声
『良く魔石を見つけてくれました』
黒い世界で声だけが響いています。
私の体は動きません。目も開ける事が出来ません。声だけが頭に響きます。
『今の世界では生命力が一時的に濃くなる特別な時にしか 魔石を世界に作り出す事が出来ませんでした』
何も出来ない私は声に耳を傾けます。目も開けれず体も動かないにも関わらず、怖いと思う気持ちはありません。不思議と心は落ち着いています。暖かい何かに包まれている様です。
『初めての 可能性が この世界に出来ました』
初めての可能性? なんの話をしているのでしょう?
『耳で目で体で心で 全ての話を聞きなさい』
私は話の内容を掴む事ができません。
声は話を続けます。誰にですか? 何の話をですか? 貴方は誰ですか? 私の頭に言葉は浮かぶものの口を動かす事が出来ません。
私は『声』を聞く事しか出来ないのです。
『あの方にも話を聞くべきでしょう もう誰も信じていませんが 貴方の声ならばあるいは……』
あの方? 誰の事を言っているのでしょう。
『貴方は可能性なのです その道を進めば世界は滅びるかもしれません 貴方が決めるのです』
声が徐々に聞こえなくなっていきます。聞きたい事が、声に出したい言葉があるのに、私の口は動いてくれません。
『闇の聖女 貴方が歩む道の先が 未来です』
私は深い深い水の底へと沈む様に、意識の底へと沈んでいきました。
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ふっ と目を覚まします。
目を開ける事出来ました。ゆっくりと体を起こそうとすると、体を動かす事が出来ます。
先程動かなかった体とは違い、すんなりと意志通り動かせる体。体を起こしキョロキョロと辺りを見渡します。隣には静かな寝息を立てるマゥさんがいます。枕元にはうーたんもすやすやと丸まりながら眠っています。
「夢……ですよね?」
窓の外から淡い光を感じ、窓の外に視線を向けると、樹木が薄く光っている気がします。
私は立ち上がり家の扉を開けました。
家の傍らにある樹木は、やはり薄く光っていましたが、光は弱々しく今にも消えてしまいそうです。
私は樹木に近寄ると、初めて来た時と同じように手の平を添えます。暖かい何かが手の平に伝わってきます。まるで手の平同士を重ね合わせている様な感覚です。
「さっきのは貴方ですか……?」
多分。そうだろうと私は思います。夢の中で感じた不思議な暖かさは、手の平に伝わる暖かさとよく似ています。
樹木はそよ風に吹かれ、サワサワと音を立てます。
この樹木は世界樹の苗を育てた木。世界樹の所に行けば何か分かるのでしょうか?
樹木は声を返してはくれません。光は今にも消えようとしています。
「自分自身で、話を聞くんですね……?」
夢で言われた言葉を問いかけると ぽぅ っと樹木が光り。光は消えました。
なんとなく、話を聞くのが先の気がしますね。
私は樹木にもたれかかりながら、その場に すとん と座り込みます。
「その道を進めば、世界は滅びるかもしれない……」
どういう事でしょう。光の破壊者が復活しても戦わない道と言う事でしょうか?
考えれば考える程に、分からなくなります。マゥさんの話を聞いて自分の中で形作ろうとしていた伝説の話。それがまたぐにゃぐにゃと形のない物へと変わっていってしまった気がします。
「話を聞くしかないのでしょうね」
世界樹が何千年も前から存在している事。光の破壊者が世界樹を壊さない理由。世界の境に何故世界を破壊するのか。生命力の話。人がエサだと言う話も。分からない事だらけで困ってしまいます。
光の破壊者が現れると言う話も確たる話ではないのです。
「次はエルフ族に話を聞かないといけませんね」
エルフ族に会うには海を越えてラースカド大陸に向かわなければいけません。大森林と言われる森の奥にエルフ族の町が存在しています。
「世界は分からない事だらけです」
ポツリと呟くと、樹木が嬉しそうに微笑んだ気がしました。