表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
しがない鑑定眼の情報屋さん ~闇の聖女~  作者: もるるー
第三章 闇の聖女と世界の話
39/74

闇の聖女の思い

 月下美人を手に入れる為、モニカに同行してベイランの西にある鉱山に向かいます。

 鉱山の麓には山を迂回する様に道がありますが、私達が目指すのは反対の山面にある、海に面した崖の様な山面です。

 切り立っているわけではないのですが、海に面した崖に道はなく、まず人が来る事は無い様に思います。


 ゴツゴツとした岩肌が剥き出しの斜面をひょいひょいと進んでいくモニカとは違い、私は悪戦苦闘しながらもモニカの後を追いました。


 鉱山を抉る様に空いた洞窟に辿り着いたのは、オレンジ色の空が黒に変わろうとしている頃でした。


「レーティ♪ 月が出るまではぁ ここで休みましょぅ」

 洞窟に入り少し奥へと進んだ辺りでモニカは言いました。

 月下美人は夜にしか咲かない花です。今月下美人を探しに行っても、花が咲いていない為に夜を待つ必要があります。

 モニカが言うには、月下美人の花が咲いた状態が好ましいとの事です。


 疲れた様子もなくモニカは微笑みます。


 これが本来のAA級の冒険者なのです。険しい山脈を登ったり、斜度のきつい岩肌を降ったりと丸1日動いたにも関わらず、息一つ切らしていません。

 きっと私に合わせてゆっくりと移動してくれたんだと思います。

 え?私ですか? 私はこんな感じです。


「モ、モニカさん……もう許して下さい……ごめんなさいごめんなさい……何でもしますから…………」←?

 そんな私に嫌な顔せず、モニカは私の隣に腰を下ろします。


「いいのぉ♪ 人には得手不得手があるんだからぁ 苦手な事は苦手でいいのよぉ」

 女神です。私にはモニカが女神に見えます。


「あ、ありがとうございまふー(だばー))」←?


「もぉ すぐ敬語になるんだからぁ 」

 そんなモニカとクスクスと笑い合いながら、月が昇るのを待ちました。


 こうやって誰かと旅をするのは初めてでした。


 私は実は、初めて出来た仲間が嬉しかったです。


 

◇◇◇◇◇◇◇◇



「行きましょうかぁ♪」

 陽が完全に沈み、変わりに月が空に浮かび始めた頃、モニカが立ち上がりながら口を開きます。


 洞窟内は仄かな青白い光を放っています。魔石なのか、鉱石なのかは判断出来ませんが。夜が更けるにつれて、うっすらと青い光を放ち始めました。


「はい。行きましょう」

 モニカに続いて立ち上がり、私は杖を握りしめます。

 メタルゴーレムとの戦闘は避けられないと分かったからです。


 この洞窟の奥には、すぐに開けた空洞になり行き止まりだそうです。空洞の天井には山の割れ目があり、差し込む月明りに照らされて 月下美人 は咲いているらしいです。


 問題は咲いている場所です。


 信じられますか? 月下美人は大きな岩の上に数本咲いていたらしいです。


 その大きな岩と言うのが


 メタルゴーレムさんの 頭の上 なのです。


 そんな事あります? 可笑しいですよ、ちゃんちゃらおかしいです。頭お花畑とはまさにこの事です。


 月下美人を傷つけない為に、闇の雨の様な全体攻撃は不可。狙う場所は鉄壁中の鉄壁とも言える胴体を中心。見事胴体を破壊して倒した後、頭から月下美人をもぎ取るのです。


 もぎもぎするのです。


 モニカは初めて腰に携えた小さな槍を手に持ちます。完全に矛に見えるのですが、モニカ曰く槍なのだそうです。


 おっとりとも艶めかしくも見えるモニカですが、槍を手にした瞬間から纏う空気が変わった気がします。AA級伊達ではありません。


「レティ? 私が相手をするからぁ 必殺の魔術をぶつけて欲しいなぁ」

 そう言ってモニカは笑います。一度メタルゴーレムを相手に死にかけたと言うのに、まったく物怖じしません。素敵ガールとはモニカの事を言うのでしょう。


「はい。分かりました」

 私が答えると、モニカは困った様に微笑みました。


「もぉ またぁ」

 仕方ないのです。そうそう癖は消えないのです。


 空洞を進むと、程なくして月明かりの差し込む開けた場所に辿り着きます。月明かりに照らされるように白い小さな花を咲かせた月下美人が凛としてそこにありました。


 岩の上です。


「レティ。来るわぁ」


 私たちが洞窟に入ると、岩がゴゴゴと音を立てて形を変えていきます。

 臨戦態勢の私は鑑定眼を開眼しているので、すかさず文字が浮かび上がります。


 メタルゴーレム

 属性 土

 特徴 生命力が宿った鋼鉄で出来たゴーレム

 効果 物理攻撃魔法攻撃でダメージを与えるには一定以上の攻撃力が必要。ちまちま攻撃しても埒があかない

 一言 弱点は頭。攻撃できないならしっかりと止めを刺せ、しぶといぞ。


 鑑定眼が真面目です。それ程強いと言う事でしょう。

 私は姿を変える岩から目を離しません。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴォ


「…………でか過ぎませんか?」


 確かにここは大きな空洞です。家を何軒か建てれそうな程の広い空間ですが、腕を降りあげれば天井に届くんじゃないかと思える大きさのメタルゴーレムに形を変えました。

 月明かりに照らされて、鈍く全身が光っています。


「でかいよねぇ」

 モニカはおっとりとした話し方に似つかわしくない程の速さで、ゴーレムに目掛け地を蹴り飛び出しました。

 手に持っていた槍は、青く光る長い槍へと姿を変えていました。


ドッ!! ヒュッ!!


 モニカが蹴った地面に土煙だけが残り、モニカはゴーレム目掛け槍を突き出します。


キィィィィンン!!


 金属音が空洞に響きます。戦いの始まりを告げる、鐘が鳴らされた気がしました。


 私は杖を握りしめ、今まで一番大きな闇玉ダークボールを生成します。硬いことは始めから分かっているので、前方に出来る闇玉に回転を加え貫通力を高めます。何故か私の想像通り、少しのズレもなく闇玉は高速で回転を始めます。


 きゅぃぃぃぃぃん!!


 甲高い音が闇玉から聞こえます。闇玉を中心に風が発生し、私のローブがバタバタと音を立てます。


 キィン! キキィン!!


 ゴーレムに向かい合うモニカには見惚れてしまいそうになります。

 必死に意識を闇玉に集中しようとするのですが、巨大なゴーレムに立ち向かい、槍を繰り出す姿は美しいとさえ思えます。


 モニカはゴーレムの攻撃をことごとく躱します。紙一重ではなく、圧倒的なスピードで躱しています。ゴーレムが拳を繰り出せばモニカの姿はそこにはなく、拳は地面を叩きます。足を振り上げ踏みつぶそうとすれば、振り下ろす時にはすでに全く違う場所へと移動しているのです。


(すごい……)


 攻撃をしては距離をとるモニカ。ゴーレムの目の前にいたと思ったら左足付近にいたり、左足付近にいたとおもったら右腕へと飛び上がっていたり。どうやって移動しているか分かりません。ヒラヒラ舞う黒いワンピースのモニカが所々目に映るだけです。


 しかしゴーレムはモニカの槍を受けてもダメージは無いのか、平然と攻撃を繰り出します。


(生半可な魔術じゃ、ゴーレムに傷を付ける事も出来無さそうですね)


 私は自分が込められる限界まで、いえ、それ以上に魔力を込めようと意識を集中します。

 私は、私のやるべき事をやらなければいけません。


 呼応するかの様に闇玉ダークボールの回転する音が研ぎ澄まされていきます。


 キュィ─────ッッッッ!!!!


「モニカ!撃てます!」

 私が叫ぶとモニカは目の前に現れ、いつもの口調で話しながら槍を構えます。


「少しはぁ 動きを止められるんだからぁ」

 モニカはそう言った後、膝を軽く曲げます。足に力を込めている様に私には見えました。


 瞬間 モニカの足元が爆ぜました。


ドン────ッッ!!


 モニカの蹴った地面が軽く陥没します。その凄まじい力の反動でモニカの体をゴーレムの中心目掛けて飛び上がりました。


「ひりゅうそぉー」


 後で説明しますが。飛竜気を纏った飛燕気必殺の一撃です。使っている人を見た事がありません。


ズッカカカァァァッァァァァァン!!!!! ピシィッ!!


 激しい衝撃音と共にゴーレムの巨体がよろめきます。胴体の中心に微かなヒビが入った様に見えました。


 モニカは槍を突き出し後、距離を取る様に横に跳び上がります。相当の気を使ったのか、槍が元の小さい槍へと姿を変えていました。

 空中に跳び上がっているモニカは、私を見て微笑みます。


「後はぁお願いしていいかしらぁ」


 モニカの思いに、答えなければいけません!


「任せて! モニカ!!」


 私は右手に持つ杖を、振り払う様にゴーレムに向けました。


闇玉ダークボール!!(巨大高速回転)」


 ギュゥゥゥゥォオオオオオオンン!!!


 バ──────ッッッッコオオオオオオン!!  ズズズゥゥゥウウウウン!!


 巨大な弾丸の様な闇玉がメタルゴーレムの胴体を軽々と貫きます。メタルゴーレムの体が上下に分かれ、落ちた上半身が大地を揺らします。想像以上の揺れに少し驚きます。ゴーレムはかなり重量があるのかもしれません。


 もっと胴を中心に粉々になるかと思ったんですが、上半身と下半身が分かれただけでした。貫通力が高すぎたのかもしれません。もしかして、重量があるだけでそんなに硬くないのかもしれません。あるいは、モニカの攻撃ですでに破壊寸前だったのかもしれないです。


「あらぁ……レティすごいのねぇ……メタルゴーレムさん一撃なのぉ……」


 モニカは言いながらフラリと両膝を突きました。かなり無理をしたのかもしれません。

 私はモニカに駆け寄り、その体を支えます。


「私がすごいんじゃないです。モニカの槍で、ほとんど壊れる寸前だったんだと思いますよ」

 モニカがここまで気を込めた一撃です。ゴーレムの防御力を上回ったのでしょう。

 

 ズズズッ


 地面をこする様な音に、私は二つに分かれたメタルゴーレムへと視線と移します。


『レティシア!! ダークシールド!!』


 文字が見えました。上半身だけのメタルゴーレムが振り上げた腕を今まさに下ろそうとしています。


 ────────ッッ!!


「ダークシールド!!」


 鑑定眼の文字がなければ、私は振り上げられた腕を見た時硬直したと思います。完全に倒したと思っていました。上半身だけで動けるなんて微塵も考えていなかったのです。私が状況を判断するまでの 間 をなくしダークシルドを展開出来たのは、鑑定眼のおかげでした。


 それでも咄嗟に出したダークシールドは完全ではなく、ゴーレムの腕は受け止めたものの、衝撃を無効化する事は出来ずモニカを抱きしめたまま吹き飛ばされます。


「うっくぅ!!」


 凄まじい速度の分厚い綿に体当たりされた感じです。局所的な痛みではないのですが、ミシっと骨が軋んだ音がします。


 地面をこする様にかなりの距離を吹き飛びました。


 体の動きが止まり、抱き抱えたモニカが無事なのを確認し、私はすぐに痛む体を起こそうとします。

 私の油断で、モニカを危険な目に合わせてしまいました。鑑定眼も、しぶといと。止めを刺せと言ってくれていたのに……!


 もう仲間を危険な目にあわせるものか


 私の心にある思いは、それだけでした。


「レティ!? 大丈夫っ!?」


 グググ と立ち上がりゴーレムと相対する私にモニカが声をかけてくれます。

 モニカは体を起こすのも辛いのでしょう。両肘を支えにする様に仰向けの体を起こそうとしています。


 今まで感じた事のない。現実味を帯びた可能性が、私の頭の中を電流の様に駆け巡ります。


 私がやらなきゃ。モニカが死ぬかもしれない


「モニカ。少し待っててね。大丈夫」


 私は左手に杖を持ったまま右手を掲げます。

 ズズズズ っと掲げた右手の上に、輪切りにした様な丸い闇の霧がゆっくりと動きます。


 丸い闇が前から後ろに動いていくと、その中心には一本の黒い槍が先端から徐々に形を生成しています。


 私が生成しているのは、闇魔力で作る槍です。


 そこにモニカがいたからだと思います。頭に生える月下美人を傷つけない様に、鋭く。しかし強く。ゴーレムの顔面を撃ち抜けるものを生成しようと思ったら、自然と槍の形が頭に浮かびました。


 キュィィィィィン!!!! キュィ!! キュ───────ッッッン!!!


 勿論そのまま放つつもりはありません。回転も加え確実に貫いてみせます。月下美人を傷つけない様にゴーレムを倒します。


 ゴーレムは両手で這う様に此方に向かってきてます。


 ズゥン! ズゥゥン!!


 手が地面に接触する度に、その重さを語る様な重低音が響きます。


 止めを刺します。


 モニカを死なせません。これ以上危険な目にあわせません。


 私に出来た 初めての仲間です


 私は槍を投げる様に構え、掲げた腕を前方に振り下ろします。


「ダークランス……」


 パパッパッ!! ヒュ──────!!  ズン────ッッッッッッッッ!!!


 空気を槍が貫き、中空に空気の穴を3つ程描きます。私が腕を振り下ろしたとほぼ同時にゴーレムの顔面に大きな穴が空きました。


 地面を這おうと持ち上げていた腕が崩れ落ちたのは、その後でした。


 ズズズゥゥゥン!!


 その瞬間


 バッカアアアァァァァアアンンン!!!


 ゴーレムを倒す。それだけに意識を集中していた私も、目の前の光景に意識を引き戻されました。


「うえええええええええぇええぇぇ!!?」


 何故かメタルゴーレム 爆 散


「なんでぇぇええぇええぇぇ!!?」


 げげげ、げっかびじんげげっかびびじんはぶぶぶぶじですかかあぁあ!?!?


「あらぁ……木っ端微塵ねぇ……」


「なぁぁぁんでえええぇぇぇぇぇええ!?!?」


 月下美人が木っ端微塵になっていない事を祈りながら、私は叫び、爆散したゴーレムがいた場所へと走りました。


 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ