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しがない鑑定眼の情報屋さん ~闇の聖女~  作者: もるるー
第四章 しがない聖女と世界の話
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しがない聖女の考え事


 竜王はどんな気持ちで世界の破壊を行っているのでしょう?


 夜の時間に合わせ、暗くなった不死の街。

 ダンジョン内とは思えない程高い天井に圧迫感のない広い空間。


 何処かに風を取り入れる穴が空いているのか、さわさわと風が通り抜けます。


 加えて魔術で壁の存在を虚ろにしているのか、外にいる様な感覚さえあります。


 私はマイルさんの家先に座り、一人考え事をしています。

 街の外れの小さな丘の上に立つ家、ここからはぼんやりとした小さな町の光が良く見えました。


 不死の街に来る前に、世界樹が見せてくれた記憶を思い出し、私は考えてしまいます。


 あの時、竜王と思われる竜が言っていて言葉。


『人々の道は、途切れさせんぞ』


 その為に、世界の人々を殺す事。

 それはどれ程辛い事なのか、私に想像は出来ません。


 どれ程の強い気持ちで、何を心の拠り所にして、その行為を行うのでしょう?


 私には……到底出来る気がしませんね……


 そう考えれば考える程思います。

 一番辛いのは竜王なのではないのかと。


 どれほど2000年を繰り返したかは分かりません。

 けれど、竜王は言われ続けて来た筈なんです。


 破壊者だと、悪魔だと。


 人々の悲鳴を、死を見続けてきた筈です。

 自らの手でそれを行いながら。


 人知れず、誰も知らない真実を隠したまま、一人でずっとそれを繰り返してきたなんて……

 心が保てないですね……絶対無理です……。


 そんな事を頭の中で考えました。


「レティシアさん」


 名前を呼ばれ、私は声の方向に振り返ります。

 そこには家の扉をあけたマイルさんの姿がありました。


 私と同じで寝付けなかったのか、服装はベッドから出たばかりと思える軽い服装でした。


「マイルさんも考え事ですか?」

「そうだね、聞きたい事があったんだ」


 マイルさんは座る私の横に歩み寄り腰を下ろします。


「どうしたんですか?」


 私の問いかけに、真っすぐに街を見ながら答えます。


「なんで、光の破壊者を倒すって言えたんだい?」


 マイルさんが死ぬほど悩んでも、答えは出ないと言っていた事。


 正直、なんで言えたと言われても困ります。

 考えて言った事じゃないですし、そもそも考えたら答えなんて出せません。


「あの時だから言えたんです、今同じ事を言えるかと言われたら困ってしまいます」

「えぇ……そうなの?」


 マイルさんは驚き、目を丸くして私に向きました。


「そうですよ? だって代償は世界ですよ? 私はしがない闇の聖女です、大それた事をする自信はありません」


 はっきり言い切ると、目をパチパチされたマイルさんが急に笑いだしました。


「あはは……あはははっ すごいな、じゃぁなんであんなに自信のある言葉が言えるのさ」

「あの時は色んな気持ちを沸き上がったんですよ」


 そう、あの時私は思いました。

 私の大切な人を守りたいと、マイルさんの涙を止めたいと。

 言いませんけどね。


 勿論考えました、大切な人達を集めてエルフ族の村に移動すれば世界の境に巻き込まれないとも。

 そうすれば私の大切な人は守れると思ったりもしました。


 情けないですよね、そんな事も考えました。

 だって私そんなに強い人じゃないですから、すぐ泣きますし。


「エルフ族の話は世界樹から聞きましたか?」

「うん、生贄を捧げ破壊を免れてた話だね」


 あの時私はルルに言いました。


 生きる事は楽しいと


 光の破壊者の話をされた時、思いました。

 マイルさんが辛そうで、竜王も苦しんでると思って、世界樹も今の世界を悲しんでると感じて。


 光の破壊者を倒そうと思ったんです。


「私はルルを助けたいと思いました、世界中の人を助けたいなんて思えませんけど、目の前で泣いている人や、苦しんでいる人はどうにかしてあげたいと思います」


 生きて楽しい事がいっぱいあってほしいんです。


 きっと私は、手の届く範囲でしか人を助けられない。

 いえ、助けられるかどうかも分かりません。


 けれど、分からないから行動しないとはいいません。

 進まなければ、進んだ先の景色は見えないのです。


「誰でも助けたいとは、思っていませんけどね」


 私はそう言って、マイルさんに微笑みました。


「私がやりたいと思った事はやります、それはきっとそれほど多くある事じゃないんです、なのでその時ぐらいは頑張りたいんです」

「そう……君はすごいね」

「なんにもすごくないですよ、すぐ泣くし吐いちゃいますし、弱音も多いし諦めも早いです」

「そ、そうなんだ……」


 そんな私だから、心から自然に出た言葉は大事にしたいと思います。


「なので、私は竜王を止めて光の破壊者を倒したいと思います」

「ふふ……君はほんとに……すごいよ」


 マイルさんは笑みを浮かべ立ち上がります。


「ちょっと出かけてくるよ」


 不意に言葉に首を傾げる私。

 夜中に出歩く事がどうこう思ったりはしませんが、唐突なタイミングにポカンと呆けてしまいます。

 どこか出かける様子がまるでなかったのも、私の呆けを後押ししました。


「?? 今からですか?」

「うん、今から。今だからこそかな」


 マイルさんのニヤリと笑った姿が、余りに清々しかったので私は言葉を返します。


「いってらっしゃい」

「朝には戻るよ、行ってきます」


 パチィン っとマイルさんの足元に青い稲妻が弾けると、


 ドォォォォォン─────ッッッッッ!!!!!!!


 っと町全体に重く伝わる重低音。


「きゃああぁぁぁぁ!?!?」


 まるで隣に電が落ちたと思える程の地面を伝う振動。地面から体当たりを受けた様な衝撃に私は座ったまま横に飛びました。


 普通に悲鳴を上げました、意味が分からなかったんです。


「レティシア!? どうしたっ!?!?」


 音が凄まじかったせいか、街の明かりは強くなり、ガヤガヤと町全体がざわつきます。

 マイルさんの家からは私の悲鳴にプリシアに続きモニカとルルも飛び出してきました。


「レティッ!? 何があったの!?」

「お姉ちゃん!! 大丈夫!?」


 言うまでもありませんが、そこにマイルさんの姿をありません。

 こういってはモニカに申し訳ないですが、理解不能の速度なのでしょう。

 見えないどころじゃありません、何が起こったかも分からない程です。


「えっと……マイルさんが……お出かけに行きました……?」

「は?」


 私はありのまま起こった事を口にしました。



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