しがない聖女のラビットスライム
地下二階
洞窟内に発行する青白い光。
洞窟の中をぼんやりと確認する事が出来ます。
洞窟内の魔力が濃いのだと思います、油断する訳にはいきません。
「なぁ、ラビットスライムって知ってる?」
洞窟を少し歩いた所、何かを発見したのかプリシアが呟きます。
「垂れ耳の付いたスライムですよね?」
見た事はないですが聞いたことはあります。
なんでも多勢に無勢も真っ青な数で標的を襲うとんでもない魔物です。
スライム恐怖症の気がある私には恐ろしすぎる魔物です←(蘇るトラウマ)
「でもぉ、一匹の力はぜんぜん強くないでしょぉ? 私達が苦戦する事はないわぁ」
「あぁ……全く相手にならないと思う……」
何故か怪しく笑うプリシア、この感覚、この感じ、嫌な予感がします。
「倒せればな……ふふふ……」
確実に此方を向いて笑っているプリシア、私がスライム恐怖症と知って楽しんでいるのでしょうが、そうはいきません。
接近される前に倒せばいいのです、大嫌いなグールですら見なければ倒す事が可能な私です、スライムぐらいどうという事はありません。←(見なければってなに?)
「あ……うーたんだ……」
ルルの声に前方を確認します。
うーたん? うーたんは宿で荷物番という名のお留守番をしているのです、うーたんがここにいるわけが……
「あらぁ……うーたんがいっぱいねぇ……」
「あぁそうそう、ちなみにラビットスライムは魔力の一番高い人に襲い掛かるぞ? ふふ、わかるな?」
あまりの衝撃に体が硬直します。
前方から来るのは間違いなくうーたん、いえ、顔だけうーたん、ちょっと大きめの顔だけうーたん? スライムうーたんです。←?
「ちょっとぉ……似すぎて攻撃したくないわねぇ……」
「かおうーたん可愛い……」
体のないうーたん、気持ち悪いかと思いきや、なんとも愛らしい姿。
こ、これは反則です! うーたんじゃないと分かっていても……! う、うーたんじゃないんですっ!!
私は杖を握り魔力を込めます。
ポヨポヨポヨポヨポヨっ! ポヨヨヨヨポヨヨポヨヨヨヨッ!
スライムうーたんの数はざっとみてもニ十匹は越えています、あんな数のスライムに襲われたら如何に一匹が弱いとしても何度鳩尾を襲われるか分かったもんじゃありません。
撃つんです! 撃たなきゃやられるんです!!
「くぅっ……マジック……っ!!」
「レティシア……うーたんは何かとお前が悲しんでる時や、寂しい時にお前の側にいたよなぁ……?」
「は、はぁぅぅ!?」
かおうーたんはどんどん距離を詰めます。
撃つんです、う、撃たなきゃオパァになっちゃいますっ!
「マジックッ……!!」
「レティシアっ!!」
悪の誘惑、プリシアは私の言葉を遮りました。
「うーたんは……お前が倒れてる三日間、誰よりもお前の側にいた」←(やる事がなくてずっと側にいれたとは言わない)
「うふぅっ!!」
ガクガクと震える膝、構えた杖はブルブルと揺れ、まるで私の体がかおうーたんを攻撃したくない様に狙いが定まりません。
「うーたんはな……夜に両手で果物を持つ練習をしていたっ!!」
ガガーーンッッ!!
電撃が体を駆け巡ります。
私は悟りました。
飛び込んでくるかおうーたんを抱き締める様に、両手を大きく広げます。
「うーたん……大好きですよ……」
私にうーたんそっくりのかおうーたんを攻撃する事は出来ません、ならせめて愛情だけでも届けよう、私はそう思いました。
ドコンッ!!
「おぱぁぁぁ!!!」
ドコンドコンッ!! ドコドコドコドコドコドコッッ!!
「ボエェェェェェェェ!!」←(両手を広げたままのレティシアに感動を覚える)
「むりぃぃぃぃっぃぃぃ!」
私は広げた両手でお腹を押さえ、その場に蹲りました。
「ほぅぇぇええぇぇぇ!!」
けれど私は攻撃しません、私には偽物と分かっていてもうーたんを攻撃するなんて……
そう思いながら、顔を上げた私の目にとんでもない光景が映りました。
「ダークアロー」
ドドドドドドドッドドドドドッ…………!!!
黒い矢に貫かれるかおうーたん、すべてのかおだけうーたんの中心を深々と黒い矢が突き刺さります。
「か、かおうーたぁあぁあぁん!!」
私は叫びます、抱きしめようとして鳩尾に体当たりしてきたかおうーたん。
それでも私は攻撃出来なかったんです。
「レティシア! 目を覚ませ! あれはうーたんじゃない!」
プリシアが私の肩に手を置き、顔を覗き込みました。
「うーたんに似ているだけであって、全く違う! お前は似ていれば誰でもいいのか! 恥を知れ!」
…………そこまで言わなくても……(涙)
「ぷ、プリシアさん……ちょっとひどくないですか……?(涙)」
そう言われたらその通りです、その通りなんですけど……
「うーたんに失礼だぞっ! うーたんはうーたんだけだっ! 違うかっ!」
…………
「うえぇぇぇぇぇぇえぇえぇぇぇ」←(凄まじいショック)
「レティ姉、泣かないで……? いい子いい子」
「レティ♪ 大丈夫♪ 私も攻撃出来なかったから♪」
「レティシア、分かればいいんだ。代わりに私が倒しといたからな☆」
「うぇええぇえぇえぇ」
確かに、確かに私は攻撃出来ませんでした。
倒してくれてありがとうなんです、ありがとうなんですけど……
「ふぇええぇええっぇぇぇぇ!!」←(それならもっと早くやってよ!と言ってる)
その後の事、はぐれたのか一匹のかおうーたんがポヨポヨと洞窟の真ん中にいたのですが、プリシアがそっと抱きしめてそのまま迷宮を進みました。
地下3階に行く時です、プリシアはそっと2階にミニうーたんを離しました。
そんなプリシアを見て私は思います。
やっぱりプリシアもうーたん好きなんですね、攻撃させてしまってごめんなさい。
「な、なんだよ!? 別に一匹ぐらいいいだろ!」←(顔真っ赤)