表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
しがない鑑定眼の情報屋さん ~闇の聖女~  作者: もるるー
第三章 闇の聖女と世界の話
56/74

闇の聖女の鑑定眼

 魔竜は体から無数の蔓を私達目掛け伸ばします。先端は鋭い槍と見間違える程に尖った蔓は、正面だけでなく大きく弧を描き左右、曲がりくねり下からと不規則に私達を襲います。


 モニカは正面から来る蔓を槍で切り落とし、左右や下から襲う蔓は身を翻し躱します。


 ズズズズズズッ


 私は闇同化で闇を体に纏い蔦を気にせずに闇魔力で槍を生成。何本もの蔦が私を突き抜けて地面に突き刺さりました


 ドドドドドドンッ!


「レティ 羨ましいわぁ」


 ズズズッ と空に浮かぶ闇の輪っかから槍が形作られるよりも早く、魔竜は大気をビリビリと揺らす咆哮をあげ、蔓を引っ込めます。


『ガアアアアアァアアァァァア!!』


 ドォン! ドドォン!!


 物理攻撃が効かないと思ったのか、大砲の様な轟音と共に巨大な風の玉を三つ吐き出しました

 

 一つの玉でも私とモニカを一緒に飲み込む程の大きさのそれに向け、左手を翳します。


「ダークウォール」


 私とモニカの前方に風の玉と同等の大きさの渦巻く闇魔力を展開、闇の渦に飲み込まれる様に風の玉が消えていきます。


「───ッ!」


 一つ風の玉を飲み込んだだけでごっそりと魔力が減ったのを感じます。これは……あまり多く防げそうになさそうです……


 頭上の槍の生成は終わっていたのですが、まずは風の玉の無力化を優先し、迫る二つのそれを渦へ飲み込ませました。


 シュウウウ! シュゥゥゥン!


 私は魔力の消費量に闇同化を解除し、三つの玉をすべて飲み込んだ後にすかさず闇の槍ダークランスを魔竜目掛けて投じます。


「ダークランス!」


 ドヒュンッ! パパパッ!!


 ドンッッッ!!


 投げると同時に空気を貫く音、魔竜の体を貫いたのも一瞬です。魔竜の大きな体の中心に風穴がポッカリと開いて悲鳴が森に響きました。


「ギャアアアアァアアウウウァウ!!」


「あらぁ? チャンスかしらぁ?」


 悲鳴を上げて怯む魔竜を見てモニカが地面を陥没させる踏み込みで発射する様に飛び出しました。


「ダークアロー!」


 飛び出したモニカに合わせて無数のダークアローを放ちます。モニカの守る様に、モニカを中心に緩やかに回り、螺旋状の黒い帯を中空に描きながらダークアローがモニカと共に魔竜に迫ります。


「神速突きぃ~」


 槍の切っ先に込められた気が魔竜に当たった瞬間に閃光が煌きました。槍とは思えない衝撃音の後にモニカの周りを回っていたダークアローが散開、モニカの逃げ道を作ると共に魔竜の巨大な体を広範囲に攻撃します。


 ドゴォォォォォォォッッッ!! ズドドドドドドドドドドドンッッ!


『グゴオオオオォォォォ!!』


 シュルシュルシュルシュル!!!


 反動で距離を取ろうと中空を飛ぶモニカに向かい上下左右から蔓がモニカを襲います。


 やらせるわけにはいきません。


 蔓を切ろうと風の刃を想像しながら闇魔力を生成、黒い刃がモニカを直線的な円で囲む様に空気を切り裂いて飛び出しました。


闇の刃ダークカッター


 キキキキィン キキキキキィン !!


 ズボッ!! ドシュッ!!


 え……?


「レティ ありが……」


 モニカは地面に降り立つと同時に、私に振り返り言葉を詰まらせました。


「レティ!?」


 私の前方の地面から一本の蔦が地面を穿ち、勢いよく私の横腹を突き抜けました。


 ゴフッ


 喉を熱いものが通り過ぎると、鉄の様な渋い味が口の中に広がります。

 堪らず口の中の苦い物を外へと吐き出します。


 ゴボッ ゴボォッ


 地面を通っていた蔦が地面を抉る様に姿を現し、そのまま私の体を空中へと持ち上げました。


「──────ッッ!!」


 呆然とするモニカに新たな蔓が伸び、モニカはすんでのところでその場から飛びのきました。


「グオォオオオオオォオオオォォ!!」


 魔竜が勝ち誇った様な雄たけびを上げたのは、私が蔦に突き抜かれたまま力なく宙にブラリと垂れる姿を見た時でした。


 貫かれた場所が焼かれているみたいです。痛いというよりは熱い。真っ赤になるほど熱した鉄の棒でお腹を貫かれている様です。あまりの熱さに体が ビクンビクン と脈打ちます。


 カッ アグッ


「お姉ちゃん……? お姉ちぁああぁん!!」


 熱くて痛くて、抜いてほしくてたまらない蔦の事しか考えていなかった私ですが、悲愴な言葉に私は首をなんとか動かしました。


 そこにはエルフ族の皆が、その先頭にはルルの姿が見えます。


「我々も戦う!! ここで我々が滅びる事になろうとも!! お前を許してはおけぬ!!」


 マスターが剣を抜くと、エルフ族のみんながそれぞれに武器を構えました。


 ドォォォン!!


「下がってぇ!!」


 そんなエルフ族を嘲笑うかの様に、魔竜は風の玉をエルフ族に向かって吐き出します。


 左手で蔦を握りしめ、ダランと垂れる体を起こすと横腹から血が噴き出しました。熱した鉄の棒で傷口を搔き回されたと思った程です。


 ブシュッッ!


 私は右手をエルフ族に翳し ダークウォールを展開、風の玉が当たる直前で渦がそれを無力化します


『グオオオォォォ!!』


 ブシュッ ブシュゥゥゥ!!


 魔竜は私はいたぶる様に蔦をグリグリと動かしました。横腹から新たな血が噴き出します。


「レティィィィ!!」

 助けに来ようとするモニカには必要に蔓を伸ばす魔竜、モニカはなんとか私を貫く蔦を断ち切ろうとしますが、夥しい蔓の数に接近が出来ません。


 泣き出しそうなルルを心配させるわけにはいかないと、私はルルに向かって微笑みました。


「お姉ちゃん……楽しい事……いっぱいしたいよ……」


 距離があるにも関わらず、ルルの声が聞こえた気がします。私は大きな声は出せませんでしたが、言葉を返します。


 止めどなく喉から湧き出る苦い物を一度大きく吐き出しました。


「ゴホォ……ッ…… そうだね……辛い事は、もういっぱいあったもんね……」


 私は蔦を両手で握り、ありったけの魔力を蔦に込めました。込めれば込める程、闇の魔力が燃え盛るイメージを強く持つ事が出来ます。


 チリチリ と黒い煙を出して、蔦に黒い炎が燃え上がります。


 異変に気付いた魔竜は蔦を引っ込めようと貫く蔦を動かしましたが、それよりも一瞬早く蔦を燃える炎は蔦を伝って広がっていきます。


 私が、ルルの辛い思い出になるわけにはいかないもんね。


 ゴワアアアアアアアアアアアッッッ!!


 蔦を伝う黒い炎は瞬く間に魔竜の体へと燃え移り、木で出来たその体は黒い炎に包まれました。


『ガアアアアアアアアアァァァァァ!!』


「レティィ!!」

「お姉ちゃんっ!!」


 中空から蔦を抜かれ、ドサリと地面に落ちる私にモニカとルルが同時に駆けつけます。コロリと貫かれた私のローブから鑑定の輪っかが転がり落ちました。


「グオオオオオオオオオオオオオォォオオオォォ!!」


 魔竜の雄叫びに瞼を開けると、黒い炎で燃え盛る魔竜が此方目掛けて大きく口を開けていました。


 ドドオオオオオオンッッ!!


 吐き出されたのは二つの風玉、なんとかダークウォールを展開しようと試みますが、私の魔力は底をつきダークウォールを展開する事が出来ません。


 私は転がった鑑定の輪っかを握りました。やった事も試した事もありません。だけどそれが出来るとなんとなく思いました。


 私は輪っかを両手で握りながら、右目に意識を集中します。魔力は出ませんでしたが、ゆらりと私の生命力が移動した気がしました。


「後はお願い……私の鑑定眼……」


 キィンッッッ!!


 光と共に輪っかが粒子になって消えると、私の右目にあった鑑定眼が無くなった気がしました。朧げな視界の中、黒く、それでも暖かい光を放つ生命力が形になっていくのが分かります。


『死ぬな!! レティシア!!』


 ギュワァァァァァァァァ!!


 私が作り損ねたダークウォールが激しく渦を巻き風の玉を消し去ったのが分かります。


『グオオオオオオォォオォオオオォォオオオォ………オォォォ………』


 もう私には見えませんでしたが、魔竜の最後の雄叫びが耳に響きます。


『ルルゥ! モニカァア! ありったけの生命力レティシアに込めろぉぉ!!』


 私が目を閉じる前に見た人は 黒く艶めく長い髪の 鑑定眼の姿でした。


 あれぇ? なんか私より可愛くないかな……?


 ピクリとも動けないはずなのに、少しだけ口角が持ち上がった気がします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ