闇の聖女とルル・エリエット
「エルフ族は魔竜に生贄を差し出す事で光の破壊者の破壊から逃れているんじゃ」
「どうしてそんな事が魔竜に出来るのですか?」
「光の破壊者は龍を束ねる龍王だからじゃ、同じ竜種じゃ話が通せるのも納得じゃろう?」
光の破壊者は龍王? 私が見た光の破壊者は人型だったのですが……
「あ、あの? 龍王は人型になれたりしますか?」
「? 龍王は知らんが、森の魔竜も儂と話す時人型の生命力で話してくるが、何故知ってるんじゃ?」
と言うと、夢に出ていた人型は龍王? それが光の破壊者? 頭の中で疑問が思い浮かんだのですが、私は考えを振り払います。今はその事は置いておきましょう。
「生贄を捧げている理由はわかったわぁ ならなんで、十数年前に魔竜に戦いを挑んだのかしらぁ?」
「何故それを!?」
「シャンベリーにエルフ族が来た事があるの、最初は信じてなかったけどぉ この町のエルフ族は女性ばっかりだから、本当かもって思っちゃってねぇ」
「その通りじゃよ、ルルの両親を中心に魔竜に反旗を翻した事がある。あの2人はずっと生贄に異論を唱え何度も魔竜に話を持ち掛けた。魔竜がそれを承諾する事はなかったがの。そしてルルが生まれた時あの2人は決意したんじゃ。その先に光の破壊者に破壊される未来があったとしても魔竜を倒そうと、それはエルフ族全員の思いじゃったんじゃ。生贄を捧げ生きる事を誰も良しとは思っていなかった」
話を付け足す様にマスターも口を開きます。
「ルルの両親はそれをする力があった。誰もが勝てないと諦めていた魔竜に勝てるかもしれないと思える程強かった。だが、魔竜は強すぎた。私達はあの戦いで死ぬつもりだったんだ」
「ならぁ なぜまた生贄を?」
「ルルの両親が死ぬ間際に言ったんじゃ、魔竜に勝てなくても、命を投げ出さないでほしい。私達は魔竜に勝てなかった。それでも未来が変わらないわけじゃない。生きていなければ何も変わらない、ルルが生贄になる運命だったとしても、生きていなければ何も変わらない。死んだらそこで終わってしまうとな」
「私達もそこで死んでよかったっ! しかし……! わ、私達は……っ!!」
マスターの頬に涙が伝います。エルフ族は誇り高く戦いたかったのだと言葉が聞こえた気がします。
「耐える戦いを選んだんじゃ。ルルの両親が言った様に、生きてその先に変わるものがあると、可能性を信じる事にしたんじゃ。お前さん達の言う通りじゃ、自分達では何も出来ない……人任せのつたない可能性……それに賭ける事にしたんじゃ、あるかも分からない人任せの可能性にじゃ」
自分達で行動して掴む未来じゃなく、他人を信じて掴む小さな希望……それは、自分で行動するよりもずっと辛い事の様な気がします。訪れるかも分からない小さな希望を抱いて待ち続けるなんて、私なら……諦めてしまうかもしれません。
エルフ族は、それでも諦めず。小さな希望を信じ続けたんですね。
「わ、私は……そこで死にたかった……誇りを胸に死にたかったっ!その方がどれだけ楽だったかわからない……! それでも……わ、私は。誇りを失ってでも……っ」
ルルの両親の言葉を信じたんですね。ごめんなさい。私は何も知らなかったです。エルフ族は訪れるか分からない未来の為に、耐え忍んだんですね。
「そぉ、ごめんなさい。私は貴方達を勘違いしていたわ。酷い事を言ってごめんなさい。貴方達は私の知る中で誰よりも誇り高いわ」
「私も謝ります。何も知らずにごめんなさい」
「いいんじゃ。儂ももう疲れた。これを最後にしたい……光の破壊者に破壊される未来だとしても、先へ進みたいんじゃ。進まなければ何も変わらない。魔竜を倒せるか?」
エルフ族は覚悟を決めているんですね? その先の未来が破壊だとしても、その道へ進むのですね?
「魔竜を倒します」
私が魔竜を倒す事で、エルフ族は滅びるかもしれません。それでもいいんですね?
私の思いを汲む様に町長さんは微笑みました。
「光の破壊者の事は気にするでない。元々エルフ族だけ多く生き残れたのが不公平じゃわい」
ありがとうございます。その言葉は正直救われます。
「困難な未来の先には、更なる困難が待ち受けている世界ですか。嫌になりますね」
「そうじゃのう」
「生きる事は……楽しくないの……?」
不意に私のスカートがギュッと握られます。女の子が不安そうな顔で私を見ていました。
「わたし……楽しかったよ? お姉ちゃん達といて……初めて楽しかったよ……?」
私は微笑みました。女の子の頭にそっと手を置いて問いかけます。
「私の名前は レティシア・プリシエラ 貴方の名前は?」
「え? ルル……だよ? ルル・エリエット 」
「ルルの絵本には生きる事はなんて書いてあった?」
「? 生きる事は……楽しいって書いてあったよ?」
「そうだね。生きる事は楽しいはずだよね」
「うん! お姉ちゃん達といるの……楽しいっ……!」
私の戦う理由がまた一つ増えた気がします。