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しがない鑑定眼の情報屋さん ~闇の聖女~  作者: もるるー
第四章 しがない聖女と世界の話
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しがない聖女の世界の話


「これは世界樹が夢で見せてくれたり、本人から聞いた話なんだ」


 マイルさんの柔らかく淀みない言葉。

 町全体を灯す明かりが消えたのか、ふっ と外が暗くなり、部屋の壁に設置された光を放つ魔石にマイルさんが照らされます。


 まるで世間話でも始めるかの様に話し始めたそれは、私が聞いてきた話を裏付け、私が知らなかった尊い世界の話でした。


「伝説や語り継がれた話、2000年の事や生命力が失われる話は全部間違っててすべて正しい事なんだ、それは二つの物語が混ざってしまったり、いっしょの出来事だと思い重なって伝わった事なんだよ」


 部屋を灯す光は十分な筈なのですが、なぜか部屋が色あせた様に見えました。


「世界の境、2000年で世界は破壊される。それは君たちも辿り着いた通り、竜王による人々の淘汰だ。ラース大陸で伝わる話は長寿の魔族やエルフの影響か、かなり詳細に伝わってると思う」


「言い伝え通りだよ、世界に生命力が満ちる時竜王は世界の人々を、世界を壊す。生命力が宿る木々、魔物、人々。生命といわれる物は見境なく壊される」


 けれど、竜王は淘汰する。

 何かの意図があるのか、種族を選び、生命力の源と言われる世界樹を壊さない。


「そう、みんなも知っての通り、竜王の行う破壊には不可解な事があるよね。それはね……彼の目的がただの破壊じゃないからだよ」


 マイルさんの言葉に目を見開きました。

 彼? 目的がただの破壊じゃない? マイルさんは竜王を知っている?

 何故? 世界を破壊し、人々を殺戮する竜王と何故知り合いなの?


 頭に過ぎる思考、瞬間的に声を上げそうになりましたが、マイルさんの瞳が一瞬揺れたのを見て、私は思い留まります。


「どういう事か、教えてくれるんだろうな?」

 対面に座るプリシアが言葉を出します、それは私が思った言葉でした。


「うん、世界樹も夢で全部見せてくれたよ」


 マイルさんは初めて、申し訳なさそうに顔を歪めます。


「聞いて貰って……いいかな……?」


 マイルさんの表情が、とても悲しそうに見えました。


「勿論です」

「当たり前だ」

「当然だわぁ」

「聞く……」


 マイルさんは微笑んで、昔話を語る様に言葉を紡ぎました。



 ──ずっと昔に世界樹は四つあった。

 それはそれぞれの種族を守護する世界樹。

 人族と獣人族 巨人族と小人族 魔族と妖精族 そして今も残る天神族とエルフを守護する世界樹。


 それぞれ加護を受けて過ごす世界は生命力に満ち溢れていた。

 人々の数は増え、世界樹も増える生命力に伴い大きく茂る。


 世界はとても平和だったと聞いたよ。


 けれどね、世界に満ちすぎた生命力は別の存在を作り出した。

 それが世界の理なのか、世界の意思なのか、何故生まれたのかなんて誰にも分からない。


 光の破壊者。


 ただそれは間違いなく世界の生命力から生まれた物だと世界樹は教えてくれたよ。


 満ちすぎた生命力に魔力が宿ったのか、意思が生まれたのか。

 生命力によって光り輝く破壊者は、有無を言わさず世界を襲った。


 人々、大地、植物、そして世界樹までも壊し殺した。


 平和だった世界は唐突に終わりへと近づいた。


 世界樹はそれぞれ、光の破壊者に問いかけた。

 何故人々を殺すのか、何故生命力を奪うのか、何故世界を壊すのか。


 光の破壊者は答えた、それは光の破壊者にとってただの食事に過ぎないと。

 ご飯を食べるのに理由なんて一つしかないだろ? っと


 そう、光の破壊者が世界を壊し人々を殺す理由は、お腹がすいたからご飯を食べてるだけだった。


 世界を作り変えたいとか、滅ぼしたいではなく、ただ食事をしているだけと言い放った。

 世界は光の破壊者にとっての食事でしかなかった。


 世界樹は必死で抵抗を繰り返し、それぞれの守護する種族に呼びかけた、光の破壊者を倒さねば世界が滅ぶと。


 強い者を集めた、光の破壊者に抵抗をする為に


 光の破壊者が三つの世界樹を食べ尽くした時、世界の四分の三は荒れた荒野や砂漠に変わる。


 人々も相応の数が死んだ、食べられた。

 人々は最後の世界樹を守る為、集められた者達で光の破壊者に挑んだ。


 それはとても強い人達だったと聞いたよ、竜王は僕と同等だと言っていた。

 それ程の人達が何十人も集まって、光の破壊者と相対したんだ。


 この世界のほとんどの人が知らないけど、その人達は英雄だった。

 語り継がれる事もない英雄達。


 結果、その英雄達は一人を残して力尽きる。

 だけど、英雄達の決死の力は光の破壊者をその身に宿す事で封印する事に成功した──


「そして、世界は守られているんだよ」


「守られてる?」


 マイルさんの言葉に自然に声を返していました。

 だって世界は2000年で竜王に破壊される、守られてるなんて言葉は当てはまりません。

 光の破壊者が封印されているならば、世界の境を行う竜王を止めればいい。


 けれどマイルさんは言葉を繰り返します。


「竜王に守られてる」


 何故、だってそれなら……破壊を行う竜王を倒さないと……

 意味が分からなくて、私はマイルさんに問いかけます。


「どういう意味ですか……? マイルさんだって先程世界の境は竜王が行う破壊だって、守っていませんよね……?」


 マイルさんは話し始め時と同じで、瞳を揺らします。

 深く深く、澄んだ深紅の瞳。


「うん、その行為が世界を守っているんだ」


 世界の人々を殺し、破壊する行為が世界を守ってる……


 思考が巡ります。

 生命力が満ちて現れた光の破壊者。

 生命力が満ちると破壊を行う竜王。

 それの意味する事。


 嘘……ですよね……?


「もしかしてぇ……世界に生命力が満ちると竜王が人々を淘汰するってぇ……」

「光の破壊者が復活しない為にか?」

「封印してるのは……竜王なの……?」


 どうしたって行き着く答えは一つしかありませんでした。


「そうだよ、世界に生命力が満ちて、光の破壊者の封印が解けない様に、世界と人々を殺すんだよ」


「そんな……」


 声が震えます、2000年の度に世界を壊し、多くの人々を殺した竜王の行為は世界を守る為。


「うん、僕もそれを納得してる訳じゃない。けれど竜王は昔より弱くなった今の僕達で光の破壊者を倒す事は叶わないと言ったよ」


 マイルさんがぎゅっと拳を握り締めたのが分かります。


「世界樹が四つあり、世界に生命力が満ち、生命力に溢れる人々でも倒す事が出来なかった光の破壊者を、今のお前達で倒せるのかと言われたよ……っ」


 マイルさんの言葉に力が込もります、小刻みですが震える体にみんな気付いたと思います。

 それで察する事が出来ました。


 マイルさんは竜王に言ったんですね?

 竜王に光の破壊者を倒すと話を持ち掛けた。


「光の破壊者が復活したら、今度こそ世界の終わりだと言われたっ。だから生命力を減らす為に、人々を淘汰する、世界を破壊するとっ……!」


 あぁ……マイルさんの瞳が揺れた理由がやっと分かりました……。


「僕はそれを聞いた後、光の破壊者を倒すと言えなかった!! 誰も殺させないと言えなかったんだっ!!」


 マイルさんは、きっと一人でやるつもりだったんでしょう。

 今まで、一人で全てを背負っていたのだと思いました。


「大勢の人々を見殺しにしても、世界の存続望むか、すべての人が生きる道を選ぶ為に、全てを賭けて光の破壊者と闘うのか!! そう問われ光の破壊者を倒すと言えなかった!! 僕の行動で世界が終わる事が怖かったっ!!」


 マイルさんは下を向いて言葉を吐き出しました。

 素敵な程に、真面目で優しい方なんだと、そんな事を思いました。


「僕は、答えを出せなかった……」


 下を向いていてマイルさんの瞳は見えなかったですが、魔石に照らされ零れる雫だけがキラキラと煌きました。


「竜王の様に自らの手を汚す事もなく、責任も負う事もなく、何も出来なかった、何も言えなかった、僕は何も……」


 違う、違いますマイルさん。

 貴方はまだ諦めてないんです。

 世界の全てを賭ける、そんな重い物を実感しながら、それでも貴方は諦めてないんです。

 貴方はきっとこの世界を救いたい。


 私に世界を救うなんて大それた事は考えられません。

 けれど私には守りたい人がいる。

 私にしか出来ない事がある。


 私は世界樹の言った言葉を思い出しました。


『その道を進めば、世界は滅びるかもしれない』


 きっとこれは、この時の言葉だったのでしょう。

 竜王と相対し、封印を解けば、世界は光の破壊者によって終わるかもしれない。


 そういう事だったのでしょう。


 そして私は、光の破壊者を倒せる唯一の存在、闇の聖女。


 本当は私が悩むべき事を、私の代わりにマイルさんが悩んでくれた。


 そのお陰で、私の心に悩みは生まれませんでした。

 どうしようもないぐらい、マイルさんが悩み、その涙を見せてくれたから。


 それなら私は、私が思う方向に進みます。


 私は闇の聖女になった時に決めたんです。


「マイルさん、私も一緒に、世界を担います」


 世界を救う、今でもそんな大それた事は思っていません。

 ただ私は、守りたい人の為に。


 私は 闇の聖女 を名乗ると決めたから。


「もう一度、竜王に話をしに行きましょう」

「私の時と……エルフ族の時と似てるね……」

「そうねぇ、今度は規模が世界になっちゃってるけどねぇ」

「世界が生きる為に、何も知らずに死んでいいわけないだろ? 男が何泣いてんだ、やりたい事をやれ」


 あの時とは似て違う状況ですが、私はマイルさんに伝えたい言葉があります。


「人知れず英雄になるってのも、悪くないよな」

「今度は私ぃ、絶対レティを守るわぁ」

「お兄ちゃん……あの時の私……次は私が……守る!」


 私達はルルを生贄に差し出す事を拒んだ、そんな私達が竜王の破壊を見過ごせる訳がありません。

 それの天秤に架かるのが世界の終わりだとしても。

 小さな小さな可能性に賭ける勇気は、いつの間にか手に持っていたのです。


「あ……はは……世界が賭かっているんだよ? 世界が滅ぶかもしれないんだよ?」


 そう言ったマイルさんは笑っていて、私は伝えたい言葉を口にします。


「一緒に光の破壊者を倒しましょう、誰も涙を流さない為に」

「ありがとう……」


 マイルさんの頬を、一粒の雫が伝います。

 けれどそれは、悲しい涙ではありませんでした。


「うみゅぅぅぅぅ!!」


 ポロンと零れる様にテーブルに落ちたうーたんが嬉しそうにマイルさんに飛びつきました。

 

「死ぬ程悩んだ、僕はやっぱり答えは分からない。だからね、僕がこうあったらいいなと思うこれからに、ちっぽけな僕を賭けるよ」




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