竜王
光の破壊者によって大半の破壊された世界。
それでも生き残った人々は長い年月をかけて荒れた大地に命を吹き込む。
一つになった世界樹は、一人でも世界を育み始めた。
我々は諦めたりしない、世界は少しづつだが元の形へと戻っていく。
私はそれがとても誇らしかった。
多くの犠牲を払い、繋げた未来は希望に満ち溢れていると感じた。
私はそんな世界が好きだ、ずっと見ていたいとさえ思う。
だが、世界に新しい命が芽吹き、荒れた荒野に新たな緑が生まれ、黒ずんだ水が青く澄むにつれ。
私の中で小さく燻っていた不安は、日増しに大きくなっていく。
本当は気付いていた、けれど認める事が出来なかった。
それを認めてしまえば、私は……
誇りに思うこの世界を、自らの手で破壊する事になると
そうする事しか出来ないと思う事が
私は、怖かったのだ。
私は気付いていた、我が身に封印した光の破壊者。
人々が死んだ大地を読みがらせる度
人々が新たな命を育む度に
世界樹が世界を導こうとする度に。
私の中の光の破壊者が、笑うのだ。
光の破壊者は再び蘇る。
私は自分の中で大きくなる光の破壊者を抑える為に、日々を過ごす。
止める事は出来ないのか 私の中に永久に留める事は出来ないのか
私と一緒に、殺す事は出来ないのか。
世界に生命力が満ちていく程、何をしても光の破壊者は私の中で大きくなった。
高らかな笑い声は大きくなっていった。
もう一度、光の破壊者と相対出来る者を探しもした。
世界中を飛び回ったが、あの時程強い者は誰一人見つける事が出来なかった。
私は育まれる世界が誇らしかったが、同時に育まれていく世界に恐怖した。
このまま世界に生命力が満ちていけば、光の破壊者を抑えられなくなる。
いつしかそれは確信に変わっていた。
「うおぉ!? 竜王さん!? 初めて見たっ!」
世界樹から少し離れた山岳の中腹。
普段は人が紛れ込まないよう、魔力によって見えなくしている私の居場所。
「天神族か? なぜここがわかった?」
長い銀髪の天神族、側頭部に生える小さな羽耳は珍しかった。
「え? 鑑定したから?」
「鑑定? 結界を見破る事が出来るのか?」
「勿論よっ! 鑑定の輪14号は大体鑑定出来るんだからっ!」
「ほぉ、人々の成長は凄まじいな」
「おぉ!? 竜王さんに褒められたっ!?」
「今の人々は誰でも鑑定とやらが出来るのか?」
「いやいやっ! 多分私だけだねっ! 私はしがない鑑定士だからねっ!」
日々を葛藤と恐怖で過ごす中、私は一人の天神族と出会う。
その天神族は、鑑定の輪は自身の魔力を込めて作る魔道具だと、聞いてもないのに笑って教えてくれた。
「そうか、ならばしがない鑑定士よ、ここにいても楽しい事はない、自分の場所に戻るがいい」
私はこの世界が好きだった。
だからこそ、人々と深く関わってはいけないと考えた。
それは私の心が決まっていた証でもあった。
翼人族は満面の笑みであれよあれよという間にその日その場に小さなテントを建てた。
朝には「おっはよぅ!」と言い。
出かける時には「いってきまっすっ!」っと出かけ、
帰ってくると「たっだいまぁ!」と戻ってきて、
夜には「おやっすみぃー!」っとテントで眠りについた。
気が付けば、そこには天神族の小さな小屋が建てられていた。
私はこれから行うであろう事を考えながらも、天神族を強く咎める事はなかった。
それは私も、一人でいる事を辛いと思っていたからだろう。
私の中で、確かに決めた筈の決意が揺らいでいった。
ドォォオオン─────ッッッ!!
凄まじい音と共に周囲に弾ける紫電。
「マイル・フォレグランか?」
問いかける意味もない、今の世界でこれほど強い者はこの男しかいない。
「やぁ竜王」
相変わらずの軽い挨拶。
この男には全てを話した。
「何の様だ? お前なら私の破壊に巻き込まれる事もあるまい」
この男の力は凄まじい、何故今の世界でこれほどの者が生まれたのか、どれ程の魔石を宿し、どれ程の修行をして、どれ程の才能を持って生まれればここまでの力が身に付くのか。
「そうなんだ、その事なんだけどさ」
私がこの男を殺す事はない、この男と同等の者があの時の人数いれば、光の破壊者を倒す事は出来ずとも、もっと強い封印を行う事に成功しただろう。
倒す事は出来なくとも、継続的に封印し続ける事も可能であったかもしれない。
だが、今となっては叶わぬ夢だ。
「何度も言わせるな、世界の境は行う、それは絶対だ」
「うん、僕も答えは出せなかったんだけどさ」
先日話をした時とは違う表情。
この男と闘えば、私は負けるかもしれない。
だがそれは、光の破壊者の復活を意味し、それは世界の終わりを意味する。
そんな事はこの男も分かっている。
「世界の境行うなら、君と闘うよ」
「どういう事だっ!? お前一人だどれだけ強くても光の破壊者には勝てん!!」
冷静な男だと思っていたが、とんだ見込み違いだ。
「そうなんだ、僕一人じゃ勝てない」
「ならば何故止める!? 世界を滅ぼしたいのかっ!?」
「だからさ、仲間と闘うよ。未来に進む為にね」
仲間? 弱い仲間をどれ程集めたところで光の破壊者に勝てる筈もない。
光の破壊者は光の化身と同義、どれ程強い仲間を集めても倒す事は叶わない。
「闇の聖女がいるんだ、世界樹だって君を助けたいんじゃないかな?」
「それは……どういう事か詳しく話せ」
光の破壊者自身が言っていた言葉がある。
─僕を倒せるのは、闇だけだよ─
世界樹はこの世界に、何をした