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しがない鑑定眼の情報屋さん ~闇の聖女~  作者: もるるー
第四章 しがない聖女と世界の話
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世界樹 しがない聖女の朝


「ねぇねぇ世界樹さん、竜王さんの中にいる者ってなんとかならないかなっ!?」


 いつからか毎日やってくる天神族の言葉に、私は耳を傾けます。


「日に日に大きくなってる気がするんだよ、竜王さんも思い込んでるみたいだしさっ!」


 私の言葉は誰にでも届くわけではありません。

 広大な世界を私だけで担う事、それを行う為に私はほとんどの力を使っている。


 私が力を使わなくてもいい程、生命力の強い者か、私に関わりある者にしか、私の声は届かない。


「私ね……竜王さんの中にいる者って、世界を破滅に追い込んだ破壊者だと思ってるんだよ……」


 それは今からもう2000年近く前の出来事。

 今でこそ語り草になりつつあり、それを知る者は不死者や長寿の種族が脈々と語り継いでいるぐらいでしょう。


「鑑定の輪で竜王さんを覗くとね、何か宿しているんだ、とても不吉な者としか分からないんだけどさ、伝説では竜王さんが封印したって話もあるしさ、間違いないと思うんだ」


 人々は生命力を魔力や闘気に変え、各々でその力を自在に操る。

 それは私でも想像出来ない使い方や、新たな力を生み出したりします。


 まさか魔石だけでなく、魔力や人々を鑑定出来る程の使い方があったとは驚きました。


「だからさぁ、私調べたんだぁ、2000年前の事。もうさぁ、調べなきゃよかったよぉ」


 天神族は私にもたれて座り込み、銀色の髪と白い羽耳の付いた頭を垂れました。


「世界樹さん……私に出来る事って何もないのかなぁ……」


 それからも、天神族は毎日私の元を訪れました。

 それは竜王が初めての世界の境を行う、少し前の事でした。


「あーあー……世界はこんなに、素敵なのになぁ……」


 ◇ ◇ ◇ ◇ 


「やぁ皆、よく眠れたかい?」


 夜お出掛けをしていたマイルさんは、テーブルで黒い液体を飲んでいました。

 テーブルに置かれた瓶の中身が真っ黒だったので、それを飲んでいる事は間違いないでしょう。


 全く美味しくないあれですね、確かマッツさんがオススメとして入れてくれた飲み物だと思います。

 部屋に柔らかく漂う香りがあれと近い匂いがします。

 まぁ匂いは別に嫌いじゃないのでいいですけど。


「おはようございます、マイルさんは寝たんですか?」


 私達が部屋に戻り眠りに付く頃はいませんでしたし、物音を感じ始めたのはつい先程です。

 その物音に私達は目を覚ましたわけですが、それまで物音一つなった覚えもありません。


「そりゃバッチリだよ、体調も万全だ」

「嘘だな」


 少し眠気眼のプリシアがジーっとマイルさんを姿を見ながら答えます。

 まぁ嘘ですね、誰の目から見ても寝起きな感じはしませんし、なんか服がちょっと焦げてますし。


「寝てないんだろうけどぉ、なんかぁ元気いっぱいに見えるわぁ」

「そう! そうなんだよっ! もう興奮でねっ! 眠る必要なかったんだよ!」


 モニカの言葉通り、マイルさんからは清々しい雰囲気を感じます。

 いつもニコニコしてる感じですが、輪をかけて朗らかに見えます。


「お兄ちゃん……かっこいいよぉ……」

「そうなんだっ! お兄ちゃんかっこいいんだよっ! かっこいいよねっ!」


 あ、これダメなやつですね。

 徹夜で思考が上手く回ってない感じのあれですね、だってマイルさんが何言ってるか分からないですもん。


 ならばこれはある意味チャンスです。

 昨日どこに行ったのか教えてくれるかもしれません。


「マイルさん、昨日はどこに行ってたんですか?」


 さり気なく当然の様に私は聞きました。

 それはまるで聞くのが当たり前と言わんばかりだったと思います。


 昨日の夜はどこに行くのか明言していなかったので、聞いていいか迷ったのですが、今なら聞けると思った次第です。


「竜王の所に行ってたんだよ! 世界の境を行うなら、僕が君と闘うと言ってきた」


「あ、へー……そうなんですか……」


 世界の境を行うなら、マイルさんが竜王と闘うと宣戦布告をしに行ったという事ですね。

 なるほど…………え? それってどういう事ですか?


「あらぁ……? それって竜王倒したらぁ……光の破壊者が復活するって事じゃなかったかしらぁ……?」

「そうそう! だからさ、僕も今度は答えたよ! 仲間と一緒に闘うってさっ!」


 は? え? いやいや、え? まぁそうなんですけどね……?


「お、おい……それってそのままじゃ済まなくないか……?」


 プリシアが少し言葉を詰まらせながら、恐る恐るといった感じで言いました。


「そうなんだよっ! そしたら竜王さ、仲間全員連れてこいって怒っちゃってさ、いやーすごい怒らしちゃったよ、世界の重みをなんだと思ってるとか、今までの犠牲を無駄にするつもりかっ とかさ、挙句闇の聖女など幻想だ、この手で殺してくれる!って言われちゃったよ!!」

「お兄ちゃん……大変だったんだね……一人でそんな事してたんだね……抱いてほしいよぉ……」


 ふふふ……ルルの言葉に大変な事態ですが笑ってしまいます。

 いやいや、ルル? 今のマイルさんに抱かれる価値はありませんよ?

 っというか意味わかっていってますか?


 いやいやいや、それどころじゃありません、マイルさん? 貴方何してるんですか?

 バカなんですか? え? 嘘ですよね? バカですよね?

 私マイルさんがそんなアンポンタンなんてこれっぽっちも考えていませんでしたよ?


 そんな人にルルを抱かせてなんてあげませんよ?


「え? ちょっといいですか……?? え? それって要はどういう事になったんですか?」

「あ! 大丈夫だよ! ちゃんと言っといたからさっ!!」


 あ、やっぱりちゃんと最低限の話はしてくれたんですね?

 確かに光の破壊者を倒す為には、竜王との話し合いは避けては通れず、最悪戦闘になるとも考えてはいましたが、出来るなら竜王とも協力して光の破壊者を倒したいと考えるのは至極当然ですよね!


「今、闇の聖女は二人で闇の聖女だってさっ!!」

「ちげぇよばか!! そんな事言っても意味ないだろぉ!?」


 しかしマイルさんに私の言葉は届きません、マイルさんは熱く語る様にそのまま言葉を続けます。


「そしたら竜王さっ!! 私を倒せもしない者にこの世界の命運を任せろと言うのかっ!! 今すぐに世界を破壊してやろうか!! なんて言うからさっ!! 僕は言ってやったよ!!」


「逃げるのかっ!! 君なんて闇の聖女二人だけで十分だっってね!!」

「てめぇっこのバカ野郎!!相手は竜王だぞっ!? 十分なわけあるかぁっ!!」

 これにはプリシアも身を乗り出しました。

「 私達が闘う事になってんじゃねぇかぁ!? 」


 私とプリシアはマイルさんに掴みかかります。

 相手は竜の王、魔竜をなんとか倒し、その生命力も得たとはいえ、その程度で竜の王に勝てる訳もなく。


「いや、ほんと頑固でさぁ? 何がなんでも世界を壊すって聞かなくてちょっとイライラしたんだよね」


 ガクガクと私達に首を振られながら、マイルさんはHAHAHA☆っと笑いました。


「いやいやいやいやいやいやいやっ!?!? なんでそんなけんか腰なんですかっ!?!? もっと穏便に話し合えば分かってくれたかもしれませんよね!?!?」


 寝てないせいか、テンションがハイになっていたマイルさんが すっ と鋭い視線で私達を見て、私とプリシアはマイルさんを揺らしていた腕をピタリと止めました。


「いや、それは絶対ないね。竜王はどれだけ自分が傷つこうとも世界を壊す。あれはそういう覚悟の目だよ」


 その言葉は今までのどんな言葉より重く、耳に残りました。

 先程の掴みかかった勢いは消え失せ、少し小さな声色で私は問いかけました。


「何故、竜王はそこまでして世界の破壊を行うのですか……」


「分からない、竜王に、何が合ったんだろうね」


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