ならこんな黒い霧を纏った人がいたら、目も合わせない自信があります。鑑定もお断りさせて頂くと思います。
「ごめんね?」
私は杖を持ち、スライムの頭?体?を上からコツンと叩きます。スライムは攻撃されたと思ったのか、此方を振り返り ポヨンッ っと跳ねて体当たりをしてきます。すり抜けるとはどういう事か分からず、思わずギュッと体を縮め身構えてしまいます。
スカッ
「ふぇ?」
体をすり抜けるとは聞いていたものの、本当に自分の体をすり抜けるとは驚きです。どういう理屈か分かりません。魔術なんて対外理屈分かりませんけど。
ポヨン?
ポヨヨンッ!
スライムも当たると思ったのでしょう。感触が無くて ? を頭の上に浮かべているのが分かります。再び振り返ると先程より勢いのある体当たりです。
反射的にビクリと体を縮こまらせます。
スカンッ
「ふぇー」
私に感触は全くありません。闇に包まれている場所だけ空間が変わっているのでしょうか?それとも私が闇の様に朧げな存在になっているのでしょうか? 確かに攻撃は当たっていません。
ポヨンポヨン??
ポヨヨンッッ!!
スライムもわけが分からないのでしょう。私だってよく分かりません。しかし体捌きや体を動かす事が苦手な私にとってはありがたい魔術です。流石は伝説の闇属性です。
体当たりするスライムは私のお腹目掛けて跳び上がっています。ですが今まで通り体を……
ドンッ!
「げふぅ!」
「うっふ……おぶぅぅぅぅ……」
鳩尾に突き刺さり私は四つん這いになり苦しみに悶絶します。気は緩んでいました。きっとまた通り抜けるんだと突っ立ってました。私が悪かったです。
スライムは深々と私の鳩尾に突き刺さりました。涎が止まりません。
スライムは満足したのかポヨポヨと体を揺らしながら森の中へと消えていきます。
今日一のダメージを受けた私は暫らく動く事が出来ず、お腹を片手で押さえたまま蹲っています。スライム。可愛くないです。
闇同化を期待しすぎるのはやめようと心に誓いました。それならば闇を圧縮した闇の壁と言うのを作れるようになろうと思います。闇同化を主要な防御法と認識してしまうと、いつこんな事態に陥るか分かりません。何せ最下級のスライムの攻撃でこの有様なのですから。
もう今日は帰る。ゆっくりお風呂に入って寝るもん。
私は今度こそ宿に戻る決意をしました。
私がその場を立ち上がったのは、さらに少し時間が経ってからでした。