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しがない鑑定眼の情報屋さん ~闇の聖女~  作者: もるるー
第三章 闇の聖女と世界の話
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闇の聖女の夜逃げ(失敗)

「これでよし……と」

 私はモニカとマニカさんに宛てた手紙を書き終えます。手紙をテーブルに置き、私は荷物を手に取ります。

「モニカ、ありがとね」

 誰にも聞こえないと分かりつつも、書いた手紙を見ながら言葉が零れます。

 

 ベッドの移動は困難という事で、元からベッドがある部屋に一人で寝る事になったのが幸いでした。


 モニカやマニカさんは三人で寝ようよぉ♪ っと言っていましたけどね。


 朝に顔を合わせながら別れる勇気がありません。私は陽が昇らないのうちに大森林を目指します。勿論森に入る事はしません。陽が昇るまでは森の前で待つつもりです。


「うみゅ~?」


 うーたんは陽も登らない時間にごそごそしてる私を不思議そうに見ています。付き合わせちゃってごめんねうーたん。


「ごめんね。私絶対泣いちゃうから。困らせちゃうから」


 長年一緒にいたわけでもないのに、少しの間一緒にいただけなのに、本当に泣いちゃうから。


 困ったものです。そんな少しの間しか一緒にいなかった人に本気で泣かれたら気持ち悪がられるかもしれません。モニカはそんな事は思わないでしょうが、困らせるのは目に見えています。


「みゅ~」


 うーたんはすりすりと頬を摺り寄せてくれました。元気だせって事ですか? ちょっと元気出ましたよ。ありがとううーたん。


 私はそっと部屋の扉を開けます。


 私の気持ちは、全部手紙に書いたらね、モニカ。


 通路を足音を立てない様に静かに移動します。


 サ────ッ


 階段の前に着くと、手すりを握りなるべく音を立てない様に階段に足を踏み出します。


 ササ─────ッ ババ─────ッ


 一瞬風が後ろ髪を揺らします。

 なんだろう? と思い振り向くと、通路の先の窓が開いています。


 閉め忘れかな? 私は階段を下りる前に通路の先の窓を静かに閉め、階段をゆっくりと下りました。


 館の大きな扉を極力音のならない様にゆっくりと開けて、私は敷地へと歩を進めます。

 門と館の間で足を止め、館に振り返ります。


 モニカはここで妹さんと過ごしていくのです。


「モニカ、ありがとう、楽しかったよ。貴方ともっと一緒にいたかったなぁ」


 手紙にも色々書いたのですが、言葉を出さずにはいられませんでした。

 私はモニカを思い出し、少し微笑みます。私の初めての仲間です。


 踵を返し門に歩き出しました。まだ辺りは暗いですが、私猫目ですし、大森林に着く頃には陽も顔を出すかもしれません。


 私は門をくぐります。門を抜けて丁度一歩踏み出した所で。


「レティ? この手紙はぁ なにかしらぁ?」


 穏やかとも艶めかしいとも言える声。私は目を見開きながら声をした方へと振り返ります。


 門の柱の陰に隠れる様に、此方を向いて紙をヒラヒラと揺らすモニカがそこにいました。


「レティさん? 早とちりですよ? お姉ちゃんが仲間って言った人、初めてですよ」


 声を出せなかった私の後ろから、モニカによく似た穏やかな声が聞こえます。今度は艶めかしくはありません。


 さらに振り返ると、そこには紙をピラピラと揺らしたマニカさんがそこにいました。


「え? なんで?」


 二人が門の柱に隠れていた理由。いえ、二人がここにいる事が理解できず、私はポカンと言葉を紡ぎます。


「それはぁ こっちのセリフ! なんでぇ 一人で行こうと思ったのかなぁ?」


「え? だ、だって。マニカさんの病気も治るし……モニカには旅をする理由が……マニカさんの傍にいるんじゃ……」


「もぉ! お姉ちゃんは自由人だって言ったじゃないですか! 私の言う事なんかちっとも聞いてくれないとも! お姉ちゃんは、自分の気持ちに正直なんですよ」


 ふぇ? えっと……?


「私はぁ! 怒ってるのぉ! もぉ! 怒ってるんだからぁ! 私がいつここでぇ! レティと別れるなんていったのぉ?」


 え…………だって……


「レティさんが、私達の事を思っている事は分かっていたんです。私はすぐに分かりましたよ。お姉ちゃんと一緒にいたいのに、私達の事を思って身を引こうとしてる気持ちが、生命力に出ていましたよ。お姉ちゃんは抱きついてましたけどね」


「ほんとよぉ! レティと離れて寂しくないとでもぉ 思ってるのかなぁ?」


「え……だって……私と一緒に来たら……マニカさんと…………」


 私の声は震えていたと思います。手紙まで書いたんですよ? 恥ずかしい事もいっぱい書いたんですよ?


「マニカと一緒にいるのもぉ もちろん嬉しいわぁ 病気も治ってくれて嬉しぃ でもぉ」


 モニカは優しく笑います。


「レティさんと一緒にいたいと思ってるお姉ちゃんが、自分の気持ちを隠して私と一緒にいるのはどうなんでしょう? やりたい事が出来るなら、やるべきですよ」


 モニカの言葉を代弁する様に、マニカさんが答えます。マニカさんに申し訳ない気持ちと、嬉しい気持ちが混ざり合った様な。でもやっぱり嬉しくて。

 嬉しかったんです。


「そぉいぅことぉ ごめんねマニカ♪ 私ぃ レティと行くわぁ♪」


「わかってたよ お姉ちゃん♪ 私はもう大丈夫、手のかかる妹でごめんね?」


 下を向いていた私は二人の姿を見る事が出来ません。

 

「あらぁ♪ ふふ♪ マニカ ありがとぉ♪」


 二人の言葉を聞くだけで、自分から何か言う事も出来ませんでした。目から出る熱いものを止めようとしましたが、それは一向に止まってくれませんでした。


「……………………うぐ……ぅ……」


「レティ? 貴方とぉ 一緒にいてもぉ いいかしらぁ?」


「…………う……ん……」


「レティさん。お姉ちゃんをよろしくお願いします」


「う…………ん…………」


「もぉ♪ そんなに泣かないで♪」


「ご……み…………め……に……ぅ……」


「あらぁ いっぱい目にゴミが入ったのねぇ」


「お姉ちゃん、レティさん泣かせちゃダメだよ? こんなに泣いてくれる人いないよ?」


「うふふ♪ 知ってますぅ♪ 悪い男はぁ 寄せ付けません♪」


 私はその場に座り込み、顔を両手で覆います。

 

「あり、が……とぉ…ぅっく…ぅ……」


 その言葉を口に出すのがやっとでした。


「うみゅ? うみゅ♪」


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