闇の聖女と女の子
『お姉ちゃん。ありがとー』
宿の部屋で、名前も知らない女の子の言葉を思い出します。
「モニカ? なんでありがとーなのかな?」
ベッドに寝転びながら、窓から外を眺めるモニカに尋ねます。何に対してのありがとーなのでしょう?
「ねぇレティ? ちょっと冒険者ギルドにいきましょぉ?」
私は起き上がり、モニカに問い掛けに首を傾げます。
「え? いいけど、どうしたの?」
「この町の真相をぉ 確かめにいきましょぉ♪」
◇◇◇◇◇◇◇
深夜の冒険者ギルド。扉の前に立つと中から声が聞こえてきます。
「やはり、何も変わらんか……」
「どうする事も……出来ないのでしょうか……」
「明日には魔竜の所へ行かねばならん……」
モニカと共にこっそりと話を聞きます。盗み聞き? いいえ違います。声が漏れているのが悪いんです。
「わたしぃ……やだぁ……」
この声? 昼間の女の子の……?
私は声に意識を集中します。盗み聞き? はいそうです。いいんです。今はいいんです。
「ルル……すまんのう……儂も一緒じゃ。許しておくれ」
「やだぁ……行きたくないもん……」
あの子の声はかすれています。泣いてる?
「一族が助かるんじゃ。ルルのお陰で、みんな助かるんじゃよ?」
「……やだもん……みんなわたしの事嫌いだもん……わたしもみんなの事好きじゃないもん……」
どういう事?
「皆がルルの事を嫌っているわけじゃないんじゃ、お前には申し訳ないと思っているんじゃ」
「知らないもん……みんなわたしと遊んでくれない……話してくれないもん……」
この話の流れはなんですか?
嫌な予感に少し鼓動が速くなります。こめかみ辺りから嫌な汗が流れるのがわかります。
「お前は生まれた時から生命力が強かった。こうなる事は決まっていたんじゃ」
生まれた時から決まっていた? 何が決まっているんですか? 私はそう思いながらも、なんとなく頭で理解しています。
「やだぁ……絵本で読んだぁ……世界は幸せだって……生きる事は楽しいって……お母さんの絵本に描いてあったぁ……わたし……初めて楽しい……思えたもん…………お姉ちゃん達といたい……わたしの楽しいこと……あれでおわり……?」
私は理解しました。詳しい事は分かりません。それでも理解した事だけで十分です。あの子は何かの犠牲になる。
私は勢いよく扉を開けました。
「話を聞かせて下さい」
「な、なんじゃお前達は!?」
「お前達!? 昼間の!?」
ズズズズズズズズッ
私はギルド内を暗黒で覆います。周囲暗黒化の力です。禍々しい黒い霧がギルド内を覆い尽します。
サ────ッ ババ────ッ!
モニカが素早く女の子を抱きしめて私の側へと連れ出してくれます。交渉は出来そうですね。無理やりですけど。
「お、お姉ちゃん……?」
ルルと呼ばれた女の子はわけが分からない様子ですが、私を確認するとギュッと私の体にしがみ付きました。
「話を聞かせて下さい。私達はこの子を守りますよ? 話を聞かせてくれればこのまま逃げ出す事はしませんから」
「な、なんじゃ? 何が目的なんじゃ?」
「目的はありません。強いて言えば、この子に楽しい事を教えてあげたいぐらいです」
「お前達には関係ないだろう!? 我々の問題だ!」
「あらぁ? 貴方達だけだとぉ 解決できそうにないからぁ こうしてるんだけどぉ?」
「知った口を聞くな! 我々が何も思っていないと思うのかっ!?」
「思うだけなら誰でも出来ます。話を聞かせて下さい。お願いです」
私は周囲の暗闇を消しました。そしてもう一度、頭を下げてお願いします。
「どうか、私達に今の現状を教えてください。お願いします」
「誇り高いエルフ族がぁ 女の子を犠牲にしている理由、私もわからないわぁ」
町長は深く息を吐くと、大きなテーブルの椅子へと移動しました。
私達は女の子を連れてテーブルの椅子へと腰掛けます。勿論女の子は私の隣です。
「お前さん達はどこまで話を知っておる?」
それが話し合いの合図となりました。
◇◇◇◇◇◇◇