闇の聖女とモニカの夜
「レティ? レティはこれからどうするのぉ?」
髪を乾かし終わる頃、モニカが私に尋ねます。ちなみに髪は風が出る魔石で乾かします。
「私はラースカド大陸の大森林に行くよ。エルフ族に話を聞きたいの」
モニカとはここでお別れかもしれないです。妹さんに月下美人を届けなくてはいけません。一緒にいたい気持ちが強いですが、それは仕方のない事だと言い聞かせます。
モニカは私の予想に反して両手を合わせて ぱぁ っと花が咲いた様な笑顔を見せました。
「あらあらぁ♪ 私の住んでる町はぁ 大森林の近くなのぉ♪ 一緒に行きましょう♪」
一緒に行動できる事が嬉しいのか、モニカは満面を笑みで話してくれます。モニカと一緒にいられる事と、私と一緒にいたいかの様なモニカの姿に、私は少しだけ泣きそうになりました。嬉しいんです。
「うん! 一緒に行こうね!」
目頭が熱くなるのを必死に抑え、私は笑顔で答えます。大森林までは、モニカと一緒にいられますね。
「でもぉ レティ? どうしてエルフ族に話を聞きたいのぉ?」
モニカは不思議そうに尋ねます。わざわざ大陸を渡りエルフ族に話を聞きに行くのです。理由は気になると思います。
「エルフ族は世界の境について、何か知ってるかもしれないの」
「世界の境? 世界の終わりとぉ 光の破壊者の話かしらぁ?」
確信をついたモニカの言葉に、私は目を見開きました。え? どうして知っているんですか? ラースカド大陸では有名な話なのでしょうか?
「う、うん! モニカも何か知っているの?」
「レティの属性が闇属性なのとぉ 何か関係があるのかしらぁ?」
モニカはそう言って少し意地悪く笑いました。まるで 私にも全て教えてほしいなぁ っと言っている様に聞こえます。
私は進んで誰かに話そうとは思いませんが、モニカにならいいかな? っと思います。 別に隠す事でもないですしね。
「じゃぁ、私が 闇の聖女 になる少し前から話すね」
私は椅子の向きを変えてモニカと向き合います。
「はい♪ 宜しくお願いしますぅ」
椅子が一つしかない部屋なので、モニカはベッドに腰掛けたまま姿勢を正し、軽く頭を下げました。
「モニカ、そんな畏まらないで。そんな大層な話じゃないから」
私は少しだけ深く息を吸いました。
「私は しがない鑑定眼の情報屋さん だったの────」
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「あらぁ……それならぁ エルフ族に話を聞いた後もぉ レティの旅は続くのねぇ」
そういう事になります。長寿の魔族はどこにいるか分かりませんが、世界樹にも赴こうと思っています。
「うん、続くと思う。光の破壊者の話次第ではあるんだけどね」
私が夢を見た事、天神族の小さな世界樹で声を聞いた事、闇の聖女として知らないといけない気がしている事、話せる事は全て話しました。モニカは途中で話を遮る事なく、ゆったりと話を聞いてくれました。
話が終わると、モニカは自分の知っている話を教えてくれます。
「私のぉ 住んでる町で伝えられる話はぁ ちょっと違うわぁ」
「え?」
モニカはベッドに座りながら穏やかに微笑んでいます。私の返答を待たずにモニカは話を続けます。
「私の住んでる町だとぉ 光の破壊者は、世界中の生命力が増えたら現れるみたいよぉ その境が2000年って言われてるのぉ」
世界中の生命力が増えたら? やっぱり光の破壊者は生命力に関係している? いえ、それよりも、大陸? 種族? によって伝わってる話が違う?
「え……と、生命力が増えたら現れるの? どういう事か知ってる?」
色々と聞きたい事がありましたが、まず口から出たのは光の破壊者の事でした。
「えっとぉ 生命力は人や木、花や動物にもあるでしょぉ? 生き物や自然が増えれば世界の生命力は増えるわけよねぇ? 生命力が世界に溢れだしたら現れるらしいわぁ 本当かどうかは分からないけどぉ」
生命力が増えたら破壊する為に現れるんですか? 生命力は光の破壊者にとってエサなんですよね? 生命力を奪う為に現れるのであれば、破壊する意味ってなんですか? 破壊する事が生命力を奪う事なんでしょうか?
私は小首を傾げます。
一番辻褄が合う気がするのが、破壊する事が生命力を奪うと同義である事。あるいは、破壊する事で生命力を奪える事です。
いや、待ってください。それなら何故世界樹は破壊されないんですか? 一番生命力のある世界樹を破壊、奪わないのはなんでですか? 意味不明なんですけど?
「ん……と………。え? それなら何で世界樹は無事なの? 世界樹は何千年も前からあるっぽいけど……?」
私は言いながら、自分の言葉に答えを探します。
えっと……? 光の破壊者が現れる為に必要とか……ですか? っと言うか、光の破壊者が復活してまたいなくなる理由ってなんですか? 生命力が減ると消えちゃうとかですか? それなら消えない程度に生命力残しておけばいいんじゃないですか? なんでそんなマゾみたいな事してるんですか?
ほんとにチンプンカンプンなんですけど……
モニカは うふふ といつもの様に頬に右手を当てて微笑みます。
「わからないわぁ 町に伝わる話だからぁ」
私もちっとも分かりません(涙)
モニカが聞いた話は言い伝えなのでしょう。詳しく知っている人なんていないのかもしれません。それでも、モニカの話は今まで聞いた話よりも具体的です。
私はモニカに尋ねます。
「モニカ? この言い伝えはラースカド大陸全般に伝わる話なのかな?」
モニカは少し上を向き、指を頬に当てて考えている様でした。
「私の住んでる町に伝わる……かなぁ? 魔族の血を持つ人が多い町なのぉ♪ これは魔族に伝わる言い伝えかなぁ?」
魔族に伝わる言い伝え。種族によって言い伝えの重要性が異なっている様な気がします。
魔族には光の破壊者が現れる理由を知っている人がいる……? やはりそれは、長寿の魔族?
「寿命が長い種族の方が、話を具体的に知っていそうですね」
当然の事なのかもしれません。伝わる人数が少なければ少ないほど、情報は明確に具体的になるものです。
「俄然エルフ族に話を聞かなくてはいけませんね」
エルフ族は最長の寿命を持つ種族です。私の知っている話が繋がる事を知っているかもしれません。
私は グッ と拳を握り、世界の事を知る決意を新たにします。
「うふふ レティ 貴方ぁ すごい♪」
モニカはそう言って嬉しそうに笑います。
「……?? え? なんの話?」
何がすごいかよく分からない私は ポカン とモニカを見つめます。
そんな私は気にせずに、モニカは優しく微笑んでいました。
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